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ここ最近イギリスのスナク首相の動向が気になる。もっと具体的に言えば、スナク首相と彼の取り巻きの、特に有色人種の権力者らの動きだ。

スナク英首相は先日、英国を訪問中だったギリシャのミツォタキス首相との会談をドタキャンした。

ミツォタキス首相は、会談の直前に行われたBBCとのインタビューの中で、「大英博物館所蔵のエルギン・マーブル彫刻群”は、ギリシャのパルテノン神殿から盗み出されたものだ」と発言した。

スナク首相はミツォタキス首相に歴史的事実を指摘されて逆切れ。返還はイギリスの法律によって禁止されている、と主張し一方的にギリシャ首相との会談を取り消した。

盗人猛々しいとはこのことだろう。パルテノン神殿から彫刻群を盗み出すのはギリシャの法律で禁止されている。それを犯して持ち去ったイギリスの外交官をギリシャが指弾し盗品の返還を求めるのは当然だ。

ミツォタキス首相は、返還を求めるギリシャ政府の姿勢は今に始まったものではなく、かねてから表明された周知のものだ。また人は自分の見解が正しく公正だと確信していれば、反対意見を恐れたりはしない、としてスナク首相の態度を痛烈に批判した。

ミツォタキス首相の見解はまっとうなものだ。イギリスの歴代首相はギリシャの要求に対しては一貫して拒否してきたが、痛いところを突かれて逆上した者はいない。

むろん首相同士の会見を、視野狭窄そのものとしか見えない形でキャンセルするなどの傲岸な行動に出る者もいなかった。

スナク首相はハマスvsイスラエル戦争に関しても、強者のイスラエル擁護に狂奔している。弱者のパレス人への思いやりのひとかけられも感じられない一方的な動きは見苦しい。

もう一人腑に落ちない有色人種の権力者がいる。ハマスvsイスラエル戦争で、パレスチナを支持する人々を「暴徒」「ヘイト犯罪者」などと批判して、職を解かれたスエラ・ブレイバーマン内相である。

彼女はリズ・トラス内閣でも内務大臣を務めたが、強硬な反移民政策を推し進めて批判され職を辞した。

ブレイバーマン前内相はスナク首相と同じくインド・パキスタン系移民の子供だ。ところが自らの同胞を含む難民・移民には極めて厳しい態度で臨む。必要以上に冷酷、と形容してもいい。

英国社会には峻烈な人種差別がある。しかもそれはあるかなきかの密やかな様態で進行する。例えばアメリカのそれとは大きく違う。

アメリカは人種差別が世界で最も少ない国である。

これは皮肉や言葉の遊びではない。奇を衒(てら)おうとしているのでもない。これまで米英両国に住んで仕事をしその他の多くの国々も見聞した、僕自身の実体験から導き出した結論だ。

米国の人種差別が世界で一番ひどいように見えるのは、米国民が人種差別と激しく闘っているからだ。問題を隠さずに話し合い、悩み、解決しようと努力をしているからだ。

断固として差別に立ち向かう彼らの姿は、日々ニュースになって世界中を駆け巡り非常に目立つ。そのためにあたかも米国が人種差別の巣窟のように見える。

だがそうではない。自由と平等と機会の均等を求めて人種差別と闘い、ひたすら前進しようと努力しているのがアメリカという国だ。

長い苦しい闘争の末に勝ち取った、米国の進歩と希望の象徴が、黒人のバラック・オバマ大統領の誕生だったことは言うまでもない。

物事を隠さず直截に扱う傾向が強いアメリカ社会に比べると、英国社会は少し陰険だ。人種差別は、先述したようにさり気なく目立たない仕方で進行する。

人々は遠回しに物を言い、扱う。言葉を替えれば大人のずるさに満ちている。人種差別でさえしばしば婉曲になされる。そのため差別の実態が米国ほどには見えやすくない。

差別があからさまには見えにくい分、それの解消へ向けての動きは鈍る。だが人種差別そのものの強さは米国に勝るとも劣らない。

人種差別の重篤な英国社会でのし上がった有色人種のスナク首相やブレイバーマン前内相は、もしかすると彼らを差別した白人に媚びて同胞に厳しく当たっているのではないか、と見えたりもする。

媚びるのは2重の心理的屈折があるからだ。一つは有色人種の難民・移民は「私も嫌いだ」と白人に示して仲間意識を煽ろうとする心理。もう一つは同じルーツを持つ人々を拒絶して、(自らが参入することができている)白人支配層の権益守りたい、という願いからの動きである。

後者には実利もある。白人の権益を守れば自分のそれも庇護され上騰するからだ。

保守党の有色人種の権力者である彼らは、元々のイギリス人、つまり白人よりもより強い白人至上主義似の思想を秘匿していて白人の保守主義者よりもさらに右よりの政治心情に傾くよう

昨年10月、リシ・スナク氏が英国初の非白人の首相として颯爽と就任演説を行う様子を、僕は同じアジア人として誇らしく見つめた。

政治的には相容れないものの、彼が白人支配の欧州で少数派の有色人種にも優しい眼差しを注ぐことを期待した。

だがその期待は裏切られた。彼の政治手法は僕が密かに懸念していたように、いわば“褐色のボリス・ジョンソン”とも呼ぶべき彼の前任者に似た白人至上主義系の仕様に親和的なものだった。

彼はまた、自らと同じ人種系列のスエラ・ブレイバーマン氏を内務大臣に招聘した。ブレイバーマン氏は“赤銅色のドナルド・トランプ”とでも呼びたくなるほど、弱者への差別的な言動が多い人物だ。

アジア人且つ黄色人種でありながら、意識してまた無意識のうちにも自らを白人と同じに見なす日本人は、表が黄色く中身が白い「バナナ」である。

そうした人々は、往々にしてネトウヨヘイト系排外差別主義者だが、それは権力者も一般人も同じだ。イギリスのネトウヨヘイト系の差別排外主義者の大物が、つまりスナク首相やブレイバーマン前内相、と考えれば分かりやすいかもしれない。

「バナナ」と同じ心理状況にあるらしいスナク首相やブレイバーマン氏は、さしずめ表が褐色で中身が白い「ココナッツ」でもあるか。

スナク首相やブレーマン前内相は、厳しい人種差別の眼差しを撥ね返してイギリス社会で出世した。あるいは自らのルーツを嫌い同胞を見下し彼らにつらく当たる手法で出世の階段を昇った。

出世した彼らは同国のエリートや富裕層がひしめく保守党内でものし上がった。階段を上るに連れて、彼らは白人の保守主義者よりもより白人的な、いわば白人至上主義者的な保守主義者になって行った。

そこには有色人種としての劣等感と自らを劣等ならしめている物を厭う心根があった。彼らが白人の保守主義者よりも移民や難民またパレスチナ人などの弱者に冷たいのは、先に触れたように屈折した心理ゆえと考えられる。

アメリカの保守主義勢力、共和党内にも有力な有色人種の政治家はいる。例えばコリン・パウエル元国務長官、コンドリーザ・ライス元国務長官などだ。またロイド・オースチン現国防相も黒人だ。

アメリカの有色人種の権力者たちは、イギリスの同種の人々とは違って誰もが穏やかだ。あるいは常識的だ。それはアメリカ社会が、紆余曲折を繰り返しながらも、人種差別を確実に克服して行く明るい空気の中にあるせいかもしれない。

片やイギリスの有色人種の政治家の猛々しい言動が、攻撃的な中にも絶えず悲哀と憐憫のベールをまとっているように見えるのは、恐らくアメリカとはまた違う厳しい社会状況が生み出す必然、と感じるのは僕だけだろうか。






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