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欧州議会選挙は大方の予想通り右派が勝利した。フランス、イタリア、オーストリアなどでは極右政党が躍進。

フランスではライバルのマリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合」に大敗したマクロン大統領が、議会下院を解散して今月末に総選挙を行うと発表。世界を驚かせた。

極右のさらなる躍進を阻もうとする動きであることは明らかだが、裏目に出てマクロン大統領はいま以上の窮地に追い込まれる可能性も高い。

イタリアはメローニ首相率いる極右政党、イタリアの同胞」が勝利した。これも予測通りである。その他の国々でも極右と形容される政党の躍進が目立つ。

選挙直後から旅をしているここポルトガルも、右へならえ状態。カーネーション革命から50年の節目の年だが、極右への拒絶反応が薄まり欧州全体の右傾化の流れに吞み込まれた格好だ。

欧州の極右勢力は全体の2割程度にまで拡大している。それは言うまでもなく憂慮するべき事態だが、彼らはそれぞれが自国に閉じこもって勝手に主張しバラバラに行動することが少なくない。

その辺りがまさしく「極」の枕詞がつきやすい政治集団の限界である。街宣車でわめき散らす日本の極右などと同じで、彼らは蛮声をあげて威嚇を繰り返すばかりで他者を尊重しない。

従って相手の言い分を聞き、会話し、妥協して協力関係を築き上げる、という民主主義の原理原則が中々身につかない。

そのために彼らは欧州内にあってもそれぞれが孤立し、大きな政治の流れを生み出すには至らない場合が多かった。だが今後は団結する可能性も出てきた。

流れが変わって、過激政党がお互いに手を組み合うようになれば、欧州は危なくなる。欧州の極右の躍進は、11月の米選挙でのトランプ返り咲きを示唆しているようにも見えてうっとうしい。

一番気になるのは、ドイツ極右のAfDが度重なるスキャンダルを跳ね除けて勢力を伸ばしたことだ。欧州の極右政党の中で最も危険なのがAfDだ。

AfDはドイツ国民の過去への真摯なそして執拗とさえ見える頻度の謝罪と、全面的かつ徹底した総括を経た後に誕生した。

彼らはドイツの良心が煮詰まった挙句に生まれた醜悪な滓のようなものであり、極右思想やナチズムは決して死なないことを証明している。

だがそのAfDでさえも将来、万が一政権の一翼を担うことがあれば、たとえばイタリアの極右が政権を握って軟化したように穏健化する可能性が高い。

しかしながらそれは、ドイツ国内のEU懐疑主義への流れを加速させ、その結果欧州の結束が弱まる可能性が高い。それが最も憂うべきことだ。

人々の怒りをあおり、憎しみの火に油を注ぎ、不寛容の熾き火を焚きつけるのが得意な彼らの悪意は、易々と世の中を席巻する。歴史がそれを証明している。

従って彼らは拡大する前に抑え込まれたほうがいい。放っておくとかつてのヒトラーのNSDAP (国民社会主義ドイツ労働者党 )、つまりナチスのごとく一気に肥大し制御不能な暴力に発展しかねない。

とはいうものの、繰り返し強調しておきたい。欧州の今この時の極右勢力はヒトラーのナチズムやムッソリーニのファシズムと同じではない。

悪魔の危険を知り、悪魔ではないように慎重に行動しようとする悪魔が、現今の欧州の極右なのである。

そうはいうものの、狡猾な悪魔も悪魔には違いないのだから、極右モメンタムは抑さえ込まれたほうがいい。激流となって制御不能になる前に、その芽が摘み取られるべきである。




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