高市まとも顔

自民党総裁選レースを見るともなく眺めてきた。その過程で僕は、これまで強く批判してきた高市早苗候補への見方を変えつつある。

9人によるドングリの背比べレースを消去法でつづめると、彼女に日本初の女性首相という栄誉がもたらされてもいいのではないか、と考えるようになったのだ。ここ数日間での変心である。

きっかけはYouTubeチャンネルで偶然に見た高市候補のインタビュー映像だった。そこは高市候補に親和的な人物が管理しているらしいチャンネルで、彼女は終始リラックスした様子で自らの政治信条や政策や主張を語り続けた。

それらはきわめて明瞭な保守主義者の言説で、僕は心穏やかに耳を傾けた。

僕は自らの政治的スタンスをリベラル、また国際派の愛国者と規定する者だ。保守派の主張には賛成しないが、彼ら保守派が彼らなりの考え方で日本を良くしたいと願っていることを知っている。リベラルの僕も日本を愛する心情は彼らに引けをとらないつもりだ。

僕と彼らの違いは、「良き日本」という山の頂を目指して登る道程が同じではないというだけの話だ。保守は立派な政治思想であり、リベラルと同様に民主主義には欠かせない政治勢力だ。

一方で極右や極左と呼ばれる集団は、民主主義という道程を無視し破壊して、一息に頂上を目指そうとする。それはつまるところ過激主義であり、専制政治や独裁政治に至る危険な道だ。

僕はこれまで高市早苗氏を、安倍元首相の腰巾着であり、歴史修正主義義者であり、メディアを恫喝支配できると信じているらしい思い上がった思想の持ち主、とみなし批判してきた。

メディアの監視と批判に耐えられない政治家は首相になるべきではない。メディアを抑圧し制御できると考える政治家は、政治家でさえない。それは単なる独裁者だ。

高市候補にはそのように暗く危険なファシズム的気質がある。それはここイタリアのジョルジャメローに首相にも通底する個性だ。

高市候補は最初に見たYouTubeチャンネルインタビューの中で、総裁選に出馬し戦う動きの中では女性であることを意識しないとも強調した。彼女は選択的夫婦別姓制度にも反対だ。

だがそれではダメだ思う。彼女は女性であることを大いに意識し、彼女が日本初の女性首相になることは、日本の諸悪の根源である男尊女卑思想を一掃するための大いなる一歩、と位置づけて戦うべきだ。

高市候補がそうしないのは、彼女の岩盤支持者である保守強硬派の男らの反発を避けるのが狙いだろう。だが女性蔑視のメンタリティーが国の未来まで貶めることが確実な日本にあっては、女性であることを前面に押し出すことは重要だ。

高市候補に限らず、男に媚びることが多い日本の「オヤジ女性政治家」が、真に「男女を意識されない」一人の政治家と見なされるためには、女性であることに誇りを持ち、女性として自立し認められることが唯一の道である。

男を真似する「オヤジ女性政治家」は“フェイク”であることを、何よりもまず女性政治家自身が悟らなければならない。

僕は偶然に見たインタビュー番組に触発されて、総裁選レースを伝えるチャンネルを巡り高市候補の動静を追ってみた。

そこで発見したのは、どうやら彼女が危険な民族主義思想に凝り固まっただけの政治家ではないらしい、ということだった。

ネガティブな要素も多く抱えた高市候補だが、彼女は日本初の女性首相になるチャンスを与えられても良いのではないかと考え始めた。

それはここイタリアのメロ-ニ首相の例を思っての気持ちの変化だ。

メローニ首相は極右の「イタリアの同胞」を率いる右派の論客であり活動家だ。「イタリアの同胞はファシスト党の流れを汲み、党首のメローニ首相自身もネオファシストとのレッテルを貼られたりするほどの保守政治家である。

彼女は自らが2012年に立ち上げた小政党「イタリアの同胞」を率いて党勢を拡大させ、2022年総選挙で第一党に躍り出て、とうとう政権の座に就いた。

ところが彼女は首相に上り詰めると同時に激しいレトリックを封印し、険しい表情をゆるめ、女性また母親の本性があらわになった柔和な物腰にさえなった。

政治的にも極端な言動は鳴りをひそめ、対立する政治勢力を敵視するのではなく、意見の違う者として会話や説得を試みる姿勢が顕著になった。

彼女のそうしたたたずまいは国内の批判者の声をやわらげた。

高市候補はファシズム的な体質が似ている点を除けば、メーローニ首相とは似ても似つかない存在だ。メローニ首相が明なら彼女は陰、と形容しても良いほど印象が違う。

もっと言えば高市氏は、自ら率先して右翼運動を担うのではなく、例えば安倍元首相に庇護さて四囲を睥睨してきたように、威光を笠に着て凄むタイプだ。

一方のメローニ氏は自ら激しく動いて道を切り開くタイプの政治家である。

それでも高市候補は、日本初の女性宰相になれば、その肩書きに押されて人間的にも政治的にも成長するかもしれない。

ジョルジャ・メローニ首相がそうであるように。

ならば高市候補にもにチャンスが与えられていい。

実現すれば、アメリカに史上初の女性大統領が誕生するよりも早く、日本は女性首相を誕生させて新しい歴史を作ることになる。

それはちょっと心躍る想像だと言えなくもない。



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