2019年からわが家の軒下で子育てを続けている鳥は、どうやら隼ハヤブサの仲間の長元坊チョウゲンボウのようだ。
そう判断するのは羽と体の全体が明るい茶色をしていることと、卵をほぼ常に4~5個産むからである。
イタリア語では鷹や隼ハヤブサのことを総じてFalco(ファルコ)、そのうちの小型のものを一律にFalchetto(ファルケット)と呼ぶ。そしてFalchettoは日本語では隼ハヤブサと訳されることが多いようだ。
そこで僕も“同じ屋根の下に住む”猛禽類の家族を、まとめて隼ハヤブサと呼ぶことにしている。
僕の感覚では隼ハヤブサも鷹の一種だが、学術的には隼ハヤブサは鷹ではなく、ハヤブサ目ハヤブサ科に属する猛禽類である。
猛鳥は2019年以来ずっとわが家の軒下で巣作りをしている。家は落ちぶれ貴族の古い大きな館である。巣までの高さは10メートル近くある。
館の屋根裏は広い倉庫になっていて、周囲に20あまりの通風孔がうがたれている。隼ハヤブサは当初、そのうちの一つの照明が設置されている孔に巣を作った。
2020年から2023年にかけては、コロナ禍もあって僕の気持ちはあまり鳥の巣に向かわなかった。心も体もコロナ禍疲れをしているというふうだった。
それでも2023年、隼ハヤブサが南屋根の通風孔から東屋根の孔の一つに移動して、巣作りをしていることを確認した。
2024年には少し撮影もした。
そして猛禽はことしも同じ通風孔に巣を構えた。
それとは別に僕は大きな発見をした。
かつて通風孔のほとんど全てで鳩が営巣をしていた。それが一羽も見えないのである。明らかに隼ハヤブサの存在が鳩を遠ざけている。それはありがたいことである。
鳩は通風孔を塞いで営巣するばかりではなく、屋根裏にまで侵入して飛び騒ぎ、糞を撒き散らし、羽毛を散乱させて倉庫全体を汚しまくる。
それを防ぐために通風孔には金網か掛けられているが、鳩はその金網さえ器用に避け、押し入り、飛び越え、ついには破壊さえして闖入する。
僕は糞害にはじまる鳩の迷惑行為に悩まされ続けてきた。ところが2025年現在、鳩は一切通風孔に巣を作らなくなった。明らかに猛禽のおかげだ。僕はますます隼ハヤブサが可愛くなった。
ほぼ一週間前、つまり2025年6月3日の朝、3羽の雛のうち2羽が一つ隣の通風孔に移動しているのを見た。屋根裏から確認した後、外からも実見した。孔から孔へ飛び移ったのだと驚嘆した。
さらにその翌日、飛び移ったらしい2羽がそこの孔からいなくなり、元の巣孔に残された一羽だけが心細そうに外を眺めていた。
急いで屋根裏に回りスマホのレンズを向けた。大きくなった、だがまだ飛べないらしい雛が、じっと目を合わせてきた。シャッターを切って、そっとそこを離れた。
その翌日、屋根裏に行くと雛は巣立っていた。巣のあった孔もその隣の空間も空だった。
ところが話はそこでは終わらなかった。
なんと家周りの別の軒下を3羽の雛が歩き回っているのだ。彼らは飛び去ったのではなく、歩いて通風孔から通風孔へと移動していたのである。
それでも巣のあった孔から別の場所に移転しているのだから、それはやはり巣立ちと呼ぶべきなのだろう。
雛たちが今後どうなるのか興味津々だったが、その前に親鳥が餌を運び来るのかどうか、僕は少し気が気ではない思いでいた。
それも杞憂だった。親鳥は雛たちの側まで飛来して3匹を見守る。餌を与えているかどうかは確認できないが、恐らくそうしているのだろう。
6月9日現在、雛も親鳥も飛び去った。しかし、ぶどう園からわが家にかけての上空には隼ハヤブサ家族らしい鳥影がひんぱんに見える。
屋根の上に立てられたテレビアンテナに3羽が休んでいる姿さえ目視した。
そのうち遠くに飛ぶのだろうが、今のところ彼らは明らかにこの一帯を棲み処にして命をつないでいることが分かる。