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ロシアのプーチン大統領が先日、イラン-イスラエルの殺し合いの仲介役を買って出ようとするのを見て、僕は思わず「人非人のスパイが真人間ぶるな」と手術したばかりの目の痛みも忘れてつぶやいた。

そうはいうものの、しかし、とまた考えた。

プーチン大統領は、イランのハメネイ師とイスラエルのネタニヤフ首相の双方に太いパイプがある数少ない世界の指導者のひとりだ。

言うまでもなく彼はイランとより親しいが、例えばイスラエルの肩を持つばかりでイランとはあからさまに敵対しているトランプ大統領などとは違う。

プーチン大統領がいがみ合う2国の仲介をするのは、あるいは現実的な話かもしれない、などと思いをめぐらした。

するとすぐに、トランプ大統領がイランの核施設を攻撃して世界をあっと言わせた。

彼の策はいったん成功してイランとイスラエルは停戦に合意した。先は不透明だが、トランプ大統領の不意打ち作戦はとりあえず功を奏している。

同時に彼は戦争をしない大統領などではないことを、世界に向けてあっさりと白状した。

トランプ大統領の岩盤支持者らの妄信の一つは、彼が平和主義者であり決して戦争をしない大統領になるということだ。

だが核兵器開発を進めるイランの施策の是非はさておき、いきなり同国を攻撃したのは戦争以外のなにものでもない。

トランプ大統領はそのほかにも好戦的な指導者であることを示唆する多くの争点を提示している。

例えばメキシコの分割支配まで視野に入れているに違いない同国への言いがかり、カナダ併合案、グリーンランド略奪プラン、無理偏にゲンコツのパナマ運河分捕り計画。またガザを占領してリゾート地に作り変える謀計など。

トランプ大統領は気が違ったとしか見えない、だがそれが彼の本性である爆弾ヤンキーな主張を続けながら、並行して高額関税の鉄拳を振り回しては世界を無用に混乱させてもいる。

片やトランプ大統領と同じ世界のアキレス腱であるプーチン大統領は、NATOがロシアを侵略するという妄想に駆られて、ウクライナを占領しそこを楯にしようと考えた。

だがNATOのうちの特に西欧諸国には、相手(この場合はロシア)の動きを警戒しつつも、決してこちらから攻撃を仕掛けることはないという不文律がある。

欧州は対立を軍事力で解決するのが当たり前の、野蛮で長い血みどろの歴史を持っている。そして血で血を洗う凄惨な時間の終わりに起きた、第1次、第2次大戦という巨大な殺戮合戦を経て、ようやく「対話&外交」重視の政治体制を確立した。

それは欧州が真に民主主義と自由主義を獲得し、「欧州の良心」に目覚める過程でもあった。

僕が規定する「欧州の良心」とは、欧州が自らの過去の傲慢や偽善や悪行を認め、凝視し、反省してより良き道へ進もうとする“まともな”人々の心のことだ。

その心は言論の自由に始まるあらゆる自由と民主主義を標榜し、人権を守り、法の下の平等を追求し、多様性や博愛を尊重する精神と制度を生み出した。

良心に目覚めた欧州は、武器は捨てないものの“政治的妥協主義”の真髄に近づいて、武器を抑止力として利用することができるようになった。できるようになったと信じた。

その欧州、あるいは西側民主主義自由世界はかつて、プーチン大統領の狡猾と攻撃性を警戒しながらも、彼の開明と知略を認め、あまつさえ信用さえした。言葉を替えれば、性善説に基づいてプーチン大統領を判断し規定し続けた。

プーチン大統領は西側の自由主義とは相容れない独裁者だが、西側の民主主義を理解し尊重する男だ、とも見なされたのだ。

しかし、西側のいわば希望的観測に基づくプーチン観はしばしば裏切られた。

その大きなものの一つが、2014年のロシアによるクリミア併合だ。それを機会にロシアを加えてG8に拡大していたG7は、ロシアを排除して、元の形に戻った。

それでもG7が主導する西側民主主義自由世界は、プーチン大統領への「好意的な見方」を完全には捨て切れなかった。

彼の行為を非難しながらも強い制裁や断絶を控えて、結局クリミア併合を「黙認」した。そうやって西側民主主義自由世界はプーチン大統領に蜜の味を味わわせてしまった。

彼らはクリミア以後も、プーチン大統領への強い不信感は抱いたまま、性懲りもなく彼の知性や寛容を期待し続け、何よりも彼の「常識」を信じて疑わなかった。

「常識」のうちの最大のものが、「欧州に於いては最早ある一国が他の主権国家を侵略するような未開性はあり得ない」ということだった。彼らが考えるその欧州にはロシアも含まれていた。

ロシアも血で血を洗う過去の悲惨な覇権主義とは決別していて、専制主義国家ながら自由と民主主義を旗印にする欧州の基本原則を理解し、たとえ脅しや嘘や化かしは用いても、“殺し合い”は避けるはずだ、と思い込んだ。

ところがどっこい、ロシアは2022年2月24日、主権国家のウクライナへの侵略を開始。ロシアはプーチン大統領という魔物に完全支配された未開国であることが明らかになった。

プーチン大統領の悪の核心は、彼が歴史を逆回転させて大義のない侵略戦争を始め、ウクライナ国民を虐殺し続けていることに尽きる。

それに対する彼の言い訳は、「NATOがウクライナを取り込んでロシアに攻め込もうとしている」という迷妄だった。その妄想は彼自身の本性の写し絵である。

永遠のスパイであり猜疑心の塊であるプーチン大統領は、彼自身がいつでもどこでも他国を侵略し支配し搾取するつもりでいるように、NATOもいつかロシアを蹂躙すると思い込んでいる。

彼にはNATO構成国あるいは西側自由主義陣営が、血で血を洗う長い凄惨な歴史を経て、欧州の良心に目覚め他国を侵略しない境地に至ったことが理解できない。だからNATOの侵攻という妄想に囚われた。

だがそれは、欧州ではない「未開ロシア」の妄想に過ぎないのである。

ロシアは欧州の一部などではなく、同時にプーチン大統領は、民主主義の精神とはかけ離れた独善と悪意と暴力志向が強いだけの、異様な指導者であることが再確認された。

いとも簡単に戦争を起こし虐殺に手を染めるプーチン大統領が、別の紛争の殺し合いを仲介するというのは、どう見てもやはり醜悪なブラックジョークというほかはない。

トランプ大統領が突然イランを爆撃したのは、しかし ― イスラエルと足並みを揃えた状況を敢えて無視して考えれば ―ブラックジョークに怒ってプーチン仲介案を潰したという良心的な話ではむろんなく、仲介の手柄を自分のものにしたいという彼特有の幼稚な思惑に駆られたから、と考えるほうが納得しやすい。



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