
スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムでは、ベネズエラを侵略しマドゥーロ大統領を拉致し去ったトランプ狂犬大統領が、グリーンランドを武力攻撃してアメリカに併合する旨の宣言をするのではないかと見られた。
グリーンランドはデンマークの自治領である。そしてデンマークはアメリカと欧州の32カ国が加盟する軍事同盟、NATOの構成国だ。
トランプやりたい放題大統領のアメリカは、同盟国の一つを武力攻撃するかもしれないと恐れられたのだ。
NATOは集団的自衛権を謳っている。加盟国の一つが攻撃されれば全32カ国が攻撃されたとみなして反撃すると決めている。
つまりアメリカは、仲間の一国であるデンマーク(グリーンランド)を攻撃侵略して、これをわが物にするというわけである。それはNATOと戦争するにも等しい狂った行為だ。
無茶苦茶な論法は、 トランプ目つきが尋常でない大統領にかかれば無茶苦茶ではなく、彼独自のド正論になってしまう。
NATOは、つまり欧州は、恐れおののきつつ怒り、最終対立も辞さないと身構えた。
世界最大最強の軍事同盟が瓦解するばかりではなく、下手をすると内部で軍事闘争が起こる瀬戸際にまで立たされた。
ところがダボス会議に乗り込んだトランプいわく付き大統領は、グリーンランドは攻撃しない、またアメリカにたて突いている8カ国への関税も課さないと渋い顔で表明した。
そこに持ち込んだのは、NATOのマルク・ルッテ事務総長の手腕である。
ルッテ事務総長は、髪を逆立て吼えるトランプ鮫脳大統領をおだてのテクニックで懐柔した。事務総長にそっと寄り添ったのはイタリアのメローニ首相だった。
ダボス会議では、トランプ大統領を強く批判したカナダのカーニー首相の演説ばかりが大きく報道された。
カーニー首相は、欧州首脳らが腹に秘めていて、時々そっと披瀝するトランプ大統領への不満を正面きって言い募った。それは多くの欧州人の共感を呼んだ。
だからメディアが大きく取り上げた。
経済的には、いわば生殺与奪の権を隣国アメリかに握られていると言っても過言ではないカナダのカーニー首相は、その観点からは「トランプ蛇」ににらまれたカエルも同然である。
蛇が襲い掛かれば彼にはもはや失うものはなにもない。だから開き直ってトランプ大統領を痛烈批判する演説を行った。それは評価されていいアクションだった。
片やマルク・ルッテNATO事務総長は、トランプ大統領がダボスに乗り込む以前に秘密裏に彼と交渉をし続けたとされている。
ルッテ氏は、欧州の首脳の誰もがそうするようにトランプ大統領をひたすら非難するのではなく、彼を刺激しないようになだめ、すかし、ヨイショのテクニックで繰り返し説得。ついにたぶらかした。
ルッテ事務総長は、意見の対立が極めて多く分断と離反が日常茶飯事とされるオランダ政界を、首相として14年もの長きに渡ってにまとめ統率し続けた経歴を持つ。
今回は彼のそそ交渉根回しの才能が発揮された形だ。
一方でトランプ大統領を褒め殺す彼の手法は、卑屈に過ぎるという批判も多く呼ぶ。
だが米欧が深刻な対立に陥って、ついには武力行使にまで至りかねない瀬戸際でこれを救った彼の政治手腕は、もっと評価されて然るべきだ。
ルッテ事務総長に援護射撃をしたのは、先に触れたように、トランプ大統領にも近いイタリアのメローニ首相ほぼ一人のみである。
EUトップのフォンデアライエン委員長も、マクロン大統領も、メルツまたスターマーの独英両首相も、トランプ大統領を非難するだけで対立を回避するる行動を一切取らなかった、いや、取れなかった。
彼らは最終的にはトランプ大統領と決裂する覚悟さえ胸に秘めていた節がある。欧州の矜持と言えば聞こえがいいが、一触即発のきわめて危険な状態だったのだ。
ルッテ事務総長は、前述のようにトランプ大統領を説得してグリーンランドに武力行使はしない、関税も課さない、という言質を取った。そうやってNATOの分裂はいったん回避され戦争の危険も遠のいた。
マルク・ルッテ氏はもっと注目されて然るべきだ。
僕はルッテ氏がオランダ首相を退任したとき、彼の動きの潔さに感銘を受けて記事を書いた。彼の真価はそれ以上であることが今回明るみになった。もっとさらに注視して行こうと思う。
NATOつまり欧州とアメリカは、極めて強い緊張関係のストレスにさらされている。それはひとえに、トランプふと見るとヒトラーに似ていなくもない大統領の破戒僧的行動に原因がある。
ダボス会議ではルッテNATO事務総長の機転で危機はいったん回避された。だがそれは欧米間の深い溝が埋まったことを微塵も意味しない。
中国とロシアは舌なめずりをしながら、それ以外の世界は不安と恐れを身内に覚えながら、米欧の分断の行方を見つめている。
蚊帳の外に置かれているのは例によって、世界の果ての島の洞窟内で不安を極右政治勢力に委ねて騒ぐ、悲壮な若者群に呑み込まれて消滅しようとしてるようにも見える日本国のみである。
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