手術した眼窩脂肪ヘルニアの最終経過チェックがあった。
首尾は順調で、腫れはほぼ完全に引き、目の充血もうっすらと赤い程度にまで回復した。
元々目は充血しやすく、また狭心症の手術後ずっと服用している抗血栓薬の影響もあって治りが遅いとのこと。
視線を移動するとき少しの違和感があり疲れも覚えたりするが、それも時間経過とともに消えるだろう、という医師の説明がすっと腑に落ちたほどに気分は軽い。
執刀医のガブリエレ・B医師とも話した。彼は目の奥2cmまでメスで切り込んだという。僕は驚愕した。
手術前、全身麻酔をするのは予定よりも深くメスを入れなければならないからだ、という説明は受けていたが、目の奥を2cmも切り裂くとは思いもよらなかった。
臆病且つ無知な患者の僕は、改めてぞっとすると同時に現代医術の鮮やかなテクニックに三嘆した。
執刀医が顎顔面外科の権威アンドレアC教授の愛弟子であることも知った。C教授は、目にメスを入れる手術に尻込みする僕をなんなく説得して、その気にさせた張本人だ。
僕は教授が執刀するものと思い込んだが、実際には愛弟子が受け持ったのだった。手術後の経過はあまり良くなく、一時は不安になった。
しかし、今もかすかに残っている手術の影響による不調和は、たとえそのまま居すわっても耐え難い苦痛とまでは言えないだろう。
結局、手術は成功、と考えても構わないようである。
イタリアの医療レベルを疑わなくてよかった、と僕はひそかに胸をなでおろしている。
なお
目がひどく充血したり脂肪が目じりに突出したりしている間は眼科の診察を受けたが、除去するか否かを決める段階になってからは、顎顔面外科の担当になった。
眼科医の診たては、外観が悪いだけで支障はなく(僕の場合は充血がひどくなったりするとき多少の不快感はあった)、また脂肪の固まりは除去しても再形成される可能性が高いから手術は避けるべし、というものだった。
だが顎顔面外科のC教授は、悪化する可能性が高いから早めに除去したほうがいい、という方針で僕はそれに乗った。
結果、徹底除去するために全身麻酔をして目に深くメスを入れる術式になった。
脂肪の突出は2度と起こらないという執刀医の言葉を信じたい。