10月30日、6時間待ちの日本館の行列
閉会間際の10月30日、ようやくミラノ万博を観ることができた。同万博は10月いっぱいで閉幕するのが惜しい、と言われるほどの盛況だった。中でも日本館の成功は目覚 しいものだった。それなのにこの記事のタイトルをあえて「日本館の失敗」としたのは、万博随一の成功を収めた日本館はもしかすると、もっとさらに大きな成功 を収めることができたのではないか、と実際に会場に足を運んでみて感じたからである。
今年5月の開幕直後から日本館は大人気だった。10時間も待たなければ入場できない日もあり、その人気振りを伝えるニュースがさらに人気を呼んでますます盛況に なった。僕が訪れた日の日本館前も長蛇の列。待ち時間は6時間と言われて入場を諦めた。また閉会直前ということもあったのだろうが、広い会場の全体に人が 溢れていて、日本館前の長い行列が小さく見えるほどだった。
最終的な入場者総数は約2150万人、そのうち日本館へは200万人あまりが入場した。全体の1割にのぼる数字は地元のイタリア館などと並んで最大級であ る。それはもちろん大成功だ。展示デザイン部門では金賞も受賞した。しかし、多くの来場者が日本館に入れなかった、というのもまた事実である。僕の多くの 友人知己がそうであり、僕自身もそのうちの1人だ。
会場に立ってみて率直に感じたのは、たとえば日本館の内部の様子を大スクリーンで写し出すような仕掛けができなかったか、ということである。あるいは多く のモニターを日本館の外壁に設置する方法もあったのではないか。はじめからそういう形を取ることは無理だったかもしれないが、日本館が大人気で入場待ち時 間が毎日長くなる、と分かった時点でそういう形を考えても良かったと思うのである。
トルコ館オープンスペースの映像展示
その思いはトルコ館に接してさらに強くなった。それほどの人気があったとは思えないトルコ館では、オープンスペースにテントのような建物を設置して、その中で同国の食の風景を映像展示していた。 高画質の極めて美しい映像の連続に僕は思わず引き込まれて観賞した。高い技術力を持つ日本は、その気になれば恐らく、トルコ館に勝るとも劣らない映像展示もできたはずである。
ビジネスならば行列ができるのは良いことである。入場できないことがさらなる人気を呼んで差別化になり高級感につながって大儲けができる。しかし、日本館 の目的は日本の文化を世界に知らしめるこである。金儲けではない。従ってより多くの人々に内部の様子を見てもらった方が良い。10人に1人が入場したこと は誰もが認めるように大成功である。しかし、残りの9人は入場していない、あるいは入場できなかったのだ。
9人全員が日本館に入場したいと思うわけではないだろうが、大人気の日本館を覗いてみたいと考えた人はその中に5、6人はいたのではないか。あるいはもっ と多くいたかもしれない。それらの来場者にせめて中の展示の様子を見てもらえれば、訪問者数がさらに膨らむことになり日本の文化を告知するという目的により合致したと思うのである。さらに 言えば、インターネットを通じて日本館の展示を正式に大々的に世界中に配信する、という手もあったと思う。
そんなことをすれば、実際に日本館まで足を運ぶ人が少なくなる、という考え方もあるかもしれない。しかし、何時間も行列を作ってまで日本館を目指した人々 は、恐らく何があっても中を見たかった人々であった公算が大きい。従って来館者数はあまり変わらなかっただろう。また、たとえ映像を展開することで実際 に足を運ぶことを止めた人がいたとしても、映像を見て日本文化に興味を持ったり、その結果日本館に入場したいと考える人の数の方が圧倒的に多かったはずな のである。
それはスポーツのテレビ中継と観客の関係にも似ている。サッカーや野球などの人気スポーツは、生中継をすることによってさらに人気が高まって、球場に足を 運ぶファンが増える。同時に映像によってそれまで無関心だった人がそのスポーツに興味を持ち、ひいてはファンになるという相乗効果が起きる。日本館にもそ ういう現象が起きる可能性があった。それを思うと、日本館の成功を嬉しく思うと同時に、ちょっと残念な気もするのである。