目の中に脂肪の固まりが突出する病気、「眼窩脂肪ヘルニア」の手術を受けた。
僕の場合は痛みもなく、かゆみも何もなく、視力や視界にも支障がなかった。
少しの難点は鏡を覗くとき、脂肪の飛び出た左目がお岩さんみたいでコワイ、という程度だった。
だが、なかなか治る気配がないので検査を受けた。
何の支障もないのになぜそうしたかというと、母方の血筋で僕は目が弱い。なにかというと目が充血したり、かゆみが出たり、乾いたりする。
最も重要なものは緑内障のDNAを受け継いでいるらしいことだ。母も緑内障を発症し、姉妹にも伝えられて苦しんでいる。
僕にはまだその症状はないが、1年に1度の検査を欠かさず、2人の息子にもそうさせている。
手術を受けた左目は冷たい風に当たったり、少しこすったりすると簡単に充血する。脂肪の突起が出たのもそういう軽い面倒のひとつだろうと当初は思った。
だが緑内障の気がかりもあって、ついに検査を受けることにした。
緑内障そのものを疑ったわけではないが、目の腺病質に引きずられた格好だ。
有能な外科医として知られる眼科医師は、診て、すぐに摘出しましょうと言った。僕が不安な顔になったのだろう、その後すぐに「大丈夫ですよ。あなたをCECO(チェコ・盲目)にしたりはしません」と笑って続けた。
医師の言い方と表情には、僕の病気が深刻ではないこと、深刻ではないが将来の悪化の芽を摘み取っておきましょう。私が120%の確立でそれをやります。。とでもいうような圧倒的な自信と気遣いと誠意が感じられた。
僕はすぐに彼を信用した。
その後、日にちを分けて入院前の検査があった。そして居部麻酔で施術するということに決まった。
ところが、朝6時から始まった手術当日の面談や最終検査を経て、いざ麻酔を施す段階になった時に、医師が「全身麻酔で行きます。同意なさいますか」と訊いてきた。
臆病な僕は以前の検査で、できれば眠ったまま手術を受けたいと要望し、彼らはそれに反して局部麻酔を主張していた。それにもかかわらず今は全身麻酔に変わった。
「なぜ全身麻酔なのですか」僕は訊いた。
「脂肪の根が大きく、当初より深くメスを入れなければなりません。局所麻酔では痛みを起こす可能性があります」
全身麻酔に同意されますか、と医師はたたみかけた。
実は手術日は2度に渡って変更され、最終的には当初の4月末から6月12日に変わった。
手術日が延びたために病気が悪化したのではないか、と僕は内心で自問したが、それは口に出さず、
「皆さんがそう判断されたのなら従います。僕はまな板の上の鯉の気分ですから」
と答えたら、執刀医も麻酔医も助手も皆が声に出して笑った。
麻酔から覚めてみると、手術後の左目にはほとんど何の支障もなく、その後時間が過ぎて、麻酔が完全に切れた頃になっても痛みはなかった。
ベットから起きだして鏡を覗いても左目は充血さえしていなかった。
夕方、医師が回診に来て、帰宅したいならそうして構いませんと告げた。帰りたいと答えると、書類を準備すると言って去った。
そのほぼ一時間後、今後の自宅ケアの注意点と経過検査の日にちを聞かされて病院を後にした。
翌日、手術した眼がかなり充血しているが、痛みはほとんどない。
ただまばたきをしたり、視線を移動させると、眼球あたりにかすかなひっかかりがある。なのでしばらく眼帯ふうのガーゼを貼って過ごすことにした。
眼帯は病院が処方したものではなく、自分で勝手に購入し勝手に貼ったり剥がしたりしている。
そこからも分かるとおり、医師もまた本人も手術は成功し経過も問題なしと納得している。