【テレビ屋】なかそね則のイタリア通信

方程式【もしかして(日本+イタリ ア)÷2=理想郷?】の解読法を探しています。

あまりにも、イタリア的な・・

イタリア式新聞制作トリセツ


則のみ切り取り 679

先頃、ミラノに本拠を置くイタリア随一の新聞Corriera della seraから僕を取材したいという連絡があった。ここしばらく遠い昔にアメリカで賞をもらったドキュメンタリーが蒸し返されることが続いたので、またそのことかと思った。少しうんざりした、というのが本音だった。

ところが古い作品の話ではなく、イタリア・ロンバルディア州のブレシャ県内に住むプロフェッショナルの外国人を紹介するコーナーがあり、そこで僕を紹介したい、と記者は電話口で言った。断る理由もないので取材を受けた。

そうは言うものの、あえて今取材依頼が来たのは、やはり昔の受賞作品が見返されたことがきっかけだということは、記者の関心の在所や質問内容で分かった。だがそれは不快なものではなかった。記者の人柄が僕の気持ちをそう導いた。

発行された新聞を見て少しおどろいた。丸々1ページを使ってかつ何枚もの写真と共に、自分のことが紹介されていた。過去に新聞に取材をされたことはあるが、1ページいっぱいに書かれた経験などない。

アメリカで賞をもらったときでさえ、もっとも大きく書かれたのは日本の地方新聞。写真付きで紙面の4分の一ほどのスペースだった。多くの全国紙にも紹介されたが、本人への直接の取材はあまりなく、僕の名前と受賞の事実を記しただけのベタ記事がほとんどだった。

それなものだから、1ページ全てを使った報道に目をみはった。

雅則corierre縦1243

イタリアの新聞には顔写真が実に多く載る。これは自我意識の発達した西洋の新聞ということに加えて、人が、それも特に「人の顔」が大好きなイタリアの国民性が大きく影響している。彼らは人の個性に強くひきつけられる。そして個性と、個性が紡ぎだす物語は顔に表出される、と彼らは考えている。

文章は顔に表出された物語をなぞる。だが文章は、顔写真という“絵”あるいは“映像”よりももどかしい表現法である。絵や映像は知識がなくても解像し理解できるが、文章はどう足掻いても文字という最低限の知識がなければ全くなにも理解できない。

直截的な表現を好むイタリアの国民性は、彼らのスペクタクル好きとも関係しているように見える。イタリアでは日常生活の中にあるテレビも映画も劇場もあらゆるショーも、人の動きもそして顔も、何もかもがにぎやかで劇的で楽しい表現にあふれている。新聞でさえも。。

僕を紹介する記事は、若い頃の顔写真をなぞって物語を構成していて、記事にある東京、ロンドン、ニューヨークの景色は一切載っていない。僕が生まれ育った南の島の、息をのむように美しいさんご礁の海の景色でさえも。

記者にとっては、つまりイタリアの読者にとってはそこでは、海や街の景色や事物や自然よりも人物が、人物だけが、面白いのである。そして人物の面白さは顔に表れて、顔に凝縮されている。かくて紙面は顔写真のオンパレードになる。

若い自分の写真は面映いものばかりだが、幸い今現在の、成れの果ての黄昏顔もきちんと押さえてくれているので、どうにか見るに耐えられると判定した。

日本で結婚披露宴をしたとき、僕は黒紋付ではなく白を着たいと言い張った。歌舞伎役者を気取ったわけではなく、黒よりも白のほうが明るくて楽しいと思ったのだ。今となってみるとあれでよかったのだと思う。

ちなみにその披露宴場には、あらゆる色の紋付き袴が賃貸用に備えられていた。天の邪鬼は自分以外にもいるらしい、と思ったのを昨日のことのように覚えている。





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無能のレッテルを貼られて消え行く「永遠の都」の女性市長は永遠かも


ラッジ胸像


10月3日-4日に行われたローマ市長選挙で現職のヴィルジニア・ラッジ市長が落選した。

ラッジ氏は2016年、ローマ誕生以来2769年間続いてきた男性オンリーの支配体制に終止符を打った。

ローマは、オオカミに育てられた双子の兄弟ロームルスとレムスが、紀元前753年に建設して以降、常に皇帝や執政官や独裁官や教皇や元首などの男性指導者に統治されてきた。

生粋のローマっ子で当時37歳のラッジ氏は、彗星の如くあらわれて鋭い舌鋒で既存の政治家を糾弾。私がローマの全てを変える、と主張した。

当時ローマでは、前市長が公費流用疑惑で辞任し、市当局がマフィアと癒着していた醜聞が明らかになるなど、市民の怒りと政治不信が最高潮に達していた。

ラッジ氏は既成の政党や古い政治家を厳しく批判して支持を伸ばしていた反体制政党「五つ星運動」の所属。時節も追い風になって彼女は大勝した

ラッジ市長は、サラ金や麻薬密売を武器にローマにはびこる犯罪組織、カザモニカ(casamonica)を押さえ込んで市民の喝采を浴びた。

だが一方で、バスや電車に始まる公共交通機関の乱れや劣化する一方のインフラなど、ローマの構造的な腐食や疲弊には無力だった。

中でもゴミ問題に対する市の対応の遅れと拙さが厳しい批判を浴びた。ラッジ市長は「永遠の都」に日々積みあがっていく腐敗物を尋常に処理できなかったのだ。

ローマには街に溢れるゴミを目当てに、イノシシの群れが徘徊する事態まで起きた。それでもラッジ市長は有効なゴミ処理策を打ち出せなかった。驚くべき非力である。

彼女の奇態はそこでは終わらなかった。ラッジ市長は市内の公園や歴史的建造物の庭園で芝刈り機を使う代わりに、ヤギや羊また牛などを放牧し草や木々の葉を食べさせて清掃しようとした。

そうすることで財政難が続く永遠の都の台所を救い、環境保護にも資することができる。一石二鳥だ、と彼女は言い張ったのである。

そのアイデアは実は彼女独自のものではない。例えばパリやドイツのケルンなどでも公園などに羊を放牧して草を食ませ掃除をしている。欧州のみならず世界中に同じ例がある。

だが、ローマの場合には余りにも規模が大きい。ローマは欧州随一の緑地帯を持つ都市なのだ。導入する動物の数や管理に加えて、垂れ流す糞便のもたらす衛生健康被害を想像しただけでも実現は不可能と知れた。

市長の批判者は、そのアイデアはゴミをカモメに食べてもらう企画に続くラッジ市長の荒唐無稽な施策だ、と激しく反発した。

同時に彼らは「市長はやがて蚊を退治するためにヤモリの大群をローマに導入しようと言い出すに違いない」などとも嘲笑し愚弄した。

ラッジ市長は政治的には無能だったと僕も思う。世界有数の観光都市ローマの道端にゴミが溢れる状況を改善できないなんて、まさしく言語道断だ。

しかしラッジ市長は-例えば日本に比べれば遥かに進んでいるとはいうものの-欧米先進国の中では女性の社会進出が遅れているイタリアの首都の、史上初の女性トップだった。

ローマには何食わぬ顔で女性蔑視・男尊女卑を容認するカトリックの総本山バチカンがある。

カトリックは許しと愛と寛容を推進する偉大な宗教だが、ジェンダーに関しては救えないほどの古い思想また体質を持っている。

欧米先進国の中でイタリアの女性の社会進出が遅れているのはカトリックの影響も大きい。欧州の精神の核の一つを形成してきたローマは、ジェンダーという意味ではひどく後進的な都市なのだ。

古代の精神を持つそのローマで、ヴィルジニア・ラッジ市長という女性のトップが生まれた歴史的意義は大きい。

われわれは例えば、パリやロンドンやニューヨークなどの、欧米の他の偉大な都市で女性市長が誕生しても、もはや誰も驚かない。それらの都市は既に十分に近代的で「男尊女‘’」の社会環境にあるからだ。

ローマは違う。さり気なく且つ執拗に男尊女卑の哲学を貫くバチカンを擁する現実もあって、イタリア国内を含む他の欧州の都市のように近代的メンタリティーを獲得し実践するのは困難だった。

それが古来はじめて転換したのである。

転換の主体だったラッジ市長は、彼女の使命を終えて政治の表舞台から去ることになった。

彼女が任期中にたとえ多くの懸案を解決できなかったとしても嘆くことはない。

なぜなら厳とした男尊女卑の因習を持つイタリアで、初の「女性ローマ市長」になったラッジ氏の真の役割は、例えばアメリカ初の黒人大統領バラック・オバマ氏のそれに似た、歴史の分水嶺を示す存在であること、とも考えられるからだ。





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欧州初のコロナ地獄国イタリアが、欧州初の集団免疫獲得国になる?!


腕に射す700に拡大

イタリアのワクチン接種数が急増している。

政府が、10月15日から全労働者にワクチンの接種証明「グリーンパス」の提示を義務付ける、と発表したからだ。

イタリアはことし4月、欧州で初めて医療従事者にワクチン接種を義務付けた。

「グリーンパス」の提示を全労働者に義務付けるのも、欧州ではイタリアが初めてである。

医療従事者に「グリーンパス」の提示を義務付けたのは、全国民へのワクチン接種義務化を目指す伏線、と僕はずっと考えてきた。

だから今回それが全労働者へと拡大されても驚かず、いよいよ全義務化に向けた取り組みが加速した、と捉えた。

マリオ・ドラギ首相が、ワクチン接種の義務化を否定しない、と何かにつけて示唆しつづけていることも僕の推測の根拠になっていた。

また僕自身も、ワクチン接種を義務付けない限り、イタリアの集団免疫確保は困難だろうと考えていた。

イタリア国内に根強くあるワクチン懐疑論や、過激な反ワクチン勢力NoVaxの存在などが気になっていたからだ。

NoVaxは暴力行為や脅迫さえいとわない狂的な反ワクチン運動である。

ごく少数の過激な人々で構成されているが、声が大きく行動が過激な分、影響力も大きい。

反ワクチン派の大多数は、言うならば「ためらい」派あるいは「慎重」派である。

彼らは正しい情報と正確な言葉によって説得すれば、将来はおそらくワクチンの接種を受けるに違いない人々だ。

だが、SNS上にあふれるFake情報がそれを困難にし、NoFaxをはじめとする反ワクチン過激派のかく乱行為が事態を複雑にする。

それやこれらで僕は、イタリア全国民へのワクチン接種の義務化は避けて通れないもの、と考えてきた。

ところが、各労働者に「グリーンパス」の提示を義務付ける、という法律が成立するや否や、ワクチン接種の予約が急増した。

この調子で行くとイタリアは、あるいは欧州で初の「集団免疫獲得国」になるのかもしれない。

楽観的思考また希望的観測に過ぎないとは思うけれど。。





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南イタリアの異常気象の化けの皮


650一本の木と猛火

米気象学会は8月25日、昨年2020年のヨーロッパの気温が観測史上最高を記録したと発表した。

それは世界でも史上3番目に入る暑さだった。

スイス、ベルギー、フランス、スペイン、スウェーデン、ノルウェーなど、欧州の17カ国で史上最高気温となった。

一方、米海洋大気局(NOAA)によれば、ことし7月の世界の平均気温は16.73度となり観測史上で最も高かった。

7月は1年で地球が最も暑くなる時期。

2021年7月は例年にも増して暑くなり、142年間の観測史上で最も暑い月となった。

そうした流れの中で2021年8月11日、イタリアのシチリア島では欧州の過去最高気温となる48,8℃が記録された

それまで欧州で最も暑かった記録は、1977年にギリシャのアテネで観測された48℃である。

炎熱はアフリカのサハラ砂漠が起源の乾いた風と共にやってきた。

熱波と乾燥に伴って、シチリア島のみならずイタリア本土やギリシャ、またキプロスやトルコなど、地中海沿岸の国々に山火事が頻発して緊急事態になった。

8月25日までに焼失したイタリア全土の山林はおよそ15万8千ヘクタール。

その数字はイタリアの3大都市圏ローマとミラノとナポリを合わせた面積に匹敵する。

15万8千ヘクタールは、2017年全体の焼失記録およそ141,000ヘクタールを既に超えている。

なおイタリアでは 2018年に14,000ヘクタール、2019年には37,000ヘクタール、2020年には53,000ヘクタールの山林が灰になっている。

山火事は夏のイタリアの風物詩のような様相を呈しているが、他の国々とは違う陰鬱な顔も持っている。

ほとんどの山林火災が、放火あるいは人災として発生しているのである。

具体的には全体の54,7%が放火。13、7%が不慮あるいは人の不注意から来る事故。

一方で落雷などが原因の自然発生的な山火事は、全体の2%以下にとどまっている。

放火は多くの場合犯罪組織と結びついていると考えられている。

マフィア、ンドランゲッタ、カモラなどが、土地争いに絡んで脅迫や強奪を目的に火を点けたり、緑地を商業地に変えようとしたり、ソーラーパネル用の土地を獲得しようと暗躍したりする。

犯罪者の意図的な悪行とは別に、乾き切った山野また畑地などでは火災が容易に発生する。

例えば農夫が焼き畑農法の手法で不注意あるいは不法に下草に火を放った後に制御不能に陥る。

人々がバーベキューや炊事や湯沸かしの火を消し忘れる。

ドライバーが車の窓から火のついたままの煙草を投げ捨てて、乾き切った道路脇の枯草に引火する。

不埒な通行人が同じように煙草のポイ捨てをすることもある。

ほとんど雨が降らない7月から8月の間の南部イタリアの山野は、既述のようにアフリカ由来の高気圧や熱波に襲われて気温が高くなり空気が極度に乾いている。

砂漠並みに乾燥した山野の枯葉や枯草は、ガソリンのように着火しやすく一気に炎上して燃え盛るのである。

犯罪や事故による山林火災は昔から常に発生してきた。近年は地球の温暖化に連れて気温が上がり、山火事がより発生しやすくなっているとされる。

だが、南イタリアの山林火災に関する限り、気候変動を隠れ蓑にした犯罪者らの悪行のほうが、地球の温暖化そのものよりもより深刻、とさえ言えそうである。





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欧州選手権でイタリアが勝った理由(わけ)


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決勝までの歩み

2020サッカー欧州選手権はイタリアが1968年に次ぐ2度目の優勝を果たした。

イタリアの決勝戦進出は今回が4度目だった。

選手権では、ロベルト・マンチーニ監督の手腕によって再生したイタリアが活躍するであろうことを、僕は1次リーグの割と早い段階で予測した。

その予側は、“負けたら終わり“のトーナメント初戦で、イタリアがオーストリアを相手に苦戦した時に、僕の確信になった。

イタリアは青息吐息で勝ち抜いていく時にいつもとても強くなる。すらすらと相手を倒している場合にはコケることが多いのだ。

1次リーグではイタリアはトントン拍子で勝ち進んだ。3戦3勝で合計得点が7、失点が0というほぼ完璧にも近い戦いばかりだった。そこに少しの不安があった。

事態が順調に進み過ぎると、よく言えばおおらか、悪く言えば軽忽なイタリアチームは、ついつい調子に乗って油断する。

結果、空中分解する。失墜しない程度に苦戦し続けるほうが強いのだ。

イタリアは準決勝でもスペインを相手に苦戦した。のみならず、ボール保持率ほぼ70%対30%と大人と子供の試合のようなありさまだった。

それでもイタリアの伝家の宝刀・Contropiede(コントロピエデ=カウンター攻撃、逆襲)のおかげで120分を1-1で戦い終えて、PK戦を制し決勝進出を果たした。

決戦開始初っぱなの事故

イタリアとイングランドが戦った決勝戦では、試合開始2分足らずでイングランドが1点を先取した。

このとき多くのイングランドファンは勝利を確信し、同じ数だけのイタリアファンは敗北を意識したのではないか。

イタリアファンの僕はその時、20%の不安と80%の喜び、とまでは言わないが、8割方は平穏な気持ちで見ていたことを告白しようと思う。

むろん理由がある。

試合開始早々のそのゴールは、まさにイングランド的なプレースタイルが最善の形であらわれたものだった。

直線的で、速くて、高い身体能力が見事に表現されたアクション。

それこそがイングランドサッカーの最大の特徴であり、強さであり、良さであり、魅力である。

そして同時にまさにそれこそが、イタリア的プレースタイルのチームと相対したときのイングランドサッカー最大の欠点であり、誤謬であり、弱さなのである。

そして僕はこれまで何度も述べてきたように、そのことをもってイングランドサッカーは退屈と感じ、そう主張するのである。

そして退屈なサッカーは必ず敗北するとも。

いつか来た道

イングランドは分かりやすいように極端に単純化して言えば、長く速く高いボールを敵陣に蹴り込むのが得意だ。

それをフォワードが疾駆して追いかけ、捕らえてゴールを狙う。

そこでは選手のボールコントロール能力や技術よりも、駆けっこの速さと敵の守備陣を蹴散らす筋肉と高い身体能力、また戦闘能力が重視される。

決勝戦の初っ端のたった2分で起きた“事件”はまさにそういうものだった。

だからこそ僕は平穏にそれを見ていたのだ。

シュートとしたルーク・ショー は、イタリアのディフェンダーとは肉体的に接触しなかった。彼は高く飛んできたボールをほぼボレーに等しいワンバウンドでゴールに蹴り込んだ。

そうしたシュートはほとんどの場合成功することはない。空いているゴールの領域と角度があまりにも狭く、キックするアクションそのものも咄嗟の動きで、ボールの正確な軌跡は望めないからだ。

だがショーのキックは、タイミングを含む全てがうまくかみ合って、ボールは一瞬でゴールに吸い込まれた。

言うまでもなくそこにはイングランドのすばらしい攻撃力とショーの高いテクニックが絡んでいる。

だが、いかにも「イングランドらしい」得点の仕方で、デジャヴ感に溢れていた。

イングランドがそんな形のサッカーをしている限り、イタリアには必ず勝機が訪れることを僕は確信していた。

イタリアはやはり追いつき、延長戦を含む120分を優勢に戦って最後はPK戦で勝利を収めた。

イタリアの真髄

イタリアは、主に地を這うようなボールパスを繰り返してゴールを狙うチームだ。

そういう駆け引きの師範格はスペインである。

今このときのイタリアは、パス回しとボール保持力ではスペインにかなわないかもしれないが、守備力とカウンターアタックでは逆にスペインを寄せ付けない。

ボール保持を攻撃の要に置くスタイルを基本にしているサッカー強国は、イタリアとスペインのほかにフランス、ポルトガル、オランダ、ブラジル、アルゼンチン等々がある。

それらのチームはボールを速く、正確に、敵陣のペナルティエリアまで運ぶことを目的にして進撃する。

一方イングランドは、パスはパスでも敵の頭上を超える長く速い送球をして、それを追いかけあるいは待ち受けて捕らえてシュートを放つ。

繰り返しになるが単純に言えばその戦術が基本にある。それは常に指摘されてきたことで陳腐な説明のように見えるかもしれない。

そしてそのことを裏付けるように、イングランドも地を這うパス回しを懸命に習得し実践もしている。

だが彼らのメンタリティーは、やはり速く高く長い送球を追いかけ回すところにある。

あるいはそれをイメージの基本に置いた戦略にこだわる。

そのために意表を衝く創造的なプレーよりも、よりアスレチックな身体能力抜群の動きが主になる。

速く、強く、高く、アグレッシブに動くことが主流のプレー中には、意表を衝くクリエイティブなパスやフェイントやフォーメーションは生まれにくい。

サッカーはスポーツではなく、高速の知的遊戯

観衆をあっと驚かせる作戦や動きやボールコントロールは、選手がボールを保持しながらパスを交換し合い、敵陣に向けてあるいは敵陣の中で素早く動く途中に生まれる。

ボールを保持し、ドリブルをし、パスを送って受け取る作業を正確に行うには高いテクニックが求められる。

その上で、さらに優れたプレーヤーは誰も思いつかないパスを瞬時に考案し送球する。

そこで相手ディフェンスが崩れてついに得点が生まれる。

というふうな作戦がイングランドには欠けている。

いや、その試みはあることはあるのだが、彼らはやはりイングランド的メンタリティーの「スポーツ優先」のサッカーにこだわっている。

サッカーは言うまでもなくスポーツだ。だがただのスポーツではなく、ゲームや遊びや独創性や知的遊戯が目まぐるしい展開の中に秘められているめざましい戦いなのだ。

イングランドはそのことを認めて、「スポーツ偏重」のサッカーから脱皮しない限り、永遠にイタリアの境地には至れないと思う。

むろんイタリアは、フランス、スペイン、ブラジル、アルゼンチン、などにも置き換えられる。

またそれらの「ラテン国」とは毛並みが違いプレースタイルも違うが、ドイツとも置き換えられるのは論をまたない。





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イタリアの化けは本物かもかい?


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サッカー欧州選手権の第2戦で、イタリアがスイスを3-0で下して決勝トーナメント進出を決めた。

イタリアは2006年のW杯制覇で燃え尽き症候群におちいって不調になった。

2012年の欧州選手権では、マリオ・バロテッリの狂い咲きの活躍もあって、もしかしてトンネルを抜け出したかも、とも見えた。

だが、それはまぐれあたりというか、フェイントというか、要するに見かけだおしだった。

イタリアが絶不調から抜け出していないことは、決勝戦でスペインに4-0の大敗を喫したことでも分かるように思う。

欧州選手権の決勝戦で出た4点差という数字は、史上初の不名誉な記録でありそれはいまも生きている。

2012年当時のイタリアチームには、超一流のテクニックを持つファンタジスタのピルロが健在だった。

ピルロに続くファンタジスタに成長するはずだったカッサーノもいた。彼と前出のバロテッリの不作が、イタリアナショナルチームの長いスランプの原因のひとつ、とさえ僕は考えている。

またイタリアは鉄壁の守備を「カテナッチョ(カンヌキ)」と揶揄されるほどに守りが固い。それでいながら大舞台の決勝戦で4点も失点するのは尋常ではなかった。

まさに危機的な状況。調子のどん底で呻吟しているのは明らかだった。

イタリアは2018年のワールドカップ予選でも敗退1958年以来60年ぶりに本大会への出場を逃 した。

絶対絶命、という形容が大げさではないほどに凋落したイタリアチームを引き継いだのが、ロベルト・マンチーニ監督だった。

マンチーニ監督は、現役時代にはファンタジスタと呼ばれた一流選手だった。

監督になってからは、ミッドフィルダーとして培われた鋭い戦術眼を活かしてチームを指揮。次々に成功を収めた。

ファンタジスタ(想像力者)、レジスタ(創造者・監督)、フゥォリクラッセ(超一流の)などの尊称は、たとえばロベルト・バッジョやデル・ピエロ、はたまたフランチェスコ・トッティなど、ワールド・クラスのトップ選手のみに捧げられる。

マンチーニ監督も現役の頃はほぼ彼らに近い能力を持つ選手と見なされ、実際にサンプドリアというチームに史上初の優勝をもたらすなどの大きな仕事をした。

サッカー選手としての彼の力量は、繰り返すがバッジョやデルピエロにも劣らないと考えられる。だが、残念ながら人気の面では彼らに及ばなかった。

しかし、ロベルト・マンチーニにはバッジョやデルピエロをはるかに凌駕する能力があった。それが戦略眼とそれを選手に伝達するコミュニケーション力である。

だから彼は監督になり、優れた成績を残し、今後も残そうとしている。

その一方で、バッジョやデルピエロは監督にはなれなかった。彼らは監督に「ならなかった」のではなく「なれなかった」のでる。

マンチーニ監督は満を持してイタリアナショナルチームの指揮官になった。そして、すっかり零落したイタリアチームを鍛えなおした。

その結果が、2020年欧州選手権予選での10連勝であり、2018年の監督就任以来つづけている29試合連続負けなしの実績である。

マンチーニ監督は、次のウェールズ戦で勝てば30試合連続負けなしのイタリア記録に並ぶ。ここまでの戦いぶりを見れば、それは比較的たやすいことのように見える。

記録を達成することももちろん重要である。しかしマンチーニ監督とイタリアチームには、あくまでも優勝を目指してほしい。

優勝したときこそイタリアサッカーは、2006年以来つづく冬の時代を抜け出して、新たな歴史を刻み始めるに違いない。




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マフィアの因果はめぐる糸車~殺人鬼との司法取引の是非

ブルスカ逮捕切り取り650

2021年5月31日、マフィアの凶悪犯、ジョヴァンニ・ブルスカが刑期を終えて釈放された。

ブルスカは2016年と2017年に獄死したマフィアの大ボス、ベルナルド・プロヴェンツァーノとトト・リイナに続くコルレオーネ派のナンバー3とも目される。

ブルスカが犯した殺人のうちもっとも知られているのは、反マフィアの旗手だったジョヴァンニ・ファルコーネ判事の爆殺。

パレルモ空港から市内に向かう判事の車を、遠隔装置の爆弾で吹き飛ばしたいわゆる「カパーチの虐殺」だ。

また自らと同じマフィア内の敵への報復のために、相手の12歳の息子を誘拐して殺害し酸の中に遺体を投げ込んで溶かした。

そうすることで遺族は子供を埋葬できずに苦しみが深まると考えたのである。

ブルスカは1996年に逮捕された。そのとき取調官に「100人から200人を殺害した。だが正確な数字は分からない」と告白している。

彼は終身刑を受けたが、後に変心していわゆるペンティート(悔悛し協力する者)となり、マフィアの内部情報を提供する代わりに大幅な減刑を受ける司法取引にも応じた。

ブルスカが25年の刑を終えて出所したことに対して、イタリア中には賛否両論が渦巻いている。

彼を釈放するべきではないという怒りの声が大半だが、司法取引の条件が減刑なのだから仕方がない、という声も少なからずある。

秘密結社であるマフィアには謎が多い。ブルスカのような大物が司法協力者となって情報をもたらす意義は小さくない。

ブルスカの手によって殺害されたファルコーネ判事の姉のマリアさんは、ブルスカの釈放には人として憤りを感じるが、司法協力者となったマフィアの罪人を減刑するのは、弟が望んだことでもあるので尊重するしかない、と語った。

ブルスカのボスだった前述のリイナとプロヴェンツァーノは、マフィアの秘密を一切明かさないまま終身刑を受けて獄死した。

ブルスカもその同じ道をたどることができたが、司法に寝返った。

彼の告白は司法にとって重要なものだったとされる。同時にブルスカは全てを話してはいない、という否定的な意見もある。

いずれにしても100人以上の人間を殺害した男が、終身刑を逃れて釈放されるのは異様だ。

異様といえば、いかにもマフィア絡みの話らしい奇妙なことがある。

ブルスカは獄中から彼の犠牲者の遺族に謝罪するビデオを公開した。

ところがカメラに向かって話す彼の顔は覆面で覆われているのである。

彼の素顔は逮捕時にもその後にもいやというほどメディアその他で公開さている。いまさら顔を隠す意味がない。

それにもかかわらずブルスカは、ビデオの中でセキュリティーのためにこうして覆面をしている、と述べる。

不思議はまだ続く。

警官に囲まれて出所するブルスカは、左手で口のあたりを覆って顔を隠す仕草をしている。その絵が新聞の一面を飾っているのだ。

一連の出来事が示唆しているのは、ブルスカがおそらく顔の整形手術を受けていることである。

マフィアから見れば彼は司法に寝返った裏切り者だ。

ブルスカに恨みを抱く闇の世界の住民はたくさんいる、と容易に想像できる。

彼はマフィアの報復を避けるために警察の了解のもと、いやむしろ司法に強制されるようないきさつで整形手術を受けたと考えられる。

ブルスカは4年間の監視生活のあとで完全に自由になる。

その4年間はもちろん、その後も彼は常に警察の庇護を受けながら生きていくことになる。それが決まりである。

それでもマフィアの刺客の危険は付きまとう。しかもブルスカは自由人なのだから、護衛官は人々にはそれとは分からない形で彼を守り続けるのだろう。

ブルスカがひとりで行動することも増えるに違いない。だから顔の整形が役に立つ、ということではないかと思う。

しかし国家権力には慈悲などない。

権力は将来、ブルスカを庇護する価値がない、と判断したときにはさっさと彼を見離すだろう。

そればかりではなく権力は、整形のことも含めたブルスカに関する全ての情報を、彼の敵にバラしてしまうことも十分にあり得ると思う。




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マタレッラ大統領と反マフィア判事の接点


合成falcone&mattarella

1992523日17時半頃、ジョヴァンニ・ファルコーネ判事の乗った車が、シチリア島パレルモのプンタライジ空港を市内に向けて走り出した。

ファルーネ判事はマフィア殲滅を目指して戦うイタリアの反マフィア勢力の旗手。島の出身であることを活かして、闇組織との激しい法廷闘争を繰り返していた。

自動車道を時速約150キロ(140キロ~160キロの間と推測される 。判事の車はマフィアの襲撃を防ぐために常に高速走行することが義務付けられていた)で疾駆していた車が175648、凄まじい爆発音と共に中空に舞い上がった。

ファルコーネ判事と同乗していた妻、さらに前後をエスコートしていた車中の3人の警備員らが一瞬にしてこの世から消えた。

マフィアはそうやって彼らの敵であるファルコーネ判事を正確に葬り去った。

いわゆる「カパーチの悲劇」である

ほぼ2ヶ月後の7月19日、ファルコーネ判事の朋友で反マフィア急先鋒のパオロ・ボルセリーノ判事もパレルモ市内で爆殺された。

セルジョ・マタレッラ大統領はコロナ禍中の今日、パレルモ市内の刑務所のホールで催されたファルコーネ、ボルセリーノ両判事の29回目の追悼式典に参列した。

それはマタレッラ大統領の最後の式典参加になると見られている。彼の任期は来年2月まで。大統領は2期目の選挙への出馬は目指さない、とつい先日明言した。

マタレッラ大統領はシチリア島人である。そればかりではない。彼は家族をマフィアに殺された凄惨な過去を持っている。

1980年1月6日、シチリア州知事だった兄のペルサンティ・マタレッラがマフィアに襲われて死んだ。州知事は反マフィア活動に熱心だった。

それに反発した犯罪組織が刺客を送って知事に8発の銃弾を撃ち込んだ。

たまたまその場に居合わせたセルジョ・マタレッラは、救急車に乗り込んで虫の息の兄を膝に抱いたまま病院に向かった。

兄の体とそれを掻き抱いている弟の体が鮮血にまみれ車中に血の海が広がった。

そのむごたらしい出来事が、当時は学者だったセルジョ・マタレッラを変えた。

彼は兄の後を継いで政治家になる決心をした。

マフィアを合法的に殲滅するのが目的だった。3年後、かれは下院議員に初当選。

そうやって筋金入りの反マフィア政治家、セルジョ・マタレッラが誕生した。

2015年、セルジョ・マタレッラはイタリア共和国大統領に選出された。

マフィア撲滅を願う彼は、殺害された反マフィア判事らの追悼式にも毎年参列してきた。

シチリア島を拠点にするマフィアは、近年イタリア本土の犯罪組織ンドランゲッタやカモラに比べて陰が薄い。

だがそれはマフィアが消えたことを全く意味しない。

マフィアから見れば、新興勢力とも呼べるンドランゲッタやカモラが派手に活動するのを隠れ蓑にして、老舗の暗黒組織はむしろ執拗にはびこっている。

現にコロナパンデミック禍中では、マフィアが困窮した事業や一般家庭を援助する振りで取り入り、彼らを食い物にする実態なども明らかになった。

マフィアを完全に駆逐することは難しい。

それでも反マフィアの看板を下ろさないマタレッラ大統領は、あるいは来年からは市民のひとりとして、故郷の判事追悼式典に参加するのかもしれない。





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ベルルスコーニを許すイタリア人はワクチン抜け駆け接種者も斬り捨てない


イタリアを含むEU(欧州連合)のワクチン接種戦略は、宇紆余曲折をたどりながらもほぼ軌道に乗りつつある。

2021年、5月18日現在のイタリアのワクチン接種状況は:18.977.897人 人口の 31,82% 。このうち2回接種を受けた者:8.787.150 人口の14,73%

接種率約32%というイタリアの数字は、EU全域の数字と見てほぼ間違いない。

EU27ヵ国は共同でワクチンを購入し、人口に応じて公平に分配する仕組みを取っている。人口が多いほど受け取るワクチンの数は多いが、比率はほぼ同じである。

しかし国によって国民間の接種状況は違う。

ある国は高齢者への接種を優先させ、ある国は医療従事者への接種をまず徹底するなど、国によってワクチンの使い道は自由に裁量できるからだ。

例えばここイタリアでは医療従事者への優先接種を大幅に進めたあとで、80歳以上の高齢者への接種を始めた。

5月18日現在は、50歳代の国民への接種も開始されている。

ちなみに僕はワクチン鑑識表上は40歳~49歳をジジババ予備軍、50歳~69歳を若ジジババ、70歳~79歳をジジババ、80歳~99歳を老ジジババ、100歳~を超人老と呼んで区別している。

ワクチンの数が足りなかった2月から3月にかけては、順番や年齢を無視して抜け駆け接種をする不届き者の存在が問題になった。

僕の近くでも、介護で多くの老人に接することが多い、と偽って抜け駆け接種をした女性がいる。50歳代の彼女は他人の家で働くいわゆる家事手伝い。

長い間寝たきりだった夫を介護していた事実を利用して、あたかも他者の介護もする介護人資格保有者のように装い2月頃にワクチンの優先接種を受けた。

そのことがバレて近所で評判になったが、彼女は悪びれず「私は他人の家に入って清掃をするのが仕事。人の家だから感染のリスクが高い」と強弁してケロリとしていた。

似たようなことがイタリア中で起こった。4月初めの段階で、自分の番でもないのに割り込みで抜け駆け接種を受けた者は全国で230万人にものぼった。

中でも南部のシチリア、カラブリア、プーリア、カンパーニャ各州で割り込み接種が多く、4州ではそのせいで優先接種を受けるべき80歳代以上の住民の接種が大幅に遅れた。

そのうちナポリが州都のカンパーニャ州では、デ・ルーカ州知事自身が順番を無視して抜け駆け接種をしたことが明るみに出た。

批判を浴びると知事は、「カンパーニャ州は年齢順ではなく業種別に接種を進める」と開き直った。

南部4州に加えて、フィレンツェが州都のトスカーナ州でも割り込み接種が多かった。同州では80歳以上の人を尻目に接種を受けた不届き者が、弁護士や役場職員や裁判官などを中心に12万人にも及んだ。

似たようなことは、お堅いはずのドイツでさえ起こっている。例えば旧東ドイツのハレ市では、64歳の市長が優先接種の対象となっている80歳以上の人々を出し抜いてワクチン接種を受けた。

彼は「時間切れで廃棄処分に回されそうなワクチンを接種しただけ」と言い訳したが、規則に厳しいドイツ社会は抜け駆けを許さず、辞職を含む厳しい処分を受けると見られている。

同様な問題は日本でも起こっているが、ドイツほどの苛烈な批判にはさらされていないようだ。むろんイタリアほどひどくはないが、コネや地位を利用しての抜け駆け接種はやはり見苦しい。

その一方で、ドイツの厳格さも息が詰まるように感じるのは、よく言えばイタリア的寛容さ、悪く言えばイタリア的おおざっぱに慣れた悪癖なのかもしれない。

「人は間違いをおかす。だから許せ」が信条のイタリア人は、醜聞まみれのあのベルルスコーニさんも許し、ワクチン抜け駆け接種の狡猾漢も最終的には許してしまう。

人間が小さい僕は、どちらも許せないと怒りはするものの、結局イタリア人の信条にひそかに敬服している分、ま、しょうがないか、と流してしまういつもの体たらくである。




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イタリア解放記念日に佇想するファシズム

25 APRILE風船と白黒古合成


今日、4月25日はイタリアの「解放記念日」である。

解放とはファシズムからの解放のこと。

ドイツとイタリアは第2次大戦中の1943年に仲たがいした。日独伊3国同盟はその時点で事実上崩壊し、独伊は敵同士になった。

イタリアではドイツに抵抗するレジスタンス運動が戦争初期からあったが、仲たがいをきかっけにそれはさらに燃え上がった。

イタリアは同時に、ドイツの傀儡政権である北部の「サロ共和国」と「南部王国」との間の激しい内戦にも陥った。

1945年4月、サロ共和国は崩壊。4月25日にはレジスタンスの拠点だったミラノも解放されて、イタリアはムッソリーニのファシズムとドイツのナチズムを放逐した。

つまりそれはイタリアの「終戦記念日」。

掃滅されたはずのイタリアのファシズムは、しかし、種として残った。そしてコロナパンデミックで呻吟する頃来、種が発芽した。

極右政党と規定されることが多い「同盟」と、ファシスト党の流れを組むまさしく極右政党の「イタリアの同胞」がそれである。

「同盟」はトランプ主義と欧州の極右ブームにも後押しされて勢力を拡大。2018年、極左ポピュリストの「五つ星運動」と組んでついに政権を掌握した。

コロナパンデミックの中で連立政権は二転三転した。だが「同盟」も「イタリアの同胞」も支持率は高く、パンデミック後の政権奪還をにらんで鼻息は荒い。

彼らは決して自らを極右とは呼ばない。中道右派、保守などと自称する。だがトランプ主義を信奉し、フランス極右の「国民連合」 と連携。欧州の他の極右勢力とも親しい。

特に「イタリアの同胞」は連立政権に参加していないこともあって、より過激な移民排斥や反EU策を標榜してそれが支持率のアップにつながったりする。

欧州もイタリアも、そして地中海を介して移民の大流入と対峙しなければならないイタリアでは特に、移民排斥をかかげる極右政党には支持が集まりやすい。

極右とはいえそれらの政治勢力は、ただちにかつてのファシストと同じ、と決めつけることはできない。彼らもファシトの悪は知っている。

だからこそ彼らは自身を極右と呼ぶことを避ける。極右はファシストに限りなく近いコンセプトだ。よって彼らはその呼称を避けるのである。

第2次大戦の阿鼻地獄に完全に無知ではない彼らが、かつてのファシストやナチスや軍国主義日本などと同じ破滅への道程に、おいそれとはまり込むとは思えない。

だが、それらの政治勢力を放っておくとやがて拡大成長して社会に強い影響を及ぼす。あまつさえ人々を次々に取り込んでさらに膨張する。

膨張するのは、新規の同調者が増えると同時に、それまで潜行していた彼らの同類の者がカミングアウトしていくからである。

トランプ大統領が誕生したことによって、それまで秘匿されていたアメリカの反動右翼勢力が一気に増えたように。

政治的奔流となった彼らの思想行動は急速に社会を押しつぶしていく。日独伊のかつての極右パワーがそうだったように。

そして奔流は世界の主流となってついには戦争へと突入する。そこに至るまでには、弾圧や暴力や破壊や混乱が跋扈するのはうまでもない。

したがって極右モメンタムは抑さえ込まれなければならない。激流となって制御不能になる前に、その芽が摘み取られるべきである。



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たかがオリンピック、されどワクチン~強気のイタリア&大風呂敷のEU?


中庭的ストーブ付き650

ことし3月中旬から事実上のロックダウン下にあったイタリアは、4月26日から規制を段階的に緩和していくことになった。

2020年、イタリアは世界初の全土ロックダウンという地獄を体験した後、年末年始と4月の復活祭にかけてもロックダウンをかけた。

だが、強い規制とワクチン接種の進展が効を奏しつつあり、感染拡大の鈍化のきざしが見え始めた。

状況はまだ全く予断を許さないが、ドラギ政権は規制緩和に踏み切った。

過酷な封鎖措置に国民の疲弊はピークに達している。特に打撃の大きかった観光業界や飲食業界では不満が爆発してデモが頻発。抗議の声が日ごとに高まっていた。

それらを受けての決断である。

イタリアはコロナの警戒レベルを高い順に赤、オレンジ、黄色、白と4段階に色分けして規制を掛けている。規制が最も弱い白の地域は今のところは存在しないに等しい。

今月初めの復活祭期には、島嶼州のサルデーニャが唯一白の安全地帯と規定された。ところが今やそこは赤の危険地帯に。人の移動が活発になるとウイルスも活性化する、という典型的な例である。

現在は全国が赤とオレンジで埋まっているが、4月26日からはほとんどの州が警戒レベルが“やや弱い”に当たる黄色に規定される。最高警戒域の赤の州はいったん無くなる予定。

黄色域では各州間の移動が自由になり、オレンジと赤の州にも許可証(グリーンパス)を所持すれば移動ができる。

許可証はワクチンを接種済みか、コロナに掛かったことのある人のそれは6ヶ月間有効。コロナ検査で陰性とされた人のものは48時間だけ有効となる。違反すると禁固刑を受ける可能性がある。

レストランは店の外の席のみ昼夜営業可能。店内での接客は6月1日からランチのみ営業可。映画館、劇場、博物館はオープン。屋外でのコンサートやショーも許可される。

屋外プールは黄色州では5月15日から営業可。屋内ジムは6月1日から。全国レベルのスポーツイベントは観客を数を制限して6月1日から開催してもよい

フィエラ(見本市)は6月15日から再開。コングレス(大会議、各種大会)またテーマパークなどは7月1日より開催許可。

高校生は70%が対面の授業を許される。残りはオンライン授業。これはバスや電車などの公共交通機関が密になり過ぎることを避ける措置。現在は25-50%が対面授業中。小中学校はこの規制対象ではない。

夜間外出禁止令は当面は従来どおり午後10時以降朝5時まで。これに関してフォルツァ・イタリアと同盟またイタリア・ヴィヴァが午後11時からを主張して対立。多党連立のドラギ内閣では初の造反込みの政策となった。

イタリアは4月30日までにEUの査定(2090億ユーロ)より多い2215億ユーロ(28兆円弱)分のコロナ復興資金を申請する。認められればEU内で最悪クラスの打撃を受けた経済のカンフルになると期待されている。

4月22日現在、イタリアのワクチン接種実績は約1150万回。2回接種された者は約480万人。秋までに国民の80%の接種を終えるのがドラギ政権の目標。

だがEUはもっと野心的な計画を持っている。7月までに全加盟国の成人人口の7割に接種を済ませるというのである。達成すればEU全域での集団免疫がほぼ獲得されることになる。

イタリアよりもEUの計画のほうが早期実現することを祈りたい。

そうはいうもののEUは一枚岩ではない。先日もいわば組織の双頭とも呼べるEU大統領とEU委員長が、トルコのエルドアン大統領に侮辱されながらも共闘できず、弱点をさらけ出した。

それでもEUはワクチン接種を加速させるために必死に動いている。無論イタリアもそれは同じ。EUにとってもイタリアにとっても、遠い日本で騒がれているオリンピックなど念頭にはない。

たかがオリンピック、されどワクチン。誰も大っぴらには口にしないが、欧州でも、親日国のイタリアにおいてさえも、そして世界でも、人々の気分は今のところはそれに尽きるのである。



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五つ星運動と中国のマインドコントロール状態から生還したジャンカルロC

習のユニフォーム渡すディマイオ

熱烈な「五つ星運動」支持者のジャンカルロCは、新型コロナがイタリアを打ちのめした昨年の春以降、過激なほどの中国批判者になった。

「五つ星運動」は極左ポピュリストとも呼ばれ中国と極めて親しい。2018年の総選挙で議会第1党になり、極右政党「同盟」と手を組んで連立政権を樹立した。

ジャンカルロC「は支持政党の五つ星運動」を介して熱心な中国愛好者になった。だが中国を毛嫌いするようになった今は「五つ星運動」にも懐疑的だ。

それでもジャンカルロCは「五つ星運動」にはまだ未練があるようだ。南イタリア出身の彼は、「五つ星運動」の旗印である最低所得保障(ベーシックインカム)策を熱く支持している。

「五つ星運動」は貧困層に月額約10万円を支給するその政策をゴリ押ししてついに実現させた。ジャンカルロCは、彼の故郷の親族や友人知己の一部が支給金に助けられている、と信じている。

だがその政策は貧困層という水をザルで掬うようなものだ。南イタリアを拠点にする幾つもの犯罪組織が、制度を悪用して資金を盗み肥え太っていることが分かっている。

貧しい人々の大半は組織犯罪に利用されるだけで、援助金は彼らに行き渡らない。それでもバラマキ策を推進する「五つ星運動」への南部の支持は強い。

援助金を掠め取って巨大化する犯罪組織が、民衆を脅したりすかしたり心身双方をいわば殴打するなどして票をまとめ、自在に操作すると考えられるからだ。

ジャンカルロCと僕は最近次のような会話をした。

ジャン:中国に核爆弾を落としてやりたい。

ジャンカルロCは、友人ふたりが交わす無責任な会話の空気に気を許して、口先ばかりながら中国に対してしきりに物騒なことを言う。

僕は答える。

A:口先だけは相変わらず勇ましいね。だがイタリアも日本も核兵器は持たないよ。中国をやっつけるには核兵器を持つ米英仏と協調してこらしめるしかない。だが君の好きな「五つ星運動」は反EUで英仏が大嫌い。英がEUから去っても嫌イギリス感情は残っている。トランプが消えたので彼らはアメリカも好きではなくなった。どうするんだい?

ジャン:どうもしない。ただ習近平も中国人も憎い。地上からいなくなってほしい。

A:なんだい。つい最近まで僕が中国政府を批判したら傷ついていた男が。

ジャン:あの頃はコロナはなかった。中国がコロナを世界に広めた。中でもイタリアは最悪の被害を受けた。中国も中国人もクソくらえだ。

A:別に中国人をかばうつもりはないが、ウイルスは中国以外の場所でも生まれる。新型コロナもそうかもしれない。

ジャン:だが奴らはウイルスとその感染を隠蔽した。なんでも隠していつでも平気で嘘をつくのが中国人だ。

A:中国人を一般化するのはどうかな。それを言うなら「習近平政権はなんでも隠蔽し平気で嘘をつく」だろう。それなら僕もそう思う。

ジャンカルロCは馬鹿ではない。かつて法律を学び弁護士を目指した。が、挫折。世界を放浪した後に家業のワイン造りを継承したものの、ジプシーだったという先祖のひとりから受け継いだらしい放浪願望の血が騒ぎ、家業を捨てた。再び漂泊して北イタリアに定住。実家の情けも借りて少しのワイン販売で糊口をしのいでいる。その間にNPOを立ち上げて人助けにもまい進しているという男だ。

A:なんにしても君が中国の欺瞞と危険に気づいてくたことはうれしいよ。チベットやウイグル弾圧、台湾脅しと香港抑圧。わが日本の尖閣諸島も盗もうと画策している国だ。

ジャン:尖閣は知らんが香港はひどい。台湾への横槍も聞いている。

A:君らイタリア人はチベットやウイグルには関心が高いが、香港、台湾のことになると、遠隔地の騒ぎと捉えてモグラみたいに無知になる。尖閣のことを知らないとはけしからん。

ジャン:でも中国が南シナ海でやりたい放題をしているのは知っている。尖閣諸島も南シナ海の一部なんだろう?

A:少し違うが、まあ、遠いイタリアから見た場合はそういう捉え方も許されるだろう。習近平一味は相も変わらず傍若無人な連中だよ。ミャンマー軍の信じられないような悪行も、つまりは中国のせいだと見られている。中国の後ろだてがあるから、弱体で卑劣なミャンマーの軍人が、自国民を大量に殺戮できる。

ジャン:やっぱりそうなのか。

A:北朝鮮の狂犬・金正恩総書記がいつも牙を剥いているのも中国が背後にいるからだ。その中国をイタリアは、というよりも君の好きな「五つ星運動」は、賞賛し持ち上げ庇っている。イタリア政府は覇権主義国家と握手して「一帯一路」構想を支持する旨の覚書まで交わした。あれは全て「五つ星運動」のゴリ押しによって実現した。

ジャン:わかっているよ。だから僕は「五つ星運動」への支持を止めた。覚書は間違いだった。

A:だが「五つ星運動」は相変わらず中国を慕っている。

ジャン:そんことはない。いつまでも中国にしがみついているのは、「五つ星運動」の中でも外相のディマイオくらいのものじゃないかな。

A:どうだか。ま、とにかく君がアンチ中国になったのはいいことだ。米中アラスカ会談で「アメリカにはアメリカの民主主義があり中国には中国の民主主義がある」とのたまうような欺瞞だらけの、厚顔で未開で野蛮な全体主義国だ。君が「五つ星運動」と中国のマインドコントロール並みの縛りから抜け出したのはいいことだ。

中国への不信感と怒りはイタリアでもじわじわと増えている雰囲気だ。だが国際社会は、中国が香港でやりたい放題をやっても、ウイグルで民衆を弾圧しても、ミャンマーの虐殺部隊をそそのかしていても、ほとんど為す術がないように見える。欧州はウイグル問題に関連して中国に制裁を科しアメリカもいろいろと動く素振りではいる。だがそのどれもが迅速な効果をあらわすものではなく、時間が経つごとに中国の横暴はエスカレートして被害者が増えるばかりに見える。

中国に武力行使ができない限り、国際社会は一致団結して彼の国の蛮行に対していくしかない。この際は日本も覚悟を決めて中国に向けて強く出たほうがいいのではないか。あくまでも対話によって問題を解決するのが理想だが、これまでの中国の傲岸不遜な言行の数々をいやというほど見てきた目には、ソフトなアプローチは効果がないと映る。

国際社会は経済的に成長した中国が、徐々に民主化していくと期待した。だがそれは全くの幻想であることが明らかになった。中国は国際社会の支援と友誼と守護で大きく成長した。それでいながら強まった国力を悪用して、秩序を破壊し専横の限りを尽くして世界を思いのままに操ろうとしているようにさえ見える。

中国の野望達成のプロセス上で発生しているのが、ウイグルやチベットへの弾圧であり、台湾および香港への圧力と脅しと嫌がらせであり、尖閣諸島への横槍だ。中国はそれだけでは飽き足らず、ミャンマー軍による自国民への残虐行為も黙認しているとされる。黙認どころか、積極的に後押ししているという見方もある。

習近平独裁体制の暴虐は阻止されるべきだし、必ず阻止されるだろう。なぜならデスポティズムの方法論は、人々を力でねじ伏せて自らに従わせようするだけのもので、体制の内側からじわりとにじみ出る魅力で人々の気を引くことはない。

世界の人々に愛されない、従って訴求力のない政治体制や国家は、将来は確実に崩壊するだろう。だがそうはいうものの今この時の世界は、残念ながら中国の専横の前に茫然自失して、いかにも腺病質に且つ無力に見える。民主主義を信奉する自由主義社会の結束が、いつにも増して求められているのはいうまでもない。



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飾り物のイタリア大統領が化け物になるとき

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イタリアでまた政権が変わった。1月26日にジュゼッペ・コンテ首相が辞任し、ほどなくマリオ・ドラギ内閣が誕生した。イタリアではひんぱんに内閣が倒れ政権が交代する。よく日本の政治状況に似ていると言われるが実は大きく違う。イタリアでは政治危機の度に大統領が大きな役割を果たすところが特徴的である。

国家元首であるイタリア大統領は、上下両院議員の投票によって選出される。普段は象徴的な存在で実権はほとんどない。ところが政治危機のような非常時には議会を解散し、組閣要請を出し、総選挙を実施し、軍隊を指揮するなどの「非常時大権」を有する。大権だからそれらの行使には議会や内閣の承認は必要ない。

今回の政変は1月13日に起きた。コンテ内閣の一角を担っていたレンツィ元首相率いる小政党「イタリア・ヴィーヴァ」が、連立政権からの離脱を表明した。それによって、昨年の新型コロナ第1波の地獄を乗り切り国民の強い支持を受けてきたコンテ内閣が、一気に倒壊の危機に陥った。

しかし、レンツィ派の造反にもかかわらず、コンテ首相への支持は強いものがあった。反乱後の信任投票でコンテ内閣はイタリア下院の絶対多数の信任を得た。一方で下院と全く同等の権限を持つ上院では、出席議員の過半数を僅かに超える単純多数での信任にとどまった。絶対多数161に対して5票足りない156票だったのである。

僅差での信任はコンテ内閣が少数与党に転落したことを意味し、予算案などの重要法案を可決できなくなる可能性が高まる。危機感を抱いたコンテ首相は、冒頭で触れたように1月26日、マタレッラ大統領に辞表を提出する。この動きは予期されたものだ。大統領に辞表を提出し、けじめをつけた上で改めて大統領から組閣要請を受ける、というのがコンテ首相の狙いだった。それはイタリアではごく自然な動きである。

コンテ内閣は世界最悪とも言われたコロナ危機をいったん克服はした。だがイタリアは依然として、パンデミックの緊急事態の最中にある。今の状況では、コンテ首相が辞表を出して大統領の慰留を引き出すのが得策。その上で新たに上院議員の支持を取り付け第3次コンテ内閣を発進させる、というのが最善の成り行きのように見えた。それが大方の予想でもあった。

しかし、マタレッラ大統領が「非常事大権」を行使して状況を急転させた。大統領はコンテ首相に新たに連立政権工作をするよう要請する代わりに、ロベルト・フィーコ下院議長にそのことを指示したのだ。フィーコ議長は議会第1党の五つ星運動の所属。五つ星運動は議会最大の勢力ながら政治素人の集団である。フィーコ氏には党外での政治的影響力はほとんどない。

コンテ内閣の再構築を念頭に各党間の調整を図る、というフィーコ下院議長の連立政権工作はすぐに行き詰まる。するとマタレッラ大統領は、まるでそれを待っていたかのように前ECB(欧州中央銀行)総裁のマリオ・ドラギ氏に組閣要請を出した。「非常事大権」を意識した大統領の動きは憲法に則ったもの。誰も異議を唱えることはできない。

大統領のその手法は、見方によっては極めて狡猾なものだった。なぜなら彼はそこで一気にコンテ首相の再登板への道を閉ざした、とも考えられるからだ。そうやってイタリアの最悪のコロナ地獄を克服した功労者であるコンテ首相は、マタレッラ大統領によって排除された。

少し脇道にそれて背景を説明する。マタレッラ大統領はコンテ政権内で反乱を起こしたレンツィ元首相と極めて親しい関係にある。2人はかつて民主党に所属していた仲間。加えてマタレッラ大統領は2015年、当時首相だったレンツ氏が率いる中道左派連合の強い支援で大統領に当選した。それ以前も以後も、大統領がレンツィ元首相に近いのは周知の事実である。

また彼ら―特にレンツィ元首相―が左派ポピュリストの五つ星運動と犬猿の仲であることもよく知られている。コンテ首相は五つ星運動所属ではないものの同党に親和的。マタレッラ大統領にはそのことへの違和感もあったのではないか。そこにコンテ首相の排除を望むレンツィ元首相の影響も作用して、政変の方向性が決定付けられたのだろう。

そればかりではない。大統領とレンツィ元首相は強烈なEU(欧州連合)信奉者だ。その点はECB(欧州中央銀行)前総裁のドラギ氏ももちろん同じ。しかもレンツィ氏とドラギ氏も親密な仲である。次期イタリア首相候補としてドラギ氏を最初に名指したのも実はレンツィ元首相なのだ。

かくてEU主義者のマタレッラ、レンツィ、ドラギの3氏が合意して、反EU主義政党である五つ星運動に支えられたコンテ首相を排除する確固とした道筋が出来上がった。マタレッラ大統領は彼の持つ「非常時大権」を縦横に行使してその道筋を正確に具現化した。

国家元首であるイタリア大統領は、既述のように上下両院の合同会議で全議員及び各州代表によって選出される。普段はほとんど何の実権もないが、政府が瓦解するなどの国家の非常時には、あたかもかつての絶対君主のような権力行使を許され、機能しない議会や政府に代わって単独で役割を果たす。いわば国家の全権が大統領に集中する事態になるのだ。

例えば2011年11月、イタリア財務危機のまっただ中でベルルスコーニ内閣が倒れた際には、当時のナポリター ノ大統領が彼の一存でマリオ・モンティ氏を首相に指名して、組閣要請を出した。そうやって国会議員が一人もいないテクノクラート内閣が誕生した。

また2016年、レンツィ内閣の崩壊時には現職のマタレッラ大統領が外相のジェンティローニ氏を新首相に任命。ジェンティローニ内閣はレンツィ政権の閣僚を多く受け継ぐ形で組閣された。そして泥縄式の編成にも見えたその新造の内閣は、早くも3日後には上下両院で信任された。

2018年の総選挙後にも大統領は「非常時大権」を行使した。政権合意を目指して政党間の調整役を務めると同時に、首班を指名して組閣要請を出した。その時に誕生したのが第1次コンテ内閣である。コンテ首相は当時、連立政権を組む五つ星運動と同盟の合意で首相候補となりマタレッラ大統領が承認した。

政治危機の中で大統領が議会と対峙したり、上下両院が全く同じ権限を持つなど、混乱を引き起こす原因にもなる政治システムをイタリア共和国が採用しているのは、ムッソリーニとファシスト党に多大な権力が集中した過去の苦い体験を踏まえて、権力が一箇所に集中するのを防ごうとしているからだ。

議会は任期が満了したり政治情勢が熟すれば解散されなければならない。議会が解散されれば次は総選挙が実施される。総選挙で過半数を制する政党が出ればそれが新政権を担う。その場合は大統領は、政権樹立に伴う一連の出来事の事後承認をすれば済む。それが平時のイタリア大統領の役割である。

しかし、いったん政治混乱が起きると、大統領は一気に存在感を増す。イタリアの政治混乱とは言葉を変えれば「大統領の真骨頂が試される」時でもあり、「大統領の“非常時大権“の乱用」による災いが起きるかもしれない、微妙且つ重大な時間なのである。



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武漢がイタリアに引っ越した日



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阿鼻叫喚のイタリアの新型コロナ地獄はちょうど1年前の今日、2020年2月21日に始まった。

北部ロンバルディア州コドーニョ(Codognio)でクラスターが発生したのだ。

その前日の2月20日、コドーニョ病院でイタリア初の新型コロナの感染者が発見された。

当初その第1号患者は0号患者と誤解された。

クラスターは第1号患者の周辺で発生し、彼が入院したコドーニョ病院での院内感染も伴っていた。

いくつかのクラスターはたちまち感染爆発を招いた。

その日からイタリアは武漢化した。

ほぼ20日後の3月10日、イタリア政府はコドーニョを含むロンバルディア州と近辺に敷いていたロックダウンを、全土に拡大した。

クラスターの発生からちょうど1年後の2021年2月21日現在、イタリアの新型コロナの死者は9万5千486人。

累計の感染者は279万5千796人である。

昨年12月に始まったワクチン接種は遅々として進まず、これまでに212万8千130回分が接種されたに過ぎない。

人数にすると132万8千162人である。

閑話休題

国家非常事態の中でもイタリア人の政治好きは止まず、コロナ第1波の惨劇を誠心と勇気で乗り切ったジュゼッペ・コンテ首相の首がすげ替えられた。

新首相は超有名エコノミストのマリオ・ドラギさん。口げんかの絶えない政界の魑魅魍魎たちが、ぐっと口をつぐむほどの経済の大家、希望の星である。

コンテ首相は、イタリアの政治を引っ掻き回しているポピュリストの五つ星運動が、ほぼ唯一放った大ホームランだった。

大学教授のコンテさんを政界に引っ張り込んだのは五つ星運動なのである。

得意の経済政策はバラマキだけ、と見える五つ星運動に支えられたコンテさんは、コロナ禍が落ち着いたあとは経済で苦労するのは必至だった。

従って経済の専門家のドラギさんが首相になったのは、コンテさんのためにもイタリアのためにも、ドラギさんのためにもきっと良いことだ。

問題は、コンテ首相を大得意の権謀術数で退陣に追い込んだ、魑魅魍魎中の大妖怪レンツィ元首相を筆頭にする政治家連である。

経済も、コロナ対策も、何よりもワクチン接種の推進も、ドラギ新首相はきっとうまくやってくれそうな気配だ。

魑魅魍魎たちが邪魔さえしなければ。

多分。。



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極右に「北朝鮮みたい」と酷評されたイタリア新政権

6502012年12月8日南庭美雪


マリオ・ドラギ内閣がイタリアの上院と下院で正式に信任された。

上院は賛成262票、反対40票。また下院は賛成535票、反対56票。圧倒的と形容するのもバカバカしいほどの絶対多数での信任になった。

議会第1党の極左ポピュリスト「五つ星運動」と、同じく第2党の極右ポピュリスト「同盟」が、2018年の第1次コンテ内閣をなぞるかのように同時に政権入りした。

そこに左派の「民主党」とベルルスコーニ元首相が率いる右派の「フォルツァ・イタリア」 が加わり、さらに左右中道ナンデモカンデモコレデモカ、とばかりに各小政党や会派が連立に参加した。

主要政党で政権入りしなかったのはファシスト党の流れをくむ「イタリアの同胞」のみ。

まさに大連立、大挙国一致内閣である。

喧嘩、対立が絶えないイタリア政界を見慣れている目には異様とも映るその状況を、極右政党「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首は、「北朝鮮みたい」と喝破した。

ま、正確に言えば「われわれが反対しなければドラギ政権は北朝鮮と同じだ」だったけれど。

極右の「イタリアの同胞」は、ドラギ首相よりも彼らの天敵である五つ星運動への反発から大連立に加わらなかった。

とはいうものの、実態は「連立から弾き出された」という方がより真相に近い。

同党は、いつも怒っていていつも人に殴りかかりそうな、険しい話し方をするメローニ党首に似て暗く、少しうっとうしい。

それはさておき、僕はメローニ党首の「北朝鮮みたい」発言に少々ひっかかりを覚えた。

彼女はなぜイタリアでは北朝鮮よりもはるかに存在感の強い「中国みたい」とは言わなかったのだろう?と。

北朝鮮はその隣でいろいろ迷惑をこうむる日本から見る場合とは違って、イタリアからは心理的にも距離的にも遠い。

距離の遠さという意味では中国も同じだが、中国は遠くにありながら心理的にも物理的にもイタリアに極めて近い。というか、近すぎる。

イタリアは中国の一帯一路構想を支持し、G7国で初めて習近平政権との間に覚書を交わした。

極左のポピュリスト五つ星運動のいわばゴリ押しが功を奏した。

そればかりではなく、イタリアには中国製品と中国人移民があふれている。昨年は中国由来とされる新型コロナで、世界初且つ世界最悪ともされる感染地獄に陥った

さらに良識あるイタリア国民の間には、中国による香港、ウイグル、チベットなどへの弾圧や台湾への威嚇などに対する反感もある。

イタリアの右派は一帯一路を巡る中国との覚書を快く思っていない。

2019年にそれが交わされた時、政権与党だった「同盟」は反発した。「イタリアの同胞」は「同盟」の朋友でしかも同盟よりも右寄りの政党である。

中国への反発心はイタリアのどの政党よりも固いと見られている。

それでいながらメローニ党首は、ネガティブな訳合いの弁論の中で中国を名指しすることを避けた。それはおそらく偶然ではない。

そこには中国への強い忖度がある。

イタリア国民の間には明らかな反中国感情がある。しかし政治も公的機関も主要メディアも、国民のその気分とは乖離した動きをすることが多い。

イタリア政府は世界のあらゆる国々と同様に、中国の経済力を無視できずにしばしば彼の国に擦り寄る態度を見せる。

極左ポピュリストで議会第1党の「五つ星運動」が、親中国である影響も無視できない。イタリアが長い間、欧州最大の共産党を抱えていた歴史の残滓もある。

共産党よりもさらに奥深い歴史、つまりローマ帝国を有したことがあるイタリア人に特有の心理的なしがらみもある。

イタリア人が、古代ローマ帝国以来培ってきた自らの長い歴史文明に鑑みて、中国の持つさらに古い伝統文明に畏敬の念を抱いている事実だ。

その歴史への思いは、いまこのときの中国共産党のあり方と、中国移民や中国人観光客への違和感などの負のイメージによってかき消されることも多い。

しかし、イタリア人の中にある古代への強い敬慕が、中国の古代文明への共感につながって、それが現代の中国人へのかすかな、だが決して消えることのない好感へとつながっている面もある。

淡い好感に端を発したそのかすかなためらいが、極右のボスであるメローニ党首のしがらみとなって、「ドラギ政権は一党独裁の中国みたい」と言う代わりに「まるで北朝鮮みたい」と口にしたのではないか、と思うのである。

僕は極右思想や政党には強烈な違和感を覚える者だが、中国共産党に噛み付かない極右なんて、負け犬の遠吠えにさえ負けるタマ無しで、もっとつまらない、と思わないでもない。


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ドラギ挙国一致内閣は両刃の剣スキーム

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新首相と大連立与党連合

2021年2月13日、イタリアでドラギ新内閣が誕生した。73歳のマリオ・ドラギ新首相は2011年から2019年までECB(欧州中央銀行)総裁を務めたセレブな経済学者。コロナ・パンデミックで落ちるところまで落ちたイタリア経済の救世主になるのではないか、との期待が高まっている。

期待は経済や政治に関心のある国民ばかりではなく、普段は全くそこに興味を持たない人々の間にまで広まっている。そのことはイタリアの政治システムに不明な人々までが、ドラギ氏の高名に興奮してSNSにファンレターまがいのとんちんかんな書き込みをすることなどでも類推できる。

アカデミックな経済の専門家としてのドラギ氏の経歴は華々しい。彼は米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)で経済学博士号を取得。フィレツェ大学の教授を務めたあとイタリア銀行総裁に出世。さらに2011年から2019年までは欧州中央銀行総裁の職にあった。

2021年2月3日、ドラギ氏はイタリア大統領からの組閣要請を受けた。彼はすぐにイタリアの各政党との面談を開始。たちまちほぼ全ての勢力から支持を取り付けた。その手腕はエコノミストというだけではなく政治家としても有能であるように見える。

彼を支持するのは、極左のポピュリスト・五つ星運動から極右ポピュリストの同盟、左派の民主党、さらにベルルスコーニ元首相が率いるほぼオワコンにさえ見えるフォルツァ・イタリア党、それらに加えて全ての小政党や会派など。文字通り挙国一致と呼べる巨大な連立与党連合が出来上がった。

ここから数ヶ月の蜜月期間は、世界クラスの知名度を持ちカリスマ性もあるドラギ首相に物申す相手はいないだろう。だが、時間とともに各政党の利害がむき出しになるのは政治である限り避けることはできない。そのときになってもドラギ首相が強いリーダーシップを発揮し続けているなら、イタリアの未来は明るい。だがそうではない可能性もいまのところは5割ある。

3人のEU教徒

僕はEU(欧州連合)支持者である。ブリュッセルの官僚支配という弊害はあるものの、欧州がひとつになり各国民が交流し刺激し合い成長し合うのはすばらしい。何よりもEUが「戦争防止装置」としての役割を十分に果たしていることは見逃せない。

欧州中央銀行の総裁を務めたドラギ首相は、いうまでもなくがちがちのEU主義者である。ジュゼッペ・コンテ前首相の辞表を待ってましたとばかりに受理して(なぜ待ってましたとばかりかは後述)、ドラギ氏に組閣を指示したセルジョ・マタレッラ大統領も筋金入りのEU信奉者。さらにドラギ氏を誰よりも先に首相に推したマテオ・レンツィ元首相も隠れなきEU支持者である。

その意味では僕は3者を支持するが、ジュゼッペ・コンテ首相をいわば排除したという意味では、3者に強い違和感も持つ。特にマテオ・レンツィ元首相は今回の政変の首謀者。彼はことし1月13日、自身が率いる政党「イタリア・ヴィヴァ」所属の閣僚を、コンテ内閣から引き上げて政権を崩壊させた。

理由はEUからイタリアに与えられるコロナ復興資金の使用法に異議がある、というものだった。だが真相は、衰退著しく存在感がぼゼロと言われるほどに落ちぶれた「イタリア・ヴィヴァ」と自身の求心力低下に焦ったレンツィ元首相が、起死回生を狙って打った大芝居、というのが定説。

しかし、そ反乱はあまりにもタイミングが悪かった。コンテ内閣は昨年の阿鼻叫喚のコロナ地獄を克服したことでイタリア国民の強い信頼を得ている。特に強いリーダーシップと類まれなコミュニケーション力で、国民を勇気付け慰撫し続けたコンテ首相は、かけがえのない存在とみなされてきた。

イタリアは昨年3月から5月にかけての第1波の凄惨な危機からは抜け出した。が、コロナパンデミックは依然として続いている。収束とは程遠い状況である。そんな非常時にレンツィ元首相は我欲に駆られて政治危機を招いた。イタリア中から強い批判が湧き起こった。

だがレンツィ元首相の反乱は、行き当たりばったりの妄動ではなく、周到に計算されたものであるらしいことが明らかになった。少なくとも僕の目にはそう映る。レンツィ元首相は政治的に彼と近しいマタレッラ大統領と連携して、政変を起こした可能性が高いのだ。連携が言いすぎなら、少なくともマタレッラ大統領に“予告した”上で、倒閣運動を仕掛けた。

マタレッラ大統領は2015年、当時首相だったレンツィ氏が主導する中道左派連合の強いバックアップで大統領に当選した。彼らはかつて民主党に所属した同僚でもある。また既述のように親EU派としてもよく知られている。2人が政治的にきわめて親密な仲であることは周知の事実だ。

大統領の遠謀?

一方、大学教授から首相になったジュゼッペ・コンテ氏は、反EUで左派ポピュリストの五つ星運動に支えられている。コンテ首相は五つ星運動所属ではないが、心情的には同党に近いとされる。反体制が合い言葉の五つ星運動の根幹の思想に共感するものがあるのだろう。その在り方の是非はさておき「弱者に寄り添う」という同党の主張にも賛同しているのではないか。

繰り返しになるが五つ星運動はEU懐疑派である。彼らは元々EUからの離脱を目指し、トランプ主義にも賛同してきた。だがイタリアの過激主義は「国内に急進的な政治勢力が乱立している分お互いに妥協して軟化する」、という僕の持論どおり選挙運動中に反EUキャンペーンを引っ込め、政権を取るとほぼEU賛同主義者へと変わるなどした。だが、彼らの本質は変わっていない。マタレッラ大統領は、レンツィ元首相とともにそのことにも危機感を抱いたに違いない。

2者は極端な推論をすればそれらの背景があってコンテ首相を排除し、ドラギ氏擁立のプランを立てた。そして事態は次のように動いた。
1、レンツィ元首相の反乱。
2、コンテ首相辞任(マタレッラ大統領から再組閣指示を引き出すためのいわば根回し辞任。予期された通常の手続きである。だからマタレッラ大統領は「待ってました」とばかりに辞表を受理した)
3.マタレッラ大統領、コンテ首相にではなく政治的に非力なフィーコ下院議長に連立工作を指示(失敗を見越して)。
4.フィーコ下院議長の連立工作、予想通り失敗。 
5.マタレッラ大統領がすぐさまマリオ・ドラギ氏に組閣を要請。

という筋書き通りに事が動いた。

新旧首相の幸運

コンテ首相は国民に真摯に、誠実に、そして熱く語りかける姿勢でコロナ地獄を乗り切り圧倒的な支持を集めた。コロナ感染抑止を経済活動に優先させたコンテ首相の厳格なロックダウン策は、感染が制御不可能になり医療崩壊が起きて多くの死者が出ていた昨年の状況では、的確なものだった。だがそれによってただでも不振に喘いでいたイタリア経済が多大なダメージを受けたのも事実だ。

コンテ首相には今後も、引き続きコロナ対策を講じながら経済の回復も期す、という厳しい責務が課されることは間違いがなかった。しかし彼の政権は、経済政策といえばベーシックインカムに代表されるムチャなバラマキ案しか知らない政治素人の集団・五つ星運動に支えられている。適切な経済策を期待するのは厳しいようにも見えた。その意味ではコロナ対策で高い評価を受けたまま退陣したのはあるいは好いことだったのかもしれない。

ドラギ内閣は迅速な経済の回復を進めると同時にワクチン接種を広範囲に迅速に実施しなければならない。後者は出だしでのつまずきが問題になっている。一方経済の建て直しに関しては、ドラギ首相は大きな僥倖に恵まれている。つまりイタリアに提供されるEUからの莫大なコロナ復興資金である。総額は2090億ユーロ、約26兆5千億円にのぼる。そのうちの4割は補助金、6割が低金利の融資だ。

ドラギ首相は理論的にはその大きな資金を縦横に使って経済を再生させることができる。実現すればすばらしいことだが、経済学者が「理路整然」と実体経済を読み違えるのもまた世の常である。ましてや国家経営には、銀行経営とは違って「感情」というやっかいなものが大きく絡むから、ドラギ首相の仕事は決して単純ではない。


ドラギ首相はかつて、ECB総裁として経済危機に陥ったイタリアに緊縮財政策を押し付けた張本人のひとりだ。2011年、財政危機の責任を取って退陣したベルルスコーニ首相に代わって、政権の座に就いたマリオ・モンティ首相は、ドラギ首相とよく似たいきさつで内閣首班になった。だがモンティ首相は当時、ブリュッセルのEU本部とECB総裁のドラギ氏のほぼ命令に近い要請で、財政緊縮策を強いられた。ドラギ氏はちょうど10年の年月を経て自らがイタリア首相になり、且つ潤沢な資金を使って経済の建て直しをする、というモンティ元首相とは真逆の立場におかれたのだ。大きな幸運である。

さらにドラギ首相への追い風が吹いている。EU首脳部は、彼らがイタリアに強要した緊縮財政策が悪影響を及ぼして、イタリアの経済がさらに失速し回復が遅れている、と内心認めていると言われる。従ってドラギ内閣が、EU内でイタリアがギリシャに次ぐ借金大国に成り果てている苦境をしばらく忘れて、さらなる借金さえしかねない財政拡大策を推し進めもこれを黙認する、と考えられている。

ドラギ首相のスネの傷

ドラギ首相は高位のエコノミストとしてこれまでイタリア内外で多くの経済政策を推進してきた。その中には重大な失策もある。例えばドラギ首相はイタリア財務省総務局長時代に、当時国有だった巨大企業イタリア高速道路管理運営会社(ASPI)の民営化を進めた。民営化された同社はオーナー一族に莫大な利益をもたらした。

だが会社は巨利をむさぼるばかりで維持管理を怠り、2018年にはジェノバで高架橋の落下という重大事故を起こして43人もの死者が出た。その事故以外にも ASPIのインフラ管理の杜撰さが問題になっている。コンテ政権は同社を再び国営化した。だが全ての課題が突然消えた訳ではない。かつてASPIを民営化させたドラギ首相は、事態がさらに複雑化し問題が再燃することを恐れているかもしれない。

また世界最古の銀行MPS(モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ)が経営破綻した時、イタリア中央銀行総裁だった彼はその責任の一端を担っている。さらに問題が巡りめぐって同銀行が公的資金で救済された際には、ドラギ首相はECB(欧州中央銀行)総裁を務めていた。MPSに公的資金が投入されたのは、ECBの誘導によるとされている。従って彼はMPSの行く末にも責任を負わなければならない。

コロナ対策も経済政策も、ドラギ政権を支持する全ての政党が一致団結して事に当たれば、きわめてスムースに実行されるだろう。だが意見を異にする政党が寄り集まるからには、対立や分断もまた容易に起こりうる。それぞれの政治勢力がてんでに主張を強めれば、政権内の混乱の収拾がつかなくなる可能性もある。ドラギ内閣を構成している「ドラギを信奉する一大連合勢力」は、両刃の剣以外の何者でもないように見える。



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イタリアの「またもや」の政治危機が行く~ドラギ内閣が生まれそう


大木アタマ650


イタリアのセルジョ・マタレッラ大統領の要請を受けて、政権樹立の可能性を探ってきたマリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)前総裁の仕事が完成しそうだ。

議会第1党と第2党で、且つ鋭く対立してきた五つ星運動と同盟が、ドラギ内閣を支持することがほぼ確実になってきた。

しかし、五つ星運動は内部が平穏ではなく、ドラギ政権に参加することによって分裂が進みかねない状況。土壇場での方向転換もありうる情勢。

五つ星運動と同盟は左右のポピュリストである。ポピュリストという点移外にはほとんど共通点がないにもかかわらず、両党は2018年に手を結んで野合政権を樹立した。

だが元々犬猿の仲である五つ星運動と同盟は多くの政策で対立、喧嘩が絶えなかった。連立政権発足から1年余りの2019年8月、同盟が対立激化を理由に早期の解散総選挙を要求。

否定されると内閣不信任決議案を提出して政権を離脱した。同盟のサルビーニ党首に、総選挙に持ち込んで右派勢力を結集し、独自政権を樹立したい思惑があったのは周知のことである。

第1次コンテ内閣は崩壊した。が、五つ星運動がすぐに彼らの天敵だった議会第3党の民主党に呼びかけて、2019年9月5日、あらたに連立政権を樹立した。

第2次コンテ内閣は、2020年初めからイタリアを襲ったコロナ惨禍を克服。それは大きな指導力を発揮したジュゼッペ・コンテ首相の手柄だった。

コロナ地獄と、それをうまく処理するコンテ首相の前にしばらく鳴りを潜めていた守旧派の政治勢力は、EU(欧州連合)からの莫大なコロナ復興援助金に目が眩んで密かに暗躍を開始。

その流れで2021年1月13日、レンツィ元首相が率いる連立内の小政党「Italia Viva イタリア・ヴィヴァ」が政権からの離脱を表明。「壊し屋」の異名を持つレンツィ元首相が、「コロナ復興資金の使途不明確」という不明確な理由を口実に反乱を起こしたのだ。

レンツィ元首相の一存で「Italia Viva イタリア・ヴィヴァ」が同党所属の閣僚を引き上げたため、第2次コンテ内閣は事実上崩壊。2021年1月26日、コンテ首相は辞任を表明した。

それを受けて2021年1月29日、マタレッラ大統領がロベルト・フィーコ下院議長に連立模索を指示。しかしそのわずか数日後にフィーコ下院議長の連立工作は失敗に終わった。

マタレッラ大統領はあたかもそれを待っていたかのように素早く行動する。ためらうことなくマリオ・ドラギ前ECB総裁に組閣要請を出したのだ。そこにはレンツィ元首相の暗躍があった。

マタレッラ大統領は2015年、当時首相だったレンツ氏が率いる中道左派連合の強い支援で大統領に当選している。それ以前も以後も、大統領がレンツィ元首相に近いのは周知の事実である。

1月29日、マタレッラ大統領がコンテ首相ではなくフィーコ下院議長に連立模索を指示したのは、ドラギ氏に組閣要請を出すための深謀遠慮、伏線のように見える。

つまりマタレッラ大統領は、辞任を表明したコンテ首相ではなく、敢えてフィーコ下院議長に連立工作を指示することによって、第3次コンテ内閣の成立を阻んだとも考えられるのだ。

政治的にほぼ無力のフィーコ氏が連立工作に失敗するのは明らかだった。一方、コロナパンデミックを通して国民の圧倒的な支持を受け強い指導者に変貌しているコンテ首相なら、再び彼自身が首班となる政権樹立が可能だった。

マタレッラ大統領もそのことは知悉し、また昨年のコロナ地獄を乗り切ったコンテ首相への信頼も十分にあると思う。それでいながら彼がコンテ首相に3度目の組閣要請を出さなかったのは、おそらく首相の背後に控えている五つ星運動への警戒感からではないか、と僕は考える。

そこに政治的に近しいレンツィ元首相の影響が加わって、マタレッラ大統領の動きが規定された。なにしろ次の首相候補としてマリオ・ドラギ前ECB総裁の名を最初に口にしたのは、レンツィ元首相なのである。

マタレッラ大統領、レンツィ元首相、そして前欧州中央銀行総裁のドラギ氏は言うまでもなく、全員が強力なEU(欧州連合)信奉者だ。片やコンテ首相は反EU主義政党・五つ星運動と親和的。

むろんそのこと以外にも対立や苛立ちや不審また不信感などがあるだろうが、親EUで固く結びついた政治勢力は、コンテ首相を排除してドラギ氏に白羽の矢を立てたのである。

以来、今日までのほぼ一週間に渡って、ドラギ氏は彼の内閣の誕生を目指して全ての政党と政権協議を進めてきた。

結果、冒頭で述べたようにドラギ氏は、最大勢力の五つ星運動と同盟をはじめとするほぼ全勢力の支持を取り付けた。

同盟はほぼ全党一致に近い賛成。一方の五つ星運動は、内部分裂の危機を孕んだ危うい状態での賛成ではある。

五つ星運動は彼らの金看板である「一定の国民に所得を保障する」ベーシックインカムまがいのバラマキ政策を死守したい思惑がある。が、そのバラマキ策に違和感を抱く国民も多くいる。

ドラギ氏との政権協議には、普段は姿を隠している五つ星運動の大ボス、ベッペ・グリッロ氏も参加。彼はかつてドラギ氏を「ECBのドラキュラ」などと口汚く罵っていた過去をころりと忘れて、ドラギ氏に擦り寄った。

グリッロ氏が突然表舞台に姿を現したのは、コンテ首相の退陣によって五つ星運動の求心力が下がるどころか、下手をすると党がドラギ氏の連立政権から弾き出されかねないことを恐れての動きだろう。

五つ星運動に似たもう一方のポピュリスト・極右の同盟も、早期の解散総選挙を声高に主張していた姿勢を改めて、あっさりとドラギ氏支持に回った。

政治に誠実や正直を求めても詮無いことだが、2党の指導者の節操の無さは相変わらずすさまじい。もっともそれは他の政治勢力も同じだが。

民主党とレンツィ党はEU主義者という意味で、既述のように欧州中央銀行の総裁だったドラギ氏とは親和的。また同盟とともに右派勢力を形成するベルルスコーニ元首相の「フオルツァ・イタリア」も、ドラギ氏とベルルスコーニ氏が旧知の仲であることを言い訳に、さっさとドラギ政権支持に回った。

ドラギ氏は先に触れたように、ほぼすべての政党からの支持を取り付けた。おそらく今週中にも首相に就任する見通し。 現時点で明確にドラギ不支持を表明しているのは、ファシストの流れをくむ極右小政党「イタリアの同胞」のみである。




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イタリア政治危機が行く~ジコチュー政治家より経済学者のほうがいいかも


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コンテ首相の辞任を受けて政治混乱が続くイタリアでは、マタレッラ大統領が欧州中央銀行(ECB)前総裁のマリオ・ドラギ氏に組閣要請を出した。

ドラギ氏は要請を受諾して「コロナパンデミックを乗り越え、ワクチン接種を完遂して国民生活を普通に戻し、イタリアを再生させなければならない。われわれにはEU(欧州連合)からの膨大な支援金がある」と抱負を述べた。

ドラギ氏は政権樹立を目指して各政党との話し合いに入った。しかし議会多数の支持を得られるかどうかは不明。

議会第一党の左派ポピュリスト五つ星運動はただちに不支持を表明した。五つ星運動は辞任したコンテ首相の再任を強く推してきた。

また右派の中心で議会第二勢力の同盟は総選挙を主張しているが、ベルルスコーニ元首相率いるフォルツァ・イタリアはドラギ政権に肯定的。

欧州中央銀行(ECB)総裁として欧州ソブリン危機で大きな役割を演じたドラギ氏は、国際的な知名度も評価も高い。

だが彼は経済学者である。経済学者は経済を理路整然と間違うこともよくある。ましてや政治家としての力量は未知数だ。

とはいうものの、前任のコンテ首相も就任した時はずぶの政治素人だった。

コンテ首相は最初の頃は、周囲の政治家連の“操り人形”と批判されたりもした。が、間もなく有能なリーダーであることが明らかになっていった。

もしもドラギ氏が対立の激しい各政党を説得して組閣にまで至るなら、レンツィ元首相に代表される我欲のカタマリのような政治家連よりも、イタリアのためにはるかに良いかもしれない。

コンテ、もはや「前」首相のように。。



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神さまは私を忘れた

Fatima Negrini108歳


108歳のイタリア人女性、ファティマ・ネグリーニさんは昨年新型コロナに感染したが、奇跡的に回復した。

死の淵から生還した時、ファティマさんは「神様はどうやら私を呼び寄せるのを忘れたようだ」とジョークを飛ばして医師や看護師らのスタッフを笑わせ、それはメデァアで大きく伝えられた。
 
イタリアでは2021年2月1日現在、 8万8千人以上の人々が新型コロナで亡くなり、その多くは80歳以上の高齢者である。

そのために新型コロナから回復したお年寄りには注目が集まる。

欧州全体でもその傾向は強い。 

例えばイタリアよりも新型コロナの犠牲者が多い英国は、世界で最も早く新型コロナワクチンの接種を始める際、最初の患者として90歳の女性を選んで話題になった。

英国ではその後も94歳と99歳のエリザベス女王夫妻がワクチン接種を受けてニュースになった。

普通ならそんな事案がメディアをにぎわすことはない。ニュースバリューのある話題ではなく、且つ個人情報の争点にもなりかねないからだ。

だがそのトピックは、おそらく女王夫妻の了解も得て、ニュースに仕立てあげられた。

そこにはできるだけ多くの人にワクチンを受けるように促す宣伝の意味合いが込められている。

世界にはワクチン接種を嫌い、科学を疑う人々が少なからず存在している。
 
ここイタリアでは2020年12月27日にコロナワクチンの接種が始まり、2021年1月月31日現在、195万8千691回分が接種された。

新型コロナを克服した冒頭のファティマ・ネグリーニさんも、1月18日にワクチンの接種を受け、そのことも再びニュースになった。

イタリアのワクチン接種件数は欧州では英国に次いで多い。だがその数字は当初の計画に比べると遅れている。

製造元の欧州での生産が追いつかないというのが理由だが、説明に少々不明瞭な部分もあって、EU(欧州連合)と製薬会社が対立している。
 
コロナワクチンは医療関係者に優先的に接種され、次に感染すると重症化しやすい高齢者に接種される。

ことし6月に109歳の誕生日を迎えるファティマ・ネグリーニさんは、むろん高齢者として優先的に接種を受けた。

同時に、ワクチン接種者としては世界最高齢とも見られるその年齢によって、イタリア中に明るい話題を振りまいている。

それはさておき、

日本政府のワクチン接種戦略の迷走ぶりは目もあてられない。

いくつかの製薬会社とワクチン購入契約を結んだというが、中身はどうなっているのだろうか。

昨年からワクチンの供給を受けはじめているEU(欧州連合)でさえ、購入契約をめぐって製薬会社ともめている。

コロナ対策すらもしっかり行えない管政権が、生き馬の目を抜く世界のワクチン獲得ゲームで勝てるとはとうてい思えない。

いつから、誰に、どのようにワクチン接種を開始するかも不明瞭なら、ワクチンの入手そのものでさえ覚束ないように見える。

最短で2月の末に初のワクチン接種が行われたたとしても、EU(欧州連合)に2ヶ月以上も遅れてのスタート。

世界で初めて新型コロナワクチンの接種を始めたイギリスに比較すると、ほぼ3ヶ月もの遅れになる。

日本はワクチン接種戦略で大きく失敗して、その結果経済で欧米ほかの国々に太刀打ちできなくなる、という懸念が世界のそこかしこで出始めている。

そんな折に菅首相は、国会質疑で議員の批判を受けて「失礼だ。一生懸命仕事をしている」などと子供にも劣る愚かな答弁をした。

日本最強の権力者、という願ってもない地位をタナボタで得た彼は、その僥倖に深く感謝して謙虚になるどころか、権力を笠に着て居丈高になっている。

何おか言わんや、である。

民主主義の底の浅い日本の権力者は、お上に無批判に頭を垂れる国民が多いことに乗じて、自らが国民の下僕であることも忘れてすぐに増長しがちだ。

管首相の「失礼だ」発言はそのことを端的に示している。

国民への真摯な語りかけもコロナ対策も不得手な彼は、国民に「失礼」だ。さっさと退場してもらうほうがよほど国益にかなうのではないか。




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コンテ内閣、上院できわどい信任


2012年12月1日~8日 026 650


イタリア上院は19日、賛成156、反対140の僅差でコンテ内閣を信任した。

レンツィ元首相が率いる小政党「Italia Viva イタリア・ヴィヴァ」が連立政権から離脱したのが政局混乱の原因である。

議会絶対多数は161だった。そこに届かない場合はコンテ首相が辞任するなど、さらなる政治不安が出現する可能性もあった。

単純多数で信任されたンテ首相は「少数与党政権」を率いることになる。

イタリアでは珍しくないことだが、新型コロナパンデミックの中での厳しい政権運営になることが必至である。

イタリアでは上下両院が同等の権限を持つ。コンテ首相は予算案などの重要法案の可決の度に絶対多数工作をしなければならない。

パンデミックがはびこる非常時に、エゴイズム丸出しで政治混乱を演出したレンツィ元首相は無体な政治家だが、無体がイタリア政治の常態だから、今後もしぶとく恥知らずに生き延びるのだろう。



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