イタリアは先月、欧州主要国の中で初めて、女性が女性であるという理由だけで殺害される、いわゆるフェミサイドを独立した犯罪と定めた。
有罪になると自動的に終身刑に処される。死刑のないイタリアでは最も重い仕置きである。
世界の殺人事件の被害者は、およそ8割が男性である。そのため一般的ではない女性被害者にことさらに焦点を当てる、フェミサイド論争はおかしいという見解も根強くある。
しかしフェミサイドの根底にあるのは、深い女性差別の心理であり、男による女性支配願望である。それは家父長制社会の特徴でもある。
そんなメンタリティーが支配する状況では、女性はただ「女性である」という理由で殺される。フェミサイドの被害者にとっては、家の中が最も危険、という容認しがたい環境があるのだ。
そんな理不尽は必ず是正されなければならない。
世界的に認められたフェミサイドの定義はない。だがそれは世界中で頻繁に起きる。人口比率で見ると世界の発生率はアフリカが最も高い。次いで南北アメリカ、オセアニア、アジア、ヨーロッパの順になる。
発生件数で見ると、世界全体では毎年6万6千人前後の女性がフェミサイドで殺害される。最も多いのは中南米の国々。
またインドやアラブ諸国も多く、米国では1日に平均4人の女性がフェミサイドに遭う。
ちなみに欧州で発生率が高いのはバルト3国。次いでクロアチア、オーストリアが高い。その逆にスウェーデン、イタリア、ギリシャ、スペインなどが低い。
ただし発生件数を絶対数で見ると、人口の多いドイツ、フランスでの犠牲者数が多く、イタリアも同様である。
英国は特殊なデータ収集法を用いていて、比較がさらに難しいが、2022年の統計ではフェミサイドと見られる殺人の犠牲者は121人。
このうち12人が息子によって殺されている。英国では2009年から2024年の15年間で170人あまりの母親が息子に殺された。
母親殺しは英国が突出して多いようだ。いわゆるラテン文化の伊仏葡西を少し知る僕には、英国の事情には思い当たるフシがある。
ちなみに2024年のフェミサイドの犠牲者数は、イタリアが116人、フランス107人、ドイツ191人、英国ではおよそ80人という数字が出ている。
しかし、同国では平均して3日に1人の女性が男性によって殺害されているという統計もある。全体では約120人となり、他の主要国に近い数字で納得しやすい。
イタリアのフェミニサイド発生率は前述のように際立って高い訳ではない。英独仏スペインなどとほぼ同程度である。
イタリアは女性の権利意識や社会進出、またジェンダー事案全体の開明性という点などでは、英独仏等に遅れを取りがちだ。
イタリアは現在、世界男女格差指数で85位と、EU加盟国の中でほぼ最下位に位置している。およそ150カ国中で毎年120位前後が定位置の日本ほどではないにせよ、ホントに欧州の国かと疑いたくなるほどの寂しい数字である。
さらに言えば、イタリアにおける女性の就業率は50%強にとどまるなど、課題は少なくない。
そのイタリアがフェミサイドを重要犯罪と位置づけて特別扱いし、有罪の場合は自動的に終身刑にするとした進歩性を見せた。なぜか。そこにはイタリアならではの事情がある。
イタリアの年間の犠牲者数は記述のように取り立てて高い訳ではない。英独などに比べるとむしろ少ないと見たほうがいい。
イタリアではかつて、フェミサイドの被害者が1年に平均171人もいた。ほぼ2日に1人のペースである。
幸い数字は年々減る傾向にあり、2023年は120人、2024年は既述のように116人、2025年は11月末現在106人。
件数は減り続けているが、それでも毎年100人を優に超す人数の女性がフェミサイドに遭っている。
イタリアの特異さは、フェミサイドが軽視される傾向にあることである。男が主として愛情のもつれから女性を殺害するのは、「相手女性を愛し過ぎているから」という暗黙の了解が厳然としてある。
いわゆる痴話喧嘩の極端なケースがフェミサイドである。そして痴話喧嘩は極めて個人的な事案であり、痴話喧嘩には他人は口を出すべきではない、という心理がイタリア人には強く働く。
まさにアモーレ(愛)の国ならではの在りようだが、被害者になる女性はたまったものではない。だからこそイタリアでも、女性に対する暴力を何とかしなければならない、という気運が高まった。
イタリアでは、女性の殺害には至らないものの、顔や体に大きな損傷を受ける酸攻撃の被害者なども少なくない。
たとえば先年、ジェシカ・ノターロさん(27)が元恋人の男に酸を浴びせられて顔を大きく損傷した。ノターロさんはミスユニバースのイタリア代表選で最終選考まで残り、歌手としても知られた存在。
彼女は事件から2ヶ月後に敢えてテレビ出演をして、破壊された顔を画面にさらし「私をこんな姿にしたのは断じてアモーレ(愛)などではない」と訴えて、視聴者の心を震撼させた。
女性の権利意識が高い欧州の中で、イタリアはどちらかというと後進地域の一つであり続けている。そこには保守傾向が強いバチカンを抱えた特殊な事情等がある。
だがそのイタリアに於いてさえ、「愛にかこつけた女性への暴力」の愚劣を根絶しよう、という動きが高まって、ついに欧州でも先進的な・画期的な法律が成立した。
他の国々も続くと見られている。
続くべきである。



















