イギリスの天は人の上に人を作り、結果、人の下に人を作る。
同国のスナク政権は政治闘争に敗れて政界を去ったデヴィド・キャメロン元首相を、選挙の洗礼を経ずに貴族に仕立て上げて貴族院(上院)議員とし、さらに外務大臣にしつらえた。
世界一の民主主義国家とも評されるイギリスの、非民主主義的な一面を目にするたびに僕の彼の国への尊敬は磨り減っていく。特にBrexitを機にその傾向は深まるばかりだ。
キャメロン新外相は自身が首相だった2016年、国民投票でイギリスの欧州連合離脱=Brexitが決まった責任を取って首相を辞任し、やがて下院議員も辞めて政界から引退した。
ところが今回、Brexit推進派で彼の政敵だったスナク首相の要請を受け入れて、恥ずかしげもなく外相職を引き受けた。
日和見主義は政治家のいわば天質だから、キャメロン氏を軽侮しつつも敢えて太っ腹などと評価することもできないではない。
だが、人の上に人を作り人の下に人を作るイギリス社会の未開振りにはげんなりする。換言すれば王を戴く同国の身分制社会は胡散臭い。見ていて胸が悪くなる。
民主主義大国と謳われながら非民主主義的な傷ましい本質にも縛られている怪物国は、連合王国としての構造破壊がなされない限り決して変容しない。
僕は英連合王国の解体を見てみたい。英国解体は荒唐無稽な話ではない。
英国はBrexitによって見た目よりもはるかに深刻な変容に見舞われていると思う。
その最たるものは連合王国としての結束の乱れだ。
イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド から成る連合王国は、Brexitによって連合の堅実性が怪しくなった。
スコットランドと北アイルランドに確執の火種がくすぶっている。
スコットランドはかねてから独立志向が強い。そこにBrexitが見舞った。住民の多くがBrexitに反発した。今も反発している。
スコットランドは今後も独立とEUへの独自参加を模索し続けるだろう。北アイルランドも同じだ。
僕は若いころ首都ロンドンに足掛け5年間暮らした。僕の英国への尊敬と親愛と思慕の念はその5年の間にかつてないほど高まった。
英国を去り、日本、アメリカ、そしてここイタリアと移り住む間も僕の英国への思いは変わらなかった。三嘆の心はむしろ深まった。
Brexitを機に僕の思念は揺れ動いた。それはアメリカへの思慕がトランプ前大統領の誕生を機に一気にしぼんだことと軌を一にしていた。
英国は僕が信じていた民主主義大国ではなく、生まれながらにして人の上に立つ王を崇める原始人国民が多く住む悲惨な国だと分かった。Brexit はそのことと無関係ではない出来事だった。
キャメロン元首相が、ふいに貴族となって貴族院議員になり外相になるという事態も、国王を上に戴き人を生まれながらに身分で選り分ける鬱陶しい体質故の奇態と理解できる。
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