アフリカに最も近いイタリアの地、ランペドューサ島への難民・移民の流入が続いている。冬に向けて荒れる海が気候変動の影響で凪いでいるのも一因だが、難民・移民を密航させて儲ける人身売買業者が暗躍して、難民・移民を次々に海へ欧州へと送り出しているのだ。
むろん問題の大元には、難民・移民の故郷が戦乱や政変で荒廃し迫害された人々が貧困にあえがなければならない厳しい現実がある。人々はそこから逃れようとして人身売買業者の甘言にすがりつく。
EUは、難民・移民危機がピークだった2015年前後の状況にも迫ろうとする、渡りの群集の増大に危機感を抱いて、彼らの転入をより厳しく制限する方向に舵を切り、危機規制という名の協定を加盟国間で結んだ。
EU加盟国は、イタリアやギリシャなどの難民・移民の上陸最前線の国々に寄り添う形で規制を強化し、各国が多くの移民申請者を自国に受け入れるか、割り当てられた移民の受け入れを拒否する場合は1人当たり2万ユーロを支払うか、またはインフラや人材支援に資金を提供する義務を負うことになった。
また加盟各国は流入した難民・移民をこれまでは最長12週間拘束することができたが、協定によって20週間まで伸ばすことができるようになる。これは場合によっては、難民・移民が彼らの故国に送り返されるリスクが高まることを意味する。また難民手続きが遅滞し大規模な監禁につながる危険も高まる。
協定の成立までには紆余曲折があった。特に難民・移民の最初の上陸地となるイタリアは流入の制限に積極的だったが、多くの難民・移民が移住を希望するドイツは、厳しい制限は人道上ふさわしくないとして反対してきた。
イタリアは難民・移民を乗せた船舶の寄港を制限する動きに出たが、ドイツは難民・移民を乗せてイタリアの港を目指す同国籍のNGOの船舶に支援金を出すなどして、イタリアの反発を買った。
そのドイツも最終的にはイタリアの批判に折れる形で、危機規制協定に調印した。EUで最も寛大な移民措置を取ってきたドイツがついに規制に動き出すのは、難民・移民危機がいかに深刻化しているかの証だ。
それでもEUを中心にする欧州は、難民・移民の受け入れを今後も続けることは疑いがない。難民・移民に厳しそうに見えるイタリアは、せっせと彼らを救出し受け入れてきた。片やドイツは労働力の確保という実利を見つめてはいるものの、道義という意味ではイタリアをはるかに凌ぐ勢いで困難に陥った人々を支援してきた。
ほかの欧州の国々も、程度の差こそあれ基本的には難民・移民を温かく迎えてきた。いうまでもなく彼らを嫌う欧州発のネトウヨヘイト系差別主義者も存在するが、「欧州の良心」が常に勝利を収めてきたのだ。
EUひいては欧州の国々は、時には対立することがあっても、難民と移民の違いさえ知らない為政者や国民も多いように見える例えば日本などに比べれば、とてつもなく広い心で困窮した人々を救っていくだろう。
救い続けていくと信じたい。