【テレビ屋】なかそね則のイタリア通信

方程式【もしかして(日本+イタリ ア)÷2=理想郷?】の解読法を探しています。

米大統領選・2016

トランプ入国禁止令に[賛成多数]の衝撃

stara and stripes のスカーフを被ったイスラム女性400pic


トランプ米大統領が、中東・アフリカ7カ国からの人の入国を一時禁止したことなどをめぐり、全米各地で抗議活動が起きている。報道を見る限りでは米国民の大多数が大統領令に反対しているような印象を持つ。

ところが、ロイター通信が行った世論調査によると、入国禁止の大統領令に反対しているのは米国民の41%、一方賛成しているのは49%という数字が出た。この結果に僕は、少し大げさに言えば、衝撃を受けた。

ほぼ同時期に行われたギャラップ社の世論調査の結果では、賛成と反対の数字が42%と55%と逆転している。が、いずれにしても米国民の少なくとも半数が、トランプ大統領の政策を支持していることは間違いない。

選挙戦でもトランプ大統領と民主党のクリントン候補の支持率は拮抗していた。従って7カ国からの入国禁止令をめぐっても賛否がほぼ半々になるのが当たり前、という見方もできるかもしれない。

だが、米国を筆頭に世界中のメディアが連日報道しているのは、大統領令に反発して抗議活動をする人々の動きばかりである。あたかも「大統領令への反対一色」という雰囲気だ。だが現実は違っている。

インターネット、特にSNSの普及によって大手メディアの報道の中身が問われ始め、やがてそれはエスカレートして、ネット住民による「マスゴミ」呼ばわりは過激すぎるにしても、既成メディアへの不信感や懐疑論は膨らみ続ける一方だ。

今ではSNSのツイッターを駆使して世界最強の権力の座に就いたトランプ大統領が、大手メディアのテレビ画面でその大手メディアの記者に向かい、「君たちはフィエクだ。嘘を垂れ流すクズだ」と言い放つ時代になった。

大手メディアをフェイクと断罪するトランプ大統領とその陣営が、実はフェイク・ニュースを垂れ流している虚構であり、危険な嘘で塗り固められた存在、という可能性の方がもちろん依然として非常に高い。

去った選挙戦へのロシアの介入の有無や、オバマ前大統領と現職の就任式の人出の多寡をめぐる言い争い、現政権の報道官の不可解な言動など、など、疑問符満載の状況は時と共に真偽が暴かれ改善されていくだろう。

だが現在進行形で報道されている「事実」と、冒頭で述べた世論調査が示唆する「実証」との間に乖離があるのも明白な「現実」だ。僕は自身もメディアの中で生きてきた人間として、衝撃と共に目からウロコ、という思いにも強く捉われている。

叫ぶtrump醜悪顔400pic


それはトランプ大統領に賛成するという意味では毛頭ない。いや、むしろ逆だ。それらの「多様な現実」の存在を容認しつつ、僕はここ欧州に跋扈しつつある排外・差別主義者、日本に多い歴史修正論者や「反ポリコレ(ポリティカルコレクトネス)主義者」つまりネトウヨ・ヘイト扇動者、また不寛容志向者や引きこもりの暴力愛好家などに反対する。

「反ポリコレ主義者」に反対するとは、ポリコレ棒を振りかざして言おうとするのではない。ポリコレ棒で他者を殴る者は、差別や偏見をしないという善を盾に言葉狩りの「独善」に陥って、あらゆるものを糾弾し、多様性を認めるはずが、逆に多様性否定論者と同じになってしまうことが多い。

つまり行き過ぎたポリコレ信者は、自らの差別思想や偏見や不寛容や憎しみを秘匿して、差別用語やヘイト感情をむき出しに他人を攻撃する、「反ポリコレ主義者」と何も変わらない存在になってしまうのだ。

人種、宗教、女性差別などに始まる多くの差別感情と憎しみをあおり続けるトランプ大統領は、どこまでいっても危険なポピュリストだ。人類が多くの犠牲を払って獲得したポリコレの哲学や知恵やコンセプトは、全て無駄でつまらないことだと断定して、世界を後退させようとするネガティブな存在だ。

しかし、大多数の人々がそれを望んでいるとすれば、民主主義を標榜する限りアメリカは、トランプ大統領の目指す方向に引きずられていく可能性が極めて高い。そうなればアメリカは、自由や平等や機会の均等などを高らかに謳う、これまでのアメリカではなくなる。

いやトランプ氏を大統領に選んだ時点で、アメリカはもはや『米国民が理想とするアメリカ』の実現を目指して進む国家、ではなくなったとも言える。それは僕自身もそこに住んで実体験した偉大なアメリカ、つまり人種差別や不平等に苦しみながらも、敢然としてその撤廃に向けて歩み続ける人々の住む国ではなくなった、という意味だ。

僕は選挙戦の初めからトランプ候補の批判者であり続け、今はさらにそうだが、大統領になった彼の極論を歓迎する民衆の姿を見て、自分の立場を少し軌道修正しつつある。つまりアメリカはトランプ主義を即座には撃退できない。撃退どころかますますそれに飲み込まれていく可能性が高い、という悲観論者の立場への傾斜だ。

同時にその悲観論は、トランプ革命によって古い秩序が破壊される結果、これまでは見られなかったポジティブな方向に米国が変わり、それが世界をリードするかもしれない、というかすかな期待とも連動している。言うまでもなくそれは、過去の歴史に鑑みれば、トランプ主義は世界に否定的な打撃をもたらす運命にある、という危惧に比べてとても小さいけれど。

トランプのトランプによるトランプのための民主主義


トランプ宣誓400pic


トランプ新大統領の就任式の一部始終を衛星生中継で見た。多くの民主党議員が出席をボイコットした異変と、会場外で抗議デモが燃え盛った点などを別にすれば、式次第は通常のものだった

しかしながら、トランプ氏自身の就任演説は、彼の選挙キャンペーンと同じく、人々の分断を助長する可能性が高い、という意味で警戒しなければならない残念な内容だった。

彼は就任演説で「アメリカ・ファースト(第一)」と叫び、アメリカをアメリカ国民のために取り戻す、と宣言した。選挙公約を実行した形だ。自国の利益を優先させることは一国の指導者の当たり前の姿勢だ。それ自体は悪くない。

だがその宣言の真意は、彼の率いる米国が、世界のことは斟酌せずに自国の利益のみを追求し、且つ「他国には厳しい金持ち国家を目指す」というものである。世界に冠たるリーダー国にはふさわしくない寂しい主張だ。

トランプ氏は就任前からツイッターで個別の企業を名指しで脅した。結果、いくつかの企業が恐れをなして彼の思惑通りの「アメリカ・ファースト(第一)」を実践し、国内に雇用を生み出すための投資を行うと発表した。

世界最大・最強の権力、米大統領職の威光を利用しての恫喝が功を奏した形だ。彼の手法は一時的には好結果をもたらすように見える。が、長い目で見れば破滅だ。それは恐怖政治にほかならないからだ。

アメリカ国民がひたすら自国の経済効率ばかりを追い求め、自らの国と世界政治に望む「彼らの理想」と「建国の精神」を忘れて、新大統領に唯々諾々と従うならば、アメリカはもはやアメリカではない。

理念や哲学のない、従って品格のないアメリカなら、米国はただの成金国家であり戦争屋であり尊大で危険な帝国に過ぎない。換言すれば、トランプ大統領が目指す米国は尊敬するに値しない。

企業経営の論法で国家を運営しようとするのは間違いだ。特にその首謀者自身が優秀な企業家である場合はなおさらである。利益相反が生じるからだ。

首謀者らは決まってそのことを否定する。だが経済、つまり金の計算のみで国を操縦しようとする彼らの立場自体が、利益追求に狂奔するだけの事業家のものだから、ヒトと同じく理想や良心や品格も希求するまともな国家のあり様とは矛盾する。

新大統領の本性はただの商売人なのだ。商売人は商売だけをしている限り何も問題はない。また一国の経済をうまく動かすことももちろん重要である。国家経営の手腕を最も問われる能力の一つだ。だがそれだけではダメなのだ。経済力と共に理念や道心も示してこそ、理想的な国家の設計図が完成する。

トランプ大統領は、ここイタリアのベルルスコーニ元首相を反面教師とするべきだ。事業家の元首相はビジネスと同じやり方で国家の舵取りをしようとした。が、私利私欲に走って破綻した。トランプ大統領はその轍を踏まないようにするべきだ。

トランプ大統領には、選挙戦中に指摘され続けたように、品格がまるでないことが大統領就任式であらためて明らかになった。ここでいう品格とは、彼のような億万長者から貧しい者にまで等しく備わっているはずの、「他者を思いやる」心のことだ。

彼は選挙期間中から執拗に他者への攻撃を繰り返してきた。不寛容と憎しみと差別をあおってきた。だがそれは厳しい選挙戦を戦い抜くための方便ではないか、と多くの人が考えたがった。僕もその1人だ。

正直に言おう。トランプ次期大統領は、就任式でそれまでの無残な醜貌をかなぐり捨てて、世界から尊敬される米大統領の品格の片影をみせるのではないか、と僕はひそかに期待した。全ては裏切られた。トランプ氏はやはりトランプ氏でしかなかった。

彼は選挙戦の攻撃の仕上げとして、冒頭で述べた「アメリカ・ファースト(第一)」のスローガンを盾に、彼の政権は事業家である大統領個人がそうであり続けたように、アメリカの利益のみをひたすら追求する、と言い放ったのである。

それでも僕は、一点だけトランプ大統領の就任演説の内容に共感を覚えた。それはイスラム過激派を殲滅する、という彼の宣言だ。そのことについてもここに明記しておきたい。

彼がイスラム教徒ではなく、あくまでも「イスラム過激派」を目の敵にすることには賛成だ。しかし、それとて全面的に賛成できないのが、トランプ氏の異様な「トランプ主義」なのである。

というのも彼は、イスラム過激派の構成員と共に「彼らの家族」も殺害する、と公言してはばからない。それはトランプ氏の狂気振りを示して余りある、不気味な発想だ。テロリストと彼らの家族は別の存在だ。家族には何の罪もない。むしろ家族は被害者である可能性の方が高い。

トランプ氏が犯罪者と家族は同罪だと言い張るのなら、僕は彼にこう聞きたい。「あなたは女性を性的に虐待したと選挙期間中に糾弾されたが、もしもその告発が事実だと証明されてあなたが有罪になった場合、あなたは自身の妻や子供たちにも罪がある、と考えるのですか」と。

言うまでもなく、トランプ氏の罪と家族は関係がない。テロリストも同じだ。彼らの家族まで殲滅するというのは、狂気にも等しいおぞましい考えだ。だがその狂気をもたらす、彼の思想信条らしいものの正体は、もっとさらにおぞましいものだ。

なぜ彼は犯罪者の家族まで罪人に仕立て上げたいのか?それは例えば、敢えて日本の過去の歴史を遡って考えてみれば明らかになる。つまり、中国大陸から伝来して秀吉の統治法に組み込まれた5人組制度が、精神的呪縛となって国中に生き続け、やがて大戦中の隣組制度にまで受け継がれた「連帯責任」思想と同じものなのだ。

中国古代の人権無視、自由抑圧の野蛮な未開思想が、封建社会の日本に受け継がれて権力者に利用されたのは、世界各地でも同様なことが起こったことからも分かる通り、いわば歴史の必然だった。従ってそのこと自体はもちろん責められるべき事案ではない。

日本と世界は戦争や破壊を繰り返しながらも、その後は少しづつ進歩して暗黒の時代から抜け出した。未開思想を無くし克服しようとする意思に支えられて、今もさらに進化を続けている。トランプ氏はそのポジティブな歴史の流れに真っ向から逆らっている。

1人のあるいは一部の集団の責任を全体に押し付けて、これを抹殺しようとするのは未開人の発想だ。まさにISなどのイスラム過激派の思想とそっくり同じなのだ。第45代米国大統領は、そんな過激思想を隠そうともしないまま、超大国の舵取りを始めてしまった・・

似て非なるソックリさん~トランプ&ベルルスコーニ

鏡絵の二人

オワコンvsトレンド

トランプ米次期大統領とイタリアのベルルスコーニ元首相の間には共通点が少なくない。前者はこれから昇り竜の勢いで恐らく世界を席巻し、後者は自らが前者に例えられることを喜んでいる事実からも察せられるように、すでに終わった人と見なしても構わないと思う。それでも、たとえば12月4日に行われたイタリア国民投票のように、紛糾する同国の政局に於いては、依然として影響力を行使政する治家である。事態の是非や好悪の念は別にして、何かと話題になる2人について少し考えてみたい。

ベルルスコーニ元首相への評価は、約20年に渡ってイタリア政界を牛耳り、4期計9年間も首相を務めた時間の重さの割には、極めて低いと言わざるを得ない。将来の歴史家がどこかで違う評価を下す可能性は常にあるが、彼が自らの刑事訴訟を回避する法律を作ったり、巧妙に所有企業への便宜を図るなど、私利私欲のために立ち回った政治スタンスと、裁判沙汰や未成年者買春疑惑などを始めとするスキャンダルの多さは、あまたの批判を喚起するのが普通だ。

一方のトランプ氏は、政治家としてしてはまだ何も成就しておらず、選挙キャンペーン中に彼が提示した政策は、政策と呼ぶには程遠い罵詈雑言やヘイトスピーチや誹謗中傷の類だった。従って2人は政治家としても、また政策上でも相似点や異なる点は今のところは何もない。彼らが似ているのは、政治の世界に乗り出したきっかけや背景や人となりや思想信条などである。それでも政治的にはほぼ終わったベルルスコーニ氏をつぶさに見ることで、トランプ氏の政治家としての未来を占うことはできるかもしれない。

2人の共通点:実業家

共に成功した実業家で大金持ち。どちらも政治家としては未知数、という状況でそれまでのビジネスでの成功を頼みに政治の世界に殴り込みをかけた。それでいながら、ベルルコーニ氏は政界入りから間もない速さで政権を奪取、また周知のようにトランプ氏は、不可能にも見えた共和党大統領候補の座を射止めるや否や、アメリカ大統領へと一気に駆け上っていった。

双方とも建設業を足がかりに、ベルルスコーニ氏はテレビ網や出版また新聞社などを所有してメディア王と呼ばれるようになり、トランプ氏は不動産王と称される事業家になると同時に、テレビタレントとしても成功した。前者はメディアの中でも特にテレビを重視。自らも頻繁にテレビに出演して、討論や演説で自説を開陳しまくった。2人共にテレビに深い縁を持ち、視聴者ひいては世論を味方につけるメディア操作術を得意とする。

艶福家&偏好発言

文学的(?)に言えば性愛好き。つまり好色家。女性蔑視と見られても仕方のない行状や暴言やジョークを連発して、顰シュクを買いつつも少しも悪びれず、むしろそれを特技に変えてしまうかのような悪運の強さがある。トランプ氏は3回結婚。ベルルスコーニ氏も2回の離婚歴があり、御ン年80歳の現在はほぼ50歳年下の婚約者と同棲している。

漁色が高じて、ベルルスコーニ氏は少女買春疑惑を始めとするセックススキャンダルにまみれ、私邸での「ブンガブンガ」乱交パーティーは流行語にもなった。またトランプ氏は選挙期間中に多くの女性への性的虐待疑惑が明るみに出るなど、両人とも女好きでありながら同時に女性の精神性や能力を蔑視するような、いわゆるミソジニストの側面を持っていると批判される。

2人とも反移民の立場を取り、人種差別主義者、また特にイスラム教徒への偏見が強い宗教差別者と見なされることも多い。しかしトランプ氏が、特に選挙期間中にあからさまな表現で人種差別や宗教差別、また移民への偏見や女性蔑視をあらわにしたのと比べて、ベルルスコーニ氏はおおっぴらにそうした主張をすることは少ない。それでいて、イスラム教徒は1400年代と同じメンタリティーに縛られていると口にしたり、オバマ大統領は日焼けしているなど、本人はジョークのつもりの人種差別まがいの失言にも事欠かない。

利害対立と政治手法

両者はビジネスを成功させた手腕をそのまま用いて、国家の経済をうまく機能させられると考え、そう主張する。しかし実際に権力を握ったベルルスコーニ氏は、首相の座に就いていた間もそうでない時も、国民を思って景気を良くしようと努力することはほとんどなかった。それどころか政権の最後には、自らの利益のために立ち回って国家経済を停滞させた責任を取らされ、辞任した。

公益のために身を粉にして活動するには、元首相は余りにも多くの個人資産や事業を抱え込んでいたのだ。いわゆる(公私の)利害衝突だ。元首相と同じビジネス大君のトランプ氏は、同じ轍を踏まない努力をするべきだが、ここまでの動きを見る限りでは、元首相と似た手法を用いて国家経済を牽引できないか、と模索しているふしがある。危ういことこの上もない。

また両氏は正統主義とはほぼ逆の政治手法、つまり体制に反旗を翻すと見せかけた動きで民衆の支持を取り付けるのがうまい。いわゆるポピュリズムの扇動者。彼らが使う言葉が往々にして野卑であり、挑戦的であり、かつ怒りに満ちているように見えるのは、民衆の不満の受け皿としての政治的スタンスを最大限に利用するためである。その場合彼らは具体的な政策や解決法を示さないことも多く、時には嘘も厭うことなく織り込んで、主流派と呼ばれる社会層を声高に批判し、民衆の喝采を受けることに長けている。

子供の放言~元首相を擁護する訳ではないが

2人には巨大かつ根本的な違いもある、というのが僕の意見である。つまりベルルスコーニ氏は、トランプ氏のように剥き出しで、露骨で無残な人種偏見や、宗教差別やイスラムフォビア(嫌悪)や移民排斥、また女性やマイノリティー蔑視の思想を執拗に開陳したりすることはなかった。或いはひたすら人々の憎悪を煽り不寛容を助長する声高なヘイト言論も決してやらなかった。また今後もやらないであろうということだ。

言うまでもなく彼には、オバマ大統領を日焼けしている、と評した前述の言葉を始めとする愚劣で鈍感で粗悪なジョークや、数々の失言や放言も多い。また元首相は日本を含む世界の国々で、欧州の国々では特に、強く批判され嫌悪される存在である。僕はそのことをよく承知している。それでいながら僕は、彼がトランプ米次期大統領に比べると良心的であり、知的(!)でさえあり、背中に歴史の重みが張り付いているのが見える存在、つまり「トランプ主義のあまりの露骨を潔しとはしない欧州人」の一人、であることを微塵も疑わない。

言葉をさらに押し進めて表現を探れば、ベルルスコーニ氏にはいわば欧州の
“慎み”とも呼ぶべき抑制的な行動原理が備わっている、と僕には見える。再び言うが彼のバカげたジョークは、人種差別や宗教偏見や女性蔑視やデリカシーの欠落などの負の要素に満ち満ちている。だが、そこには本物の憎しみはなく、いわば子供っぽい無知や無神経に基づく放言、といった類の他愛のないものであるように僕は感じる。誤解を恐れずに敢えて言い替えれば、それらは実に「イタリア人的」な放言や失言なのだ。

あるいはイタリア人的な「悪ノリし過ぎ」から来る発言といっても良い。元首相は基本的にはコミュニケーション能力に優れた楽しい面白い人だ。彼は自分のその能力を知っていて、時々調子に乗ってトンデモ発言や問題発言に走る。しかしそれらは深刻な根を持たない、いわば子供メンタリティーからほとばしる軽はずみな言葉の数々だ。いつまでたってもマンマ(おっかさん)に見守られ、抱かれていたいイタリアの「コドモ大人」の一人である「シルビオ(元首相の名前)ちゃん」ならではの、おバカ発言なのである。

似て非なる2人

トランプ氏にはベルルスコーニ氏にあるそうした抑制がまるで無く、憎しみや差別や不寛容が直截に、容赦なく、剥き出しのまま体から飛び出して対象を攻撃する、というふうに見える。トランプ氏の咆哮と扇動に似たアクションを見せた歴史上の人物は、ヒトラーと彼に類する独裁者や専制君主や圧制者などの、人道に対する大罪を犯した指導者とその取り巻きの連中だけである。トランプ氏の怖さと危険と醜悪はまさにそこにある。

最後にベルルスコーニ氏は、大国とはいえ世界への影響力が小さいイタリア共和国のトップに過ぎなかったが、トランプ次期大統領は世界最強国のリーダーである。拠って立つ位置や意味が全く異なる。世界への影響力も、イタリア首相のそれとは比べるのが空しいほどに計り知れない。その観点からは、繰り返すが、トランプ氏のほうがずっと危険な要素を持っている。

トランプ氏が大統領の座に就けば、これまでの暴言や危険思想やヘイト言動が軌道修正されて「まとも」な方向に進む、という考えは楽観的に過ぎると思う。またたとえそうなったとしても、それは彼が変わったのではなく、政権の周囲がそうさせるに過ぎない。彼の本質は永久に変わらない、と見るのが妥当だ。その変わらない本質を秘めたまま、トランプ次期大統領は地上最大・最強の権力者の座に就こうとしている。


イラストby kenji A nakasone




トランプ次期大統領の罪


ついにトランプ米大統領が誕生することになった。

反移民、人種差別、宗教差別など、米国の国是と世界の大勢に真っ向から対立する主張を旗印にして選挙戦を戦ったトランプさんは、言うまでもなく、就任後に有能な大統領に化ける可能性もある。

アメリカを建て直し、中東からISを追い出し、欧州や日本などの同盟国ともうまくやっていくかもしれない。 

だが彼は、「差別や憎しみや偏見などを隠さずに、しかも汚い言葉を使って公言しても構わない」という考えを人々の頭に植え付けてしまった。

つい最近まで、つまりトランプさんが選挙キャンペーンを始める前までは、タブーだった「罵詈や雑言も許される」といった間違ったメッセージを全世界に送ってしまった。

それはつまり、人類が多くの犠牲と長い時間を費やして獲得した「寛容で自由で且つ差別や偏見のない社会の構築こそ重要だ」というコンセプトを粉々に砕いてしまったことを意味する。その罪は重い。
 
彼の愚劣な選挙キャンペーンによって開けられたパンドラの箱は、もう閉めることができない。

トランプさんはその一点でこの先も糾弾され続けなければならない。

その罪過は、将来彼が偉大な大統領として歴史に名を残すことになっても、あるいは帳消しにならないほどの大きなものだ。

「本音を語ることがつまり正直であり正しいことだ」と思いこんでヘイトスピーチを行い、それを容認し、本音の中にある差別や偏見から目をそらす者は、さらなる偏見や差別思想にからめとられる危険を犯している。

それがトランプさんであり、選挙戦中の彼のレトリックである。

大統領に当選したからといって、無条件に彼を祝福する理由はまだ何もない。 

 

トランプが背中を押すイタリアのEU離脱



看板+grillo大げさに驚く
ベッペ・グリッロ「五つ星運動」党首


トランプ米次期大統領の誕生で、イタリアの最大野党=左派ポピュリストの「五つ星運動」が勢いづいている。党首のグリッロ氏は、「トランプ次期大統領は五つ星運動と一心同体だ、われわれも彼に続こう!」と支持者に向けて激を飛ばした。

左派の五つ星運動が、敢えて旧来の定義に従って言えば極右に属するトランプ氏に賛同し、あまつさえ一心同体とまで断言するところにイタリア政局の不思議があり、瞠目するほどの柔軟性と多様性がある。それは言葉を変えれば「混沌」ということである。

五つ星運動はポピュリストであること、反体制であること、EU(欧州連合)懐疑派である点などで確かにトランプ氏とよく似ている。トランプ氏は英国のEU離脱を歓迎するなど、欧州域外では最大の反EU主義者だ。

五つ星運動は2009年、お笑い芸人のベッペ・グリッロ氏によって創設され、2013年の総選挙で大躍進。レンツィ首相の民主党に次ぐイタリア第二の政治勢力になった。その後ローマ首長選挙で同党所属のラッジ氏が史上初の女性市長に当選するなど、時には民主党を上回る支持率で快進撃を続けている。

五つ星運動は、先ずユーロからの離脱、さらにはEU(欧州連合)からの離脱も視野に入れた国民投票の実施を政策の目玉に掲げ、12月4日にレンツィ首相主導で行われるイタリア上院の改革を問うもう一つの国民投票には強く反対している。

国民投票を否決に追い込んでレンツィ首相を退陣させ、その後の総選挙で政権を奪取して、将来は英国が行ったと同じ国民投票でイタリアをEU(欧州連合)から切り離す、というのが五つ星運動の構想である。

左派ポピュリストの五つ星運動の主張は、前述したように極右的なトランプ氏の論点に通底し、イタリアを含む欧州各国の極右勢力のそれにもぴたりと合致している。

欧州の極右勢力はトランプ大統領の登場を小躍りして喜んでいる。つまりマリーヌ・ルペン率いるフランスの国民戦線、英国のナイジェル・ファラージの独立党、ギリシャの黄金の夜明け、またオーストリア、オランダ、東欧諸国などの反移民・排外主義勢力である。

それらの政党のイタリア版が、EU(欧州連合)に反対し反移民を叫ぶ北部同盟である。北部同盟はかつては左派的な主張もする抗議政党だったが、現リーダーのサルヴィーニ書記長が就任してからは、欧州中の極右勢力との連携を強めている。

Italexiteymcisyt_400x400横150picしかしながら北部同盟はイタリアの弱小政党に過ぎない。来年春のフランス大統領選で、ひょっとするとルペン党首が当選するかもしれない、とさえ見られているフランス極右の国民戦線などの勢力とは比べるべくもない。ところがそこに五つ星運動が加わることで、イタリアのEU離脱はふいに現実味を帯び始めるのだ。

もしもイタリアがEUから抜ければ、それはEUの完全崩壊にもつながりかねない大事件になる可能性がある。イタリアは欧州政治でもまた世界政治の場でも、英国よりもはるかに小さな影響力しか持たない。G7の中でも政治経済共にほぼミソッカスの位置にいる。

イタリアの存在感は、ミソッカスではないが、英国の国民投票による離脱決定前のEUの中でもほとんど似たようなものだった。EUの中心は英独仏の3国であり、イタリアはその他大勢の中にいた、という見方もできた。

それでいながらイタリアは、EUの事実上の盟主である独仏に対抗したい英国と組んで、陰になり日向になって協力し合う関係も築いてきた。しかしBrexit(英国のEU離脱)派の勝利でその構図は崩れ去った。

Brexit派の勝利後、イタリアはEU第3のパワーになった。同時にイタリアは、英国が仲間だった頃と常に変わらずEU内の「その他大勢」の代表のような存在でもある。そんなイタリアの動静は、EUの盟主である独仏とは違う意味で影響が小さくないのである。

英国の離脱決定は、言うまでもなく、EUの結束という意味では大きな打撃だった。だが英国は、EU参加メンバーになってからも独立独歩の生き方を変えることはなく、何かにつけて特別待遇を要求するうるさい存在だった。英国参加後のEU内では、全参加国28ヵ国のうち、27ヵ国対英国、という分断の構図もしばしば表面化した。

英国以外の27カ国は、程度の差こそあれ、誰もがそのことに不満を感じていた。従って、英国のEU離脱は痛手だが、仕方がない。英国のいないEUは以前よりも増しだ、とひそかに考える向きさえあるのが現実だ。

イタリアは独仏蘭ルクセンブルクまたベルギーと共に、EUの創立国6ヶ国の一角を占め、常にそれを強く支持してきた国だ。EUへの肩入れの強さは、ぬるま湯のようだった英国のそれとはケタが違う。

英国の離脱はEUにとって大きなボディーブローだったが、イタリアの離脱は一発KOの打撃になる可能性がある。その試金石の初めが、五つ星運動が否決を目指して激しく動く、12月4日のイタリア国民投票なのである。




トランプに挑戦状を叩きつけたユンケル欧州委員会委員長

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ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長


EU(欧州連合)のユンケル欧州委員会委員長が、ルクセンブルクの大学での講演で、米大統領選で勝ったドナルド・トランプ氏に欧州とは何であるのか。どのように機能しているかなどの基本的なことを教えなければならない。彼は欧州と米国の関係を破壊する可能性を秘めている、などと発言して注目されている。

欧州委員会は欧州理事会や欧州議会と並ぶEUの主要組織。EUの政策執行機関であり、いわば政府。従って委員長はEUの首相に当たる。はじめから強い権限を有するが、元ルクセンブルク首相のユンケル氏は、2014年に委員長に就任して以来強いリーダーシップを発揮してEUを引っ張り、今では彼がEU最強の政治家、という見方もある。

ユンケル委員長は続いて、トランプ氏は世界の実態を知らなすぎる。われわれは彼が世界を旅してその実態を把握するまでに、2年間はムダに浪費することになるだろう、とトランプ氏の無知を公然と批判した。

さらに同委員長は、トランプ氏がEU本部と北大西洋条約機構(NATO)本部のあるベルギーを一つの都市と思い込んでいた事実を取り上げて、彼は欧州に関心を抱いていないからそんな(子供じみた)誤解を抱く、と再びトランプ氏の無知に不満を示した。

ユンケル委員長の主張は、トランプ氏が選挙戦中に過激な表現で欧州と米国の共通の価値観を愚弄し続けたにもかかわらず、彼の当選を機にうやむやにして、当たり障りのない意見を開陳している、欧州の多くのリーダーたちとは一線を画した厳しいものになった。

ドイツのメルケル首相もユンケル委員長に近い反応をした。彼女はトランプ氏への当選祝辞を述べながら、彼が欧州との共通の価値観、つまり全ての人々の権利の尊重と自由と民主主義を重んじてほしい、とやんわりと釘を刺した。メルケル首相の言う全ての人々とは、トランプ氏が性別や宗教や肌の色や出身地や性的嗜好などを理由に差別的言語を投げつける人々を含む、文字通り全人類のことにほかならない。

またフランスのオランド大統領は、トランプ氏の登場で世界は不確実な時代に入った。トランプ氏は欧州とアメリカが共有してきた価値観や倫理観や哲学と相容れないものも持っている、とやはり米次期大統領を遠回しに批判した。独仏のトップはこのあたりが、批判精神のかけらもなくトランプ氏に会いにニューヨークに飛んだ安倍晋三首相とは、指導者としての品格と心構えが全く違う。

ユンケル委員長は、より穏便な言い回しでトランプ氏を諌めたオランド大統領やメルケル首相とは違って、強い直截な言い回しでトランプ氏を糾弾した。彼が言明しているのは結局、欧州は差別や憎しみや不寛容をあおるトランプ氏の立場を拒否する、ということだ。

EUの盟主、ドイツとフランスの首脳に並ぶ、欧州連合の権力者ユンケル欧州委員長が、トランプ米次期大統領に歯に衣着せぬ言葉で注文をつけたのは、欧州からの『トランプ大統領の米国』へのいわば挑戦状、と見ることもできる。

ユンケル委員長の苛立ちを後押しするように、米国内のトランプ氏への抗議デモは収まる気配がない。収まるどころかそれは、地球温暖化対策を話し合う国連会議COP22 が開かれているモロッコなどにも飛び火した。

トランプ氏をこのまま米国大統領として受け入れない、という人々の抗議はまだまだ続きそうな雲行きだ。トランプ氏と米共和党の指導者たちは、その事実を真正面から受け止めてなぜそうなったのかを真剣に問い、米国の分断と世界の分断がこれ以上深化しないように対策を講じるべきだ。


あっぱれなトランプさんは危険なトランプさんかもしれない

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トランプさんが米大統領選挙を制した。まさか、というか、やっぱり、というか、あっぱれトランプさん。

僕は選挙戦の始めからほぼ一貫してトランプさんの敗北を予想してきた。

ほぼ、というのは一時期トランプさんの優勢を意識して、もしかすると勝つかも、と感じそういう趣旨のブログ記事を書いたりもしたからだ。

それでも内心はヒラリーさんの勝利を疑ったことはなかった。僕は選挙予想では徹頭徹尾スベリまくったのである。

ではそれに恥じ入っているかというと、全く恥じてなどいない。

排外思想や人種差別を旗印に戦ったトランプさんの前には、自由と平等と寛容を強く支持するもう一方の米国人有権者が立ちはだかっている、と信じて疑わなかったし今も疑わないからである。

彼らの数はいわゆる白人労働者階級の人々のそれに及ばなかった ---むろんそれだけが要素ではないが、話をわかりやすくするために、そう定義して話を進めようと思う--- で、だからヒラリーさんは負けた。

それは厳然たる事実だ。だから僕は選挙の結末を見誤った不明を率直に反省しようと思う。また、選挙に勝ったトランプさんと支持者の皆さんには、心から「おめでとう」と言おう。

だが僕はトランプさんを認めない。認めない、という言い方は、大上段に振りかぶったようで少し不遜かもしれない。ならば彼は、第45代アメリカ合衆国大統領にはなるものの、その資格はないと考える、と言い直そうと思う。

トランプさんは就任後、有能な大統領に化ける可能性ももちろんある。アメリカを建て直し、中東からISを追い出し、欧州や日本などの同盟国ともうまくやっていくかもしれない。

だが彼は、「差別や憎しみや不寛容や偏見を隠さずに、汚い言葉を使って口に出しても構わない」という考えを人々の頭に植え付けてしまった。

つい最近、つまりトランプさんが選挙キャンペーンを始める前までは、タブーだった「罵詈や雑言も普通に許される」という間違ったメッセージを全世界に送ってしまったのだ。

それはつまり、人類が多くの犠牲と長い時間を費やして積み上げた、「差別や憎しみや不寛容や偏見を是正する努力こそ重要だ」というコンセプトを粉々に砕いてしまったことを意味する。

その罪は重い。彼の愚劣な選挙キャンペーンによって開けられたパンドラの箱は、もう閉めることができない。トランプさんはその一点で糾弾され続けなければならない。

「本音を語ることがつまり正直であり正しいこと」と思いこんで、本音の中にある差別や偏見から目をそらす者は、さらなる偏見や差別思想にからめとられる危険を犯している。

それがトランプさんであり、彼のレトリックであり、トランプさんとレトリックを信じる彼の支持者や賛同者である。

差別ヘイトスピーチは、正直なことだからまっとうな態度である、という間違ったメッセージが今後は欧州にも、アジアにも日本にも、その他の全ての世界にも急速に拡散して行くだろう。

そこでは人々の意識の後退のみならず、政治的な悪影響も避けられない。彼の勝利はさらなる負の波紋を世界に広げることが確実だ。波紋は真っ先にここ欧州の極右勢力に到達するだろう。いや、もう届いている。

人種差別と不寛容と憎悪を旗印に政治主張を続けてきたフランスの国民戦線を始め、イギリス独立党、イタリア北部同盟、オーストリア自由党、ギリシャ黄金の夜明け、東欧各国のナショナリストなどの極右勢力が、トランプさんの当選を喜んでいる。

ここイタリアに関して言えば、与党民主党と並んで国内政治勢力を2分する「五つ星運動」も、トランプさんの躍進を小躍りして歓迎している。彼らは極右の北部同盟とは毛並みが違うように見えながら、『反EUと親トランプ』のスタンスで相通じているのだ。

北部同盟と五つ星運動が手を組めば、イタリアのEU離脱はふいに現実味を帯びたものになる。英国に続いてイタリアがEUから離脱すれば、欧州連合はたちまち崩壊の危機に直面するだろう。

EUの分断は世界の分断と同じ、と言っても過言ではない。それは世界がますます不安定化し、格差が広がり、不満と怒りが充満していくことを意味する。危険なトランプさんは、危険な世界への入り口である可能性も高いのである。


チキンレースの米大統領選

討論:ヒラリー背中越しトランプ横400pic


投票日まで一週間を切ったのに米大統領選の行方は全くわからない。

トランプさんの猥褻女性スキャンダルで勝負あった、と見えたのに、ヒラリーさんの引き離しはそれほど強くなく、トランプさんが強いのかヒラリーさんが弱いのか、といぶかるうちに又もやメール問題が再燃して、ヒラリーさんは青息吐息。

各種データを見ると、あれだけの女性蔑視、猥褻問題が表に出たにもかかわらず、共和党の白人女性有権者の間では、トランプ候補の方がヒラリー候補よりも支持率が高い。

それはとてもおどろきだ。あの卑猥極まる女性虐待スキャンダルは、さすがにどの人種でもどんな階層の女性であっても、皆が「許せない」と憤る事案ではないか、と思う。

それでも多くの女性がまだトランプ候補を支持するのは、つまり、翻って、彼女たちにとってはヒラリー候補がそれだけ嫌な存在、ということなのだろう。切り取り銃弾噴くトランプyoko150pic

僕はヒラリーさんに当選してほしいが、同じ女性たちにかくも嫌われるヒラリー候補とは一体なんだろう、と首を傾げざるを得ない。

彼女のちょっと威張り気味の物言いや、体制主流派内を泳ぎ続けた汚れや、従って新味の無さ、などという欠点を差し引いても、である。

また、トランプ支持者は「白人の低所得労働者階級」という一般的な見方に反するように、低所得者層は相対的にヒラリー支持が多い、などのデータも出回っている。

そればかりではない。あれだけトランプさんに攻撃されたヒスッパニックの人々も、およそ3人に1人はトランプ支持、という分析もあるのだ。

ひと口にヒスパニックといっても、大きく分けてメキシコ系とキューバ系の人々に分かれる。このうちキューバ系の多くの人々が、トランプ支持に回ると見られるためにそんな数字が飛び出す。

イタリア時間11月2日の午後の時点では、激しく追い上げるトランプ候補とヒラリー候補の差はわずか2ポイント余り。しかも勢いは前者にある。

今の様子ではどちらが勝ってもおかしくない。いや、多分トランプ候補に分があるのではないか。

服ヒラリー真っ赤なyoko100pic僕は、前述したように、ヒラリー候補に勝ってほしい、と一貫して思っている。積極的に彼女を支持するからではない。

トランプさんが米大統領を目指す男にしては人格も政策もあまりにもひどい、と僕の目には映るため、彼に比べた場合は、彼女がまだまし、と思うからだ。

消去法による支持、という消極的な支持ではあるが、支持は支持だ。だが今日この時点では、彼女の形勢は不利のように見える。

しかし、悲観はしていない。トランプ候補有利の空気に危機感を抱いた彼女の支持者たちが、11月8日には大挙して投票所に向かう可能性があるからだ。

特にヒラリー候補を支持している若年層は、日本と同じで米国でも投票率が低い。彼らが多く投票すればトランプ氏よりもヒラリー候補に有利に働くだろう。

全く逆もあり得る。6日間の間に事態が二転三転して、危機感を抱いたトランプ支持者らが大挙して投票所に向かい、最終的にトランプ候補が勝利するケースだ。

全きチキンレースは面白いと言えば面白いのかもしれないが、トランプ大統領の誕生はここ欧州にも日本にも悪影響を及ぼすと考える僕は、息をひそめて見守っている、というのが正直なところだ。



ドナルド・トランプの巨大な勘違い


話にならない、とはまさにこのことである。

米大統領選の最終討論会で、共和党のトランプ候補が「選挙結果を受け入れない」と示唆したことだ。

それは負けを認めない未練がましい行為、として見過ごされるべき軽い事案ではない。なぜなら彼はそこで米国の民主主義を完全否定しているからだ。

米大統領選挙では、敗れた候補者が結果を受け入れて「敗北を認める」と宣言することが常道である。

それは暴力と血にまみれた試行錯誤を経て確立された「平和裏の政権移譲」の原則によっている。「1800年の革命」とも呼ばれる米民主主義の根幹の考え方である。

負けた候補者は敗北を認めることで、自らの次の政権奪還を担保するのだ。つまり敗北者の敗北宣言とは、次回は私が大統領になりますよ、と宣言しているも同然なのである。

勝者はこれを受けて敗北者の挑戦を承認。自らも4年後の再びの勝利を目指して努力をすることになる。勝者と敗者は言うまでもなく個人でもあり彼らが属する政党のことでもある。

それは権力の禅譲と民主主義の完璧な遂行を確認する儀式だ。あるいは民主主義の原理に忠誠を誓う行為だ。

たとえば日本の選挙では、負けた候補者が支持者に向かって「私の不徳のいたすところです云々」と語るのが普通である。

それは民主主義の原則に忠誠を誓うというよりも、潔(いさぎよ)さとか謙虚さとかに価値を見出す日本特有の美学に基づく行為に過ぎない。

それでもトランプ氏の見苦しい言動に比べれば、日本人の行動は雲泥の差と形容しても構わないほどの崇高な態度に見える。

共和党は今後の同党のためにも、米国の民主主義のためにも、そして世界の為にも、可能ならば、本気でトランプ候補を撤退させる道を探った方が得策ではないか。

卑猥なトランプよりももっとさらに卑猥な共和党の幹部たちよ!



米大統領選のトランプ共和党候補が「俺は有名人で金持ちだからいつでも勝手に女のPussyをまさぐり、もてあそぶことができる。女なんてチョロいもんだ」という趣旨の発言をしたことに始まる猥褻醜聞騒動は、最終回の候補者討論会を2日後に控えた今の段階でもとどまるところを知らない勢いで広がっている。

トランプ氏の問題発言は、クリントン氏との第2回の候補者討論会でも取り上げられ、悪行の真偽や真意や策謀の有無等々について厳しく追及された。その後も火種は消えるどころか燃え盛って、ついにトランプ氏から性的虐待を受けたとする女性2人が現れ、実名で彼を告発するに至った。

それをきっかけに、トランプ氏に同様の性的虐待をされた、と主張する女性が次々に名乗り出て、その数は10人近くに上りさらに増えそうである。追い討ちをかけるようにトランプ氏の別れた妻イヴァナさんが、婚姻中に無理やり性交渉を強いられた、つまりレイプされたとする過去の事案まで蒸し返されて、トランプ氏の危機は深まるばかりだ。

離婚に際して明らかになった元妻のケースはさておき、トランプ氏を告発する女性たちの主張がもしも事実だとするならば、彼はもはや狂人にも近い人格とさえ言えるのではないか。狂人ではないとすれば、性依存症やそれに類した障害の持ち主である可能性が高いようにも見える。

そのうちのどれかが当てはまるなら、いずれにしてもそれは病気であるから、彼は大統領選などを戦っている場合ではない。即刻候補を辞退して治療に専念するべきだ。そうなればトランプ氏はれっきとした病人。あまり責められるべきではない。が、依然として選挙運動に固執するなら、彼はこのまま糾弾され続けるだろう。

トランプ氏は女性たちの告発を事実無根だと反論している。しかし、かつて彼は、自身の悪行への告発に対して実際に反撃したことはほとんどなく、その事実が彼への不信感の増大につながった。今回も敢えて告訴するなどの行動に出るとは考えられず、彼への疑惑がますます深まる一因になっている。

そうした風潮の中で、共和党内でもっとも影響力が強く、2020年の共和党大統領候補としても有力視されているポール・ライアン下院議長が、トランプ候補を見捨てると公言し、それを受けていわゆる共和党主流派の人々のトランプ非難声明も相次いだ。

それらはいかにも遅きに失した、というのが正直な感想である。遅いばかりではなく、ライアン議長の心変わりは、これ以上トランプ氏を支持して選挙戦を戦えば、彼の不人気ぶりに押される形で共和党が次の議会選挙で民主党に大敗を喫しかねない。だからトランプ候補を切り捨てる、というものである。

つまりライアン氏は、トランプ発言の背後にある女性蔑視とそれにつながるあらゆる差別意識、偏見、抑圧、排外主義、暴力志向などの「トランプ氏の本質」を糾弾して彼を見捨てるのではなく、共和党を議会選挙で勝利に導く、という実利目的のみで行動を起こしているのだ。

ライアン議長の動きは、極めて遺憾なものだ。その態度はトランプ氏という排外主義者、つまりメキシコ人やイスラム教徒や難民や移民、そして日本人を含む有色人種への差別と攻撃で頭がいっぱいのモンスターを、共和党候補として公認した同党の腐敗と堕落を端的に表しているように見える。

ライアン氏の行動の直接の引き金になったのは、暴露されたトランプ氏のPussy発言が卑猥過ぎて耐えられない、ということだった。ところで、卑猥とはいったい何だろうか?それは主観的なもので規定には幅があるが、基本は「見る者に羞恥心を覚えさせる事案」のことだ。つまり恥である。トランプ氏の言動は見ていて恥ずかしい。だがライアン議長のそれもトランプ氏に負けず劣らず恥ずかしい。

ライアン議長と取り巻きの人々が、共和党のそしてアメリカの良心を代弁する者だと自負するのなら、彼らはたとえばトランプ氏がイスラム教徒をアメリカから追い出すと言った時、あるいはメキシコ人は皆麻薬中毒で強姦魔だと侮辱した時などに、トランプ氏を支持しない、あるいは見捨てる、あるいは手を切るなどとはっきりと言うべきだった。

それらに加えてトランプ氏が、連邦判事のゴンザロ・クリエル氏はヒスパニックだから偏向していると主張したり、白人至上主義者の恐怖集団KKK(クー・クラックス・クラン)の幹部の支持を否定しないと表明したことなども、一つひとつがそれだけで大統領失格と烙印を押されるほどの醜聞だった。が、彼らはそれらの言動も見て見ぬ振りをした。その罪は重い。

民主党候補のヒラリー・クリントン氏にも問題がないわけじゃない。しかし、事ここに至っては、たとえ消去法に基づく判断ではあっても、クリントン候補の方がはるかに米大統領にふさわしいと言うべきではないか。「人間トランプ」が、米大統領には適さない人格下劣な存在だからではない。

トランプ氏は人種差別主義者、デマゴーグ、女性蔑視主義者、排外白人至上主義者などに分類されるべき危険な存在だから断固として排除されなければならないのである。彼は世界最大最強の民主主義国家のトップには相応しくない思想信条の持ち主なのだ。

しかしながら依然として、共和党支持者の多くがそんな風には考えていないようだ。トランプ支持率は第2回討論会を経て下がったとされるが、下げ率は思ったよりも大きくはない。それはコアなトランプ支持者にとってはたいした問題ではなかった、ということである。

それでもトランプ氏に性的虐待をされたと告発する女性が何人も出てきたことで、これまで態度を決めかねていた無党派層の中に反トランプの気運が高まり出したと見られている。それが事実ならば、トランプ氏を大統領に選んではならない、という従来の自分の主張も実を結びそうで喜ばしい。

しかしたとえそうなったとしても、共和党の約半分の支持者と主流派の幹部らが、ここまでトランプ氏を増長させた責任が消えて無くなるわけではない。トランプ氏が演出した、また今も演出している米国の分断は、世界の分断と言っても過言ではないほどの重大事件だからだ。

ライアン氏を中心とする共和党の幹部が、米国民と国際世論の信頼を取り戻したいと思うなら、彼らはトランプ氏を擁護しないと語るだけの消極的な行動ではなく、トランプ氏の当選を阻む為の積極的な動きに出るべきだ。最善の策は彼を共和党候補の地位から引きずり下ろすことだが、それが可能かどうかは分からない。

書きそびれた「トランプ卑猥発言&大統領選討論芸能バトル!」



トランプ候補猥褻発言の波紋は高まりつづけ、広がりつづけて、収まる気配がない。彼の発言の意味を僕は二つの観点から考えていて、ブログ記事なりにまとめるつもりでいる。

二つの観点とは、政治と言葉についてである。あるいは政治と文化について、と言い換えても良い。政治話の内容は、猥褻なトランプ候補を党公認に選んだ共和党は彼に輪をかけて猥褻だ、というもの。

言葉あるいは文化視点の話とは、トランプ候補が発したPussyという言葉をNHKが直訳しないで、または「直訳できなくて」別の穏便な言葉に置き換えた日本の文化的背景、また愉快についてである。

しかし、筆の遅い僕は2記事の概要をまとめたのみで、まだ書き上げることができない。そこで予告の意味も込めて、書きそびれていること、としてここに記しておくことにした。

米大統領選の第2回討論会を、第1回目と同じく徹夜で見た。正確には午前2時に起き出してイタリア時間の同3時から始まるトランプ候補とヒラリー候補のやり取りをテレビ観戦した。

観戦した、という方がぴったりくる激しいやり取りだった。もっと正確に言えば「選挙芸能バトル」とでも命名したくなる面白いののしり合いだった。

面白いというのは語弊があるかもしれないが、ああ言えばこう「ののしり返す」舌戦は、もはや芸能番組と表現する以外には適切な言葉が見つからない。

冒頭、トランプ候補の猥褻発言が槍玉に挙げられた。彼は(女性蔑視と糾弾された)それについて家族にも米国民にも謝罪したが、共和党員からは謝罪が十分ではない、と非難された。

トランプ候補の言語は下品とか下劣という軽い形容で済まされるものではなく、強い女性蔑視であるから、しっかりと謝罪しなければ女性の票が逃げてしまう、というのが共和党の重鎮らの見解だ。

選挙という観点からはそれはもっともな意見だが、トランプ候補の発言は女性蔑視のみならず、人種差別や宗教差別や移民差別などの、彼特有の偏向思想に連鎖している、と考えられるのが真の問題であり怖さだ。

選挙キャンペーンの当初から常に問題にされてきたトランプ候補の差別意識が、そこでも炸裂して共和党内からもさらなる批判が噴出した格好。

トランプ支持率は第2回討論会を経て下がったとされるが、下げ率は思ったよりも大きくはない。それはコアなトランプ支持者にとってはたいした問題ではなかった、ということである。

当たり前だ。「類は友を呼ぶ」の喩え通り、彼を熱狂的に支持しているのは、彼に近い思想を持つ人々なのだから、いまさら彼の発言にはおどろかない。驚くどころか、むしろ歓迎しているのだろう。

トランプ候補の発言は、前述の「連鎖」を別の言葉に置き換えれば、いわば「氷山の一角」としての汚れなのだが、海面下にある氷の巨大な本体、つまりこれまた前述した「偏向思想」が許しがたいものなのである。

氷山の一角たる彼の発言は、彼自身が釈明したように「ロッカールーム内での戯言」という側面はあると思う。若い男らが、男同士の下ネタ話や猥談の中で交わされる内容のうちの、ひどく過激なもの、という側面はあるが。

普通ならば、いかにピューリタン(清教徒)的な潔癖症に囚われているアメリカ人でも、目くじらを立てて非難する内容ではない。女性が耳にすれば憤慨するだろうが、男同士ではそれほど珍しいものではない。男というものはそんなふうに下卑て助平で猥雑な存在でもあるのだ。

僕は言葉と文化を語る予定の二つ目の記事では、NHKが表現に苦労したらしいPussyという言葉を、対称(対義?)語のDickとともに日本語に直訳して記事を書こうと思っているが、ためらいもある。だからこうしておっかなびっくりに予告編などを書いているわけだけれど。

それらの英語は、敢えて直訳しなくても意味は伝えられるし、直訳しない方が上品ではある。でもそうすると、トランプ候補の過激なまでの卑猥や下劣ぶりが正確に伝わらない可能性がある。逆にストレートに訳して語ると、多くの人々、特に女性読者に怒られたり嫌われたりする可能性もありそうなので、悩ましい。



トランプ遊び


われながらウンザリするのだがアメリカ大統領選がどうしても気になる。

自分の立場は反トランプで揺るがず、最終的には彼が大統領になることはないだろう、と確信しているので黙って形勢を見守っていればいいのに、グズの愚痴りよろしく目新しくもない自分の思いをまた書くという愚行をくり返している。

一度アメリカに住んで、人種差別や暴力や不平等などの米国の深い病理と、まさにその病理を駆逐しようとする米国民の強い意志のぶつかり合いをつぶさに見た僕は、病理を体現していると見えるトランプさんの動向は不安であり不快である。

最終的には米国民のポジティブな思考が勝つ、と腹から信じているのだが、半数の米国民が彼らの最大の美点である「病理に立ち向かおうとする意志」を放棄しつつあるらしいと知るのはつらい。

トランプさんの躍進を受けて多くの論者がさまざまな意見を述べているが、僕は今この時の世界のパワーゲームや米国内の政治気運から読み解くトランプ現象よりも、いま言った米国のいわばプリンシプルが揺らいでいる現実がひどく気になって仕方がない。

トランプ氏への公開状~間違いだらけの反トランプ・ブロガー~

トランプ・カード

ドナルド・トランプ様


私があなたの「選挙キャンペーン予想レース」ですべりまくっているさえないブロガーです。

あなたは米大統領選の共和党候補者指名争いで勝利し、指名獲得を確実にしたわけですが、私は選挙戦のはじめからあなたを「有力泡沫候補」と規定して、あなたが各州で快進撃をつづける間もどこかで失速して消えると予想し、そこかしこでそう主張しつづけてきました。

しかしあなたは、共和党の主流派が放つトランプ降ろしの策動と連携したライバル候補たちの反撃に時として敗北することはあったものの、ほぼ 常勝と言っても良い勢いで進撃をつづけて、ついに指名獲得が確実というところまで来ました。私はあなたのみごとな戦いぶりに脱帽し、素直にあっぱれトラン プさん、と拍手を送ろうと思います。ただしそれは私がトランプ大統領の誕生を喜ぶことを意味しませんが。

私は徹頭徹尾あなたが合衆国大統領になることには反対します。あなたの政策とさえ呼べない数々の無益な主張や、それを表明する際の粗陋なレ トリックは合衆国大統領にふさわしいものとは思えません。それは人格の問題ということもありますが、もっと重大な点はあなたのそれらの主張は、米国のみな らず世界中に政治的な混乱を招き、今よりもさらに深刻な偏見・差別と憎しみの充満する社会を生み出すきっかけになりかねない、というところにあります。

あなたはここにきて罵詈雑言や中傷や憎まれ口を少しおさえ気味にして演説をするようになりましたね。もしかすると、共和党の主流派へ秋波を 送りはじめたのかもしれません。また「メキシコ人はレイプ魔」や「イスラム教徒排撃」などの過激発言を修正あるいは取り消して、選挙戦を有利にしたい思惑 もあるのでしょう。しかし、問題の核心はレトリックの裏にあるあなたの政治的立場や思想や原理原則ですから、あなたの正体は何も変わらない。

あなたは今後、民主党候補との対決も視野に入れながらさらに「共和党主流派寄り」にレトリックを変え言動を修正して行くかもしれません。そ の場合は、あなたは自らの激烈な主義主張に拍手喝采してきた支持者を納得させる説明を見つけなければならない。しかし、そんな説明などあるはずもない。あ るとすればそれは詭弁であり強弁です。つまりあなたは、コアな支持者を引き止めるためにも扇動的なキャンペーンをつづけなければならないでしょう。

あなたの過激発言の中身は、人々に執拗に不寛容の精神を植えつけようとするものであり、米国の孤立主義を推し進めるものが中心です。それこ そが私が異議を唱えるあなたの政治姿勢です。つまり私があなたのキャンペーン予想で「すべりつづけている」元凶であり、あなたが共和党支持者の多くに受け 入れられた原因です。それらは私が尊敬し憧れるアメリカとは対極にある政治スローガンです。つまり寛容と自由と平等を目指そうとしない米国です。

言葉を変えれば、多くの問題と誤びゅうと差別を抱えているいま現在のアメリカを、より良い方向に導こうとする人々の良心を踏みにじるもの。いま現在のアメリカではなく、米国民が理想と考えるアメリカこそ真のアメリカだとする、その「理想」のアメリカとは相容れないのがあなたの立場です。なぜならその理想とは、より寛容でより自由でより平等なアメリカという理念であり、偏見や差別や憎しみをあおるあなたの政治姿勢とは真っ向からぶつかるものだからです。

あなたのライバルになる民主党の候補が誰になるかは分かりません。しかし、一つだけ確かなことがあります。クリントン氏もサンダース氏も、 あなたのような汚れたレトリックは使わず、より寛容なアメリカ社会を目指そうと主張し、国際的には孤立主義にならない方向を模索しようと国民に訴えるであ ろうことです。私は民主党支持者ではありません。共和党の中の私が考える「まとも」な候補者が脱落した結果、米国民の描く「理想のアメリカ」にいささかな りとも向かおうとする勢力は、恐らく民主党の候補のみになった、と言いたいだけです。

あなたとなたの支持者たちは、もちろん11月の決選投票での勝利を目指しています。そして現在の勢いで行くならば、私の主義主張や願いは空 しく、ドナルド・トランプ第45代アメリカ合衆国大統領の誕生は間違いないことでしょう。私は何度も申し上げるようにあなたの批判者ですが、厳しい選挙戦 を勝ち抜いて世界最強の権力者の地位に着くであろうあなたには敬意を表します。飽くまでも民主主義の法則を遵守しての勝利ですから、たとえ反対者でも勝者 のあなたには祝福を送るべきです。私は心からそうします。

最後に、私はあなたの選挙戦予想レースにおいて、完璧に「すべりつづけている」男である、とも再び記させていただきます。

敬具




悪運の強いドナルド・トランプの星回り

門ベルギーカラー

ベルギーのテロは米大統領候補のトランプ氏に資するだろう。さらに多くの無防備な人々がテロを恐れ、テロリストを憎み、テロリストとイスラム教徒を結びつけて考えてしまうからだ。

それはテロリストの思う壺だ。欧州も世界もここが踏ん張りどころだ。ここで心が折れてしまうと、世界は分断され、憎しみと疑惑と恐怖が支配するだけの、ISの願う通りの世の中になりかねない。

トランプさんが期待する事件、というのは言い過ぎだろうが、彼が「ほら見ろ、俺の言うとおりだろう」と、ドヤ顔でさらに息巻くかもしれない事件が相次いで起こっている。

悪運の強い男、と規定してしまえばあまりにも主観的嫌悪感に満ちた表現、と眉をひそめられそうだから、トランプさんは強運の持ち主らしい、と言おう。

彼のビジネスマンとしての成功を見れば、トランプさんが強運にも恵まれているのは明らかだ。それに加えて、彼が政治的にも強運の持ち主ならば、事態は深刻だ。

頻発するテロや事件は、もしかするとトランプさんの主張の正しさを担保するものではないか、とわれわれが考えるとき、自由な世界の終焉が始まるかもしれない。

ベルギーテロに関連して、彼は「ISを核兵器で攻撃することも辞さない」と宣言した。トランプさんが“米国大統領の立場なら”という前置きでしゃべっていることを考えれば、それはいつものムチャクチャな、笑い話の世界だ。

だが、政策とさえ呼べない、北朝鮮の将軍様然としたそんなタワゴトを、彼の多くの支持者が喜んで気勢を上げる図は、まことに奇怪、危険、且つおそろしい。

さらにトランプさん自身が“大統領になったらそうする”と本気で考えているらしい事態は、もっとさらに奇奇怪怪、危うさもお粗末もここに極まれり、というところではないか。

僕はどうやらトランプさんに魅せられてしまって、彼の一言一句に神経質に反応する大げさで珍妙な、且つある種の人々が見れば不愉快で許しがたい心理状態になっているようだ。

ならば僕は、彼が大統領選で自爆し消滅するまで、彼に魅せられ続けようと思う。そして「アメリカよ、早く目を覚まして“トランプNO!”と叫んでくれ」と、言い続けようと思う。

トランプVSポリティカル・コレクトネス



no trump no fascism

米大統領選、共和党の候補者指名獲得に向けてのトランプ氏の進撃は止む気配がない。同時に先日のシカゴに続いて、アリゾナ州とニューヨークなどでも反トランプデモが起きた。前者では反トランプ派の人々によって道路が封鎖され、後者ではマンハッタンにある同氏所有の「トランプ・タワー」や「トランプ・ホテル」 前などで市民が抗議デモをした。そこでは「移民がアメリカを強くした」などのプラカードを掲げる人々が「人種差別主義者のトランプは退場しろ」などと叫んだ。

トランプ氏は米国内の、特に低所得、低学歴に代表される白人層の不満や怒りを捉えて支持を広げているとされる。それは目新しいことではない。あらゆる米大統領候補はそれぞれの支持層の不満や怒りや主張を背中に負って選挙戦を戦う。また彼の支持者には既成政治家への強い不信感があり、実業家で政治素人のトランプ氏に新鮮な変化を期待しているとも言う。それもまたまっとうな期待であり願いである。

民衆の不満にまず答えるのが真の優れた政治家だ。だからトランプ氏が大衆の不満の受け皿として評価されるのは、賞賛に値こそすれ決して悪いことではない。悪いのは彼のレトリックであり、主義主張の仕方であり、政策論争であり、行動規範である。つまり差別や偏見や不寛容を煽ることで「大衆の不満を吸い上げて癒している」と錯覚される、彼の全ての言辞のことだ。

トランプ氏はポリティカル・コレクトネス(政治的正当性あるいは妥当性 )の重要さを理解しない。理解しないどころか、それを「まやかし」だと糾弾し人種差別や排外思想や憎しみに満ちた言動をあえてする。支持者はそこに彼の本音を見たと感じて拍手喝采する。重大なのは人々がトランプ氏に拍手を送るポーズで、彼と同様に自らの差別偏見や憎悪の心根を吐露して狂喜しているように見えることだ。それはとても危険な兆候だ。

わかりやすく話そうと思う。ここから先はあえて差別用語も使うのであらかじめ了解をいただきたい。

たとえばカタワという言葉がある。この差別用語は幸いにも人々の認識を得て今は死語になった。だがこの言葉はつい最近まで、つまり日本人が「ポリティカル・コレクトネス」に目覚めるまで普通に使われ、体の不自由な人々を傷つけてきた。カタワという語はほかの差別用語と共に使われなくなり、他にも少なくない言葉が差別をあらわしたり、それを助長する言葉として意識されて消滅しようとしている。

それらの言葉に関して差別主義者たちは、自らが差別主義者であることを隠して、あるいはさらに悪いことには、自分自身が差別主義者であることにさえ気づかないまま、良くこう主張したりする。いわく、言葉を変えたからといってカタワが直るわけではない。言葉を変えて差別が無くなったと思うのは偽善でありまやかしだ、と。だがその非難こそ自らの差別の本性を隠そうとする偽善でありまやかしだ。

言葉を禁止することで、即座に差別や偏見がなくなるわけではもちろんない。それは変化の「きっかけ」なのである。あるいはきっかけにつながる重大な第一歩なのである。人々はカタワという言葉が使用禁止になっていると気づいて、「あれ?」と一瞬立ち止まる。そしてなぜそうなっているのかと考える。やがて調べ、確認する。

そうやってこの言葉が身体の不自由な人々を傷つける言葉だから禁止されていると知る。そこから差別撤廃への小さな一歩が始まる。人々が「あれ?」と一瞬立ち止まる行為が重要なのである。一人ひとりの一歩はささやかだ。だが無数の人がささやかな一歩を踏み出して、社会全体がまとまって動くことで巨大な流れが生まれる。そうやって差別解消への道筋ができる。

「本音を語ることがつまり正直であり正しいこと」と思いこんで、本音の中にある差別や偏見から目をそらしたり、それらを無くそうと努力をしている人々をあざ笑う者は、さらなる偏見や差別思想にからめとられる危険を犯している。トランプ氏が汚れたレトリックを縦横に使って選挙に勝利するということは、人類が長い時間をかけて学習してきたポリティカル・コレクトネスの哲学や知恵やコンセプトが、全て無駄でゲスでつまらないことだと認めるにも等しい。

彼が中国の不公平な貿易を責めるのは良い。また氏が日本の安全保障のただ乗りを非難するのも構わない。核に固執する北朝鮮の狂気を糾弾するのはもっともなことだ。またメキシコからの不法移民を指弾するのも彼の政治的スタンスを明らかにすることだから一向に構わない。だが彼が不法移民を批判するついでに、全てのメキシコ人を「レイプ魔」と断定して侮辱することは許されない。

さらに言えば、彼がイスラム過激派のテロを断罪しテロリストを殲滅すると叫ぶのも自由だ。自由のみならず正義でさえある。僕もその考えに賛成だ。だがそこで続けて氏が、テロリストと無辜のイスラム教徒を一緒くたにし一般化して、
(全員がテロリストだから)イスラム教徒をアメリカに入国させるな、と言い張るのはほとんど狂気の沙汰だ。

そうしたレトリックは、悪貨は良貨を駆逐するごとく、人々の心の中に差別意識と偏見と不寛容と憎しみを植えつけるのみだ。あるいは既に人々の心の中に巣食っているものの、ポリティカル・コレクトネスのタガで押さえ込まれていて、やがて矯正され強い正義心に変貌するかも知れない今は弱い精神を、完全に破壊してしまいかねない。

ポリティカル・コレクトネスは合衆国大統領どころか、われわれ全てが文明社会の一員として懸命に守り尊重しなければならない倫理基準であり人類の知恵だ。そうした規範の第一級の保護者でもあるべきアメリカ合衆国大統領が、こともあろうに率先して人類の叡智に唾吐くような人間であってはならない。だからドナルド・トランプ氏をアメリカ大統領にしてはならない、と繰り返し思う。

何度でも、繰り返し、なぜトランプ大統領はNGかを語ろう



米大統領予備選でスーパーチューズデーを制した後もドナルド・トランプ氏の躍進が続いている。トランプさんが共和党候補としてまた将来の合衆国大統領の可能性としても、真剣に相対しなければならない男であることはもはや否定できない。

僕はこれまで彼を「有力泡沫候補」と呼び、トランプ氏は「大統領に“なれない」と言ってきたが、ここからはトランプさんを「大統領に“してはならない”」と主張しようと思う。

トランプさんは大統領になれない、というのは米国の良心と知性を信じる僕の確信である。同時に僕は彼には合衆国大統領になってほしくないという願望も持っている。なぜ執拗にトランプ氏に反対するのか。僕は再び、再三、そして必要なら今後も際限なく語り主張していこうと思う。

トランプ氏が人種差別と不寛容と憎しみを煽る主義主張を修正することなく、このまま共和党の候補者指名を受けたとしよう。それは既に事件である。大げさに聞こえるかもしれないが、彼の政治的スタンスはヒトラーのそれをも髣髴とさせるトンデモ・コンセプトだからだ。

これを言うと、法に即して選挙運動をしている候補者をヒトラー呼ばわりにするな、という意見が必ず出る。そういう意見にはこう返したい。ヒトラーもきちんと法に則って、且つ民主主義の手続きを踏んで“ヒトラー”つまり誰もが知る独裁者になったのだ、と。

トランプ氏はヒトラー同様に民主主義の手続きを踏みつつ合法的に選挙戦を戦っている。そしてそのままの形で共和党の候補になり、ひいては第45代アメリカ合衆国大統領に就任するかも知れない。ヒトラーにも似た主義主張と政策(案)を掲げたままで・・というところが論点だ。

それはドイツ国民がヒトラーを選んだことよりも深刻な事態だ。なぜならヒトラーを選んだ人々は“ヒトラー”を知らなかった。つまりヒトラー以前にも世界には多くの独裁者が存在したが、民主主義の手続きを踏んでその地位に就いた者はいなかった。民衆は望んで、民主主義によって“ヒトラー”を誕生させたのだ。

その苦い体験と歴史をアメリカ国民は知っている。それでもなお且つヒトラー的にも見える人物を彼らの指導者にしようとしている。歴史が歯止めになっていない。だからトランプ大統領の誕生はヒトラーの誕生よりも深刻である可能性が高い。

そのトランプ氏がアメリカ大統領になることだけでも由々しき事態だが、彼の勝利はさらなる負の波紋を世界に広げることが確実だ。波紋は真っ先にここ欧州の極右勢力に到達するだろう。

中でもフランスの国民戦線が勢いづきそうだ。仏国民戦線は元々人種差別と不寛容と憎悪を旗印に政治主張を続けてきた。そこにイスラム過激派によるテロが相次いだ。最大のものは2015年11月のパリ同時多発テロである。フランス国内にはイスラム過激派への怒りが一気に広がった。

それは理解できないことではない。が、不幸なことに、テロリストと無辜のイスラム教徒を同じものとみなすイスラムフォビア(嫌悪)も台頭した。物議を巻き起こしたトランプ氏最大の問題発言「イスラム教徒をアメリカから締め出せ」も元はといえば、フランスの同時多発テロに触発されている。

ルペン国民戦線はフランス国内の混乱とヘイト感情に乗じて、直接間接にイスラム系移民ひいては全ての外国人排斥気分を煽り、欧州議会選挙などで躍進、勢力拡大が著しい。党首のマリー・ルペン氏は、2017年の仏大統領選挙では有力な候補になることが確実視されている。

国民戦線のルペン党首とトランプ氏の政治的スタンスは一卵性双生児のように似通っている。トランプ氏が世界最大最強の権力者である合衆国大統領になれば、ルペン氏にとってこれ以上の追い風はない。またたく間に欧州にも「トランプ主義」が浸透してしまうだろう。

フランス国民戦線の躍進は、ナイジェル・ファラージ氏が率いる英国の兄弟政党(同じ穴のミジナという意味でこう表現する)イギリス独立党(UKIP)、イタリア北部同盟、オーストリア自由党、ギリシャ黄金の夜明け等々の極右勢力も調子づかせるだろう。

一様にEU懐疑論を唱える欧州のそれらの極右政党は、各国内の移民嫌悪感情を巧みに利用して勢力を広げつつあるが、これまでのところは互いに手をつなぎ合う兆候はなかった。しかし、トランプ大統領の誕生を機に急速に接近して欧州に一大極右勢力が生まれる可能性もある。

彼らはロシアとも接近するだろう。ロシアは欧州の統合・連携の象徴であるEU(欧州連合)への強い対抗心を持ち続けている。反欧州・EU懐疑論を掲げるそれらの極右政党は、EUを内部から崩壊させたいロシアにとっては格好の来客となるだろう。

極右欧州とロシアが手を取り合う言わば欧露同盟は、アメリカでさえ仲間に引き込む可能性がある。トランプ氏はプーチン・ロシア大統領との親和性を公言してはばからない。だがそれだけで米露が手を取り合うとは考えにくい。

では欧州の極右とロシアとトランプ米政権が手を結ぶ理由はなんだろうか?それはおそらく「白人同盟」とでも置き換えたときに明らかになる。白人優越主義を自らの中に密かに増幅させているそれらの勢力は将来、手に手を取って世界を白人の支配下に置こうと考えないとは誰にも言えない。

そうした見解は、例えば世界全体がイスラム過激派ISの支配下に入って、自由と正義を奪われた人類が絶望の中で生きている状態、を想像するくらいに大げさで荒唐無稽なシナリオに見えるかも知れない。

だが、“トランプ大統領”誕生の可能性を考えるのも、ついこの間までは荒唐無稽なシナリオだったのだ。また再び歴史に目を移せば、人々はかつてヒトラーが“ヒトラー”に変身することを全く予測できなかった。

しかしトランプ大統領さえ出現しなければ、「あるいは」というその恐怖のシナリオ自体がそもそも存在し得ない。その意味でも“トランプ大統領”という悪夢は避けておいたほうが良い。何が起こるのかは誰にも分からないのだから。


ドナルド・トランプ氏への公開状~あなたの『我が闘争』の完遂法おしえます~



ドナルド・トランプ様

何よりも先ず大統領予備選挙の2回戦、ニューハンプシャーでの勝利おめでとうございます。第1戦のオハイオでは事前の予想に反して苦杯を喫し、内心さぞ不安でしたでしょうから、第2戦の勝利の味は格別なものだろうとお喜び申し上げます。


はじめに

私は現在欧州のイタリアに在住している者ですが、かつてはニューヨークに住んで仕事をしていた経験があります。あなたがマンハッタンの5番街にトラン プタワーを建設して間もない頃のことです。当時私は貴国の公共放送PBSのドキュメンタリー番組のディレクターでした。あなたもよくご存じのあのディック・キャベットさんがキャスターを勤めた番組です。

ニューヨークとテレビ、という2点で私はあなたに因縁浅からぬものを感じています。テレビへの露出度が異様に高いあなたは、それをうまく利用してビジネスを成功させてきましたが、今度はその力も巧みに操ってアメリカ合衆国大統領にまで上り詰めかねない勢いです。すばらしいの一言につきます。


闘いのキーワード“ぶれない”

ただし、あらかじめ申し上げておきますが、私はあなたが合衆国大統領になることを喜ぶ者ではありません。喜ぶどころか、あなたがアメリカ大統領に就任することは、過激派の「IS(イスラム国)」が中東の全域を支配するにも等しいほどの由々しき事態だとさえ危惧する者です。

私はあなたの選挙戦手法や政治姿勢には嫌悪感さえ覚えます。しかし、ここではその立場を忘れて、予備選2回戦で大勝したあなたの勢いが「今後も続く」場合を想定して、分析・提案をさせていただくことにしました。

あなたが闘いに勝利するためのキーワードは“ぶれない”です。人が何かを成し遂げようとする場合には決して“ぶれない”ことが重要です。何事につけ“ぶれる”人間は信用されません。

私はあなたが今後、予備選挙から本選挙に至る期間と、当選後に大統領職を遂行・展開する過程で、常に変わらずに今の主張や哲学や姿勢を維持し続けることを提案します。それがあなたが選挙に勝つ秘訣であり、合衆国大統領として米国を統治する基本にもなります。


人気の秘密

あなたは共和党の主流派にタテ突く形で選挙戦を戦って高い人気を得ています。そこでもっとも注目を集めているのが、人々の差別と不寛容と憎悪を煽る手法で す。たとえばあなたはメキシコ人は麻薬と犯罪にまみれたレイプ犯だと決め付け、メキシコからの移民を防ぐために国境に万里の長城並みの壁を築くと吼えまし た。

また貿易や厳しい金融政策によって生意気な中国を懲らしめ、不公平な同盟関係にあるずるがしこい日本を斥け、次には核の脅威を撒き散らす北朝鮮を叩き潰 す、とします。またイランとの核合意も取り消して核開発を放棄するように追い詰める。そして極め付きは、「イスラム教徒のアメリカへの入国を禁止する」と いう爆弾発言でした。

その言葉はイスラム過激派によるテロが頻発している中で飛び出したものです。アメリカは2001年の同時多発テロ以来イスラムフォビア (嫌悪)を国内に醸成し続け、テロへの恐怖にも苛まれています。それに加えてフランスでの同時多発テロに代表される欧州の危機的状況も強く意識されてきま し た。

そこに過激派組織ISに関わると見られる銃撃事件がカリフォルニア州サン・バーナディーノで起こりました。 従ってあなたの発言は、ムスリム夫婦によって
14人が銃撃殺害されたそのテロに強い衝撃を受けた人々の、恐怖と怒りと悲嘆を受け留めての大げさなリアク ションであって、深刻な意味合いのものではないという見方もあるかも知れません。


徹底した人種差別主義 

しかし、その劇的な発言は、あなたの一貫した人種差別と偏見と不寛容の発露であると私の目には映ります。あなたは日本人と中国人と朝鮮人に焦点を当ててて 黄色人種を否定し、メキシコ人を目の敵にすることでヒスパニックの人々を侮辱しています。そして極め付きがムスリム排撃発言です。あなたはそこでイラン人 も含めた全てのイスラム教徒を貶めました。

そればかりではありません。あなたはオバマ大統領の出自を執拗に問題にしていますが、そこには人種差別意識が働いていることは誰の目にも明らかです。オバ マ大統領は「共和党内のある種の人々にとっては、私が黒人であることへの抵抗感があり、そこから私への激しい批判が生まれてくる」という趣旨のことを言っ ています。このある種の人々の代表があなたであることは公然の秘密です。

あなたはわれわれ日本人を含む有色人種とヒスパニックの人々を本気で蔑んでいるようです。それはあなたが、ロシアを賞賛している事実でも裏付けられるよう に見えます。あなたはアメリカが厳しく非難・対立するロシアを是認し、独裁者のプーチン大統領とも仲良くしたい、と明言しています。不思議な心理です。で も プーチンさんが白人でありロシアは白人国家である、と言う点に注目すれば全てが腑に落ちます。


新アーリア人種優越論?

あなたは欧米とロシアのみを評価する、世界秩序の構築を目指しているのではないでしょうか。それはいつかドイツの独裁者が唱えた、アーリア人優越民族論にならった考え方にも見えます。さしずめ新アーリア人種国家構想とでもいうところでしょうか。

私は黄色人種ですので、その考えには違和感を覚えますが、この論説はあなたが大統領選挙を勝ち進み、ついには第45代アメリカ合衆国大統領に就任して、米国を統治する方法について考察し提案するものですから、私の気持ちは無視して進めます。

あなたの主張は一部の共和党支持者の間で熱狂的に支持されています。つまりあなたと同じ新アーリア人種構想に賛同する人々が多くいる、ということですね。あなたは今後もその主張を続けて支持者拡大を謀るべきです。

冒頭に申し上げましたように、勝利のキーワードは“ぶれない”ことです。あなたの主張に反発する人々もいます。が、あなたは彼らに迎合して主張を軌道修正 してはなりません。さらに過激に雄雄しく、騒がしく、暴言・放言を繰り返すべきです。それがあなたと同種の人々をさらにトランプ側に引き付けるコツです。


正論?目くらまし?

あなたは自らの本性とは相容れないように見える主義主張も披露しています。たとえばあなたはアメリカの中東政策を批判して、テロや内戦がはびこるイラクやリビアやシリアなどの悲惨な現状は、オバマ大統領とヒラリー・クリントン氏がもたらした、と声高に言い募っています。

つまり、フセインやカダフィやムバラクなどの独裁者が支配していた頃の中東の国々には、テロリストはいなかった。独裁者がテロリストを皆殺しにしていたか らだ、と。そうした主張には一理あります。オバマ政権以前のブッシュ共和党政権の瑕疵に言及しないのは少々不公平に見えますが。

あなたはまたこういう主張もしています。大統領になった暁には格差是正や社会福祉の拡大充実を押し進める。その財源としては富裕層や大企業などへの課税を大きくして国際金融資本やウォール街にも規制のメスを入れ、累進課税を強める。その増収分を社会福祉に充てる。


修正は“ぶれ”を意味するから決してやってはならない

それとは逆に、貧しい人々や中小企業などには減税をして経済の活性化を図るなど、など。その実現の可能性云々は別にして、まるでライバルの民主党の、しかも同党左派の考 え方にさえ通じる政策も掲げています。それらが特に、白人の労働者階級の人々に熱狂的に支持されているのはよく知られた事実です。

しかし、そういったヤワでリベラルな物言いや要求はあなたには似合わない。あなたは左派に迎合してはいけない。彼らを大声で言い負かし、罵倒して黙らせ、必要ならば誹謗中傷によってあなたの陣営に引っ張り込むべきです。今のあなたの勢いならきっとそれが可能です。

あなたは共和党主流派の古臭い考えを打ち砕くと同時に、あらゆる開明主義を撃破するべきです。金持ちへの増税策や貧乏人への減税なんてリベラルが考えそうなことは口にしない方がいい。なぜならそうした主張は、人々があなたを“ぶれている”と誤解する材料になりかねないからです。


安全保障

さて、そうやってぶれずにマッチョに勝ち進んであなたは晴れて第45代アメリカ大統領に就任します。就任と同時にあなたには急いでやるべき大仕事があります。それは安全保障に関する懸案を払拭することです。

あなたは「ムスリムを入国禁止にするべき」という大ヒット発言によって、アメリカ・ネトウヨや保守強硬主義者の皆さんの熱狂的な支持を集め、それが原動力 となってニューハンプシャー予備選を制しました。しかしあなたのその主張を、あなたの党員仲間でライバル候補のジェブ・ブッシュ氏は「狂気」と言うに等しい言葉まで使って強く批判しまし た。

それに対してあなたは「私は宗教ではなく安全保障の話をしているのだ」と言い返しました。あなたの論理では、「イスラム教徒は全てテロリストだからアメリ カ に入国させない。それが安全保障だ」というものです。あなたの立ち位置から見た場合、その主張は間違っていません。間違いどころか正論です。

しかしながら、彼らの入国を禁止するだけではあなたの安全保障政策は完成しません。あなたはそこからさらに十歩も二十歩も進んで、アメリカ国内のムスリム、つまりイスラム教徒の米国人も排斥しなければならないのです。


安全保障を完璧にするべき

なぜなら、彼らはあなたへの反発と憎しみを蓄え募らせてていくのが目に見えています。特に若者の中にはあなたに反撃をする者が現れるに違いない。いわゆるホームグロウン(国内出身)テロリストの誕生ですね。それが安全保障への最大の脅威です。

あなたはそれを取り除かなければならない。そうですね、米国人イスラム教徒を弾圧し、できれば全員抹殺してしまう方がいいでしょう。あなたは過激派組織 IS(イスラム国)への対応として、組織の戦闘員を徹底的に殲滅するばかりではなく、その家族も葬り去るべきとも断言しています。

家族まで殺戮の対象にするとは驚きですが、さすがはトランプさん。あなたはそこでも全く“ぶれて”いません。ムスリムは皆殺しにしろ、と暗に示唆するような勝利の方程式をしっかりと維持しています。そんなあなたにとっては、イスラム教徒の同胞を抹殺することなどきっと朝飯前でしょう。

あなたはそうやって米国内のムスリムを一掃して安全保障を揺るぎないものにし、ついでに黄色人種や黒人や同性愛者などの全てのマイノリティーも排斥して、 歴史に燦然と輝く偉業「我が闘争」を完成させることになるでしょう。その次には再び歴史にならって、あなたの仕事を本にします。タイトル は、そうですね、『新・我が闘争』あたりで決まりでしょうか。

敬具


トランプさんがもしも天地をひっくり返したならば

トランプ猫

米・ニューハンプシャーの大統領予備選で「有力泡沫候補」のトランプさんが2位以下に大きく水をあけて勝った。

すると、やっぱり彼の人気は本物だ、このまま共和党の指名を受ける可能性が高い、などと強気になる人々が増えた。

ここまでトランプさんに対してさんざん否定的なことを言ったり書いたりしてきた僕にも、間違いましたね、大丈夫ですか、などとコメントが寄せられた。

僕はまだ間違っていないし、彼は大統領にはなれないというこれまでの自分の考えを変えてもいない。まったく大丈夫である。

トランプさんの人気はもともと本物だ。ヘイトスピーチ以外のなにものでもない彼の言葉を愛し、偏見や人種差別に拍手喝采する者は多い。

僕は彼の人気が偽物などと考えたことはない。彼の危険思想を斥ける力が米国民にはあるから、彼の人気がアメリカの大半に広がることはない、と信じているだけである。

天地がひっくり返ってトランプさんが合衆国大統領に選ばれたなら、それは米民主主義の大いなる変質であり終わりだ、というのが僕の思いだ。

米大統領選にはゲームの要素が強くあって、勢いに乗った候補者があれよという間にさらなる旋風を呼び込んで突っ走ることがある。

最近の例で言えば、一期目のオバマ旋風がそうであり‘80年のレーガン旋風もそうだ。彼ら2人はしかし、少なくとも「まとも」な候補者だった。

あるいはアメリカの良心の内にいる候補者だった。彼らは差別と不寛容と憎悪を旗印に選挙戦を進めたりはしなかった。

もしも天地がひっくり返ったとしよう。

ならば僕はどうするか。

言うまでもなく、ほぼ無力に等しい全くの微力ながら、ひっくり返った天地を元に戻そうと戦う欧米や日本やその他の世界のあらゆる良識と共に抗う・・

というのは少し大仰に過ぎるけれども・・・

トランプさんが主張の軌道修正をしないまま、つまり米国世論が彼の極論をそのまま受け入れてトランプ大統領が誕生するならば、世界の多くの人々は競って反米国の旗印の下に集結することになるのではないか、と密かに思ってはいる。


米大統領予備選~さてトランプさんは坂道を転がるのか踏みとどまるか~



今日(2月9日)は米大統領選、ニューハンプシャー州の予備選挙の日。民主党、共和党とあるが、気になるのは共和党の動静。オサワガセ候補のトランプさん。

民主党はクリントン、サンダース両氏に絞られたが、共和党は複数の候補者のうち、極論者のトランプさんが相変わらず騒いでいる。

初戦のアイオワ州でまさかの敗退を喫したものの、各種世論調査ではトランプ候補は依然としてトップの人気を保ったまま。

またアイオワ州では、マルコ・ルビオ候補が僅差の3位に付けて、すわ本命アラワルか、と多くの人々(僕もそのうちの1人)をおどろかせた。

ところが彼は、6日に行われたテレビ討論会で他の候補者に政治家経験の少なさを責められて、まさかの立ち往生。

経験の少なさとは、つまり若いということで、若さを責めるのは老人の得意技なのだから「ローガイはダマッテロ」などと言い返せば良いものを、しどろもどろになってミソをつけてしまった。

米大統領選の面白さは、各候補が予備選を含む長い選挙戦を通して「大統領としての資質」を徐々にシビアにしつこく問われ試されて、ある者は成長しある者は脱落していく過程だ。

今回の共和党に限って言えば、初戦でトランプさんが負けたのは彼のエキセントリックな主張が最初のふるいに掛けられたことを意味する。

一方、ルビオ上院議員は6日の討論会で、公衆の面前で痛いところを突かれて冷静に対応できるか否か、のふるいに掛けられた。

トランプさんの主張をエキセントリックと見るか、ルビオさんを若くて動揺しやすいと見るかは、おそらく見る者の主観によって違うだろう。

それでも、米大統領という世界最強最大の権力者はできれば極論者であってはならず、かつ沈着冷静であるほうが望ましい、というのは人々の最大公約数的な思いだろうから、ふるいに掛けるのは良いことなのである。

事前の神経戦を経て投票・選択が行われるニューハンプシャー州では、トランプ氏の勝敗の行方に加えてルビオ候補の戦い振りに注目が集まっている。

アイオワ州で勝ったクルーズ氏は、どちらかといえばトランプ氏に似た異端候補であり、ルビオ氏は主流派である。ひと言でいえば、民主・共和両党共に異端対主流派の戦いが予備選の常だ。

共和党の複数の主流派候補らは、最終的には1人に絞られて全員がその1人を支持する方に回る、と考えられる。その1人がルビオさんになるのかそれとも他の候補なのか、という点が興味深い。

主流派が一つにまとまれば、異端のトランプ、クルーズ両候補の戦いは厳しくなる。僕がトランプ候補を「有力な泡沫候補」と呼ぶのは、数字に裏付けされたその現実があるからだ。

同時に僕は、欧米社会が知恵と民主主義によって少しづつ獲得し現在も獲得する努力を続けている、自由と寛容と平等の精神に楯突くトランプ氏には嫌悪感を覚える。

彼の主張はフランスのルペン女史や日本のネトウヨや民族主義者らのヘイトスピーチと同じものであり、ナチスやファシストや日本軍国主義など、過去の亡霊とも手を結ぶ危険な代物だ。

僕は先に「米大統領選の面白さ」と言った。面白さとは重要性ということだ。米大統領に誰が選ばれるかは、好むと好まざるにかかわらず世界中のわれわれに等しく影響する。

いったい誰が次の合衆国大統領になるのか。そして彼はあるいは彼女はどんな考えで超大国の舵取りをしようとしているのかを監視するのは、自国のそれに対するのと同じ程度の意味さえ持つと考えるのである。




さては坂道を転がり始めたトランプさん?



2月1日、米大統領を選ぶ予備選挙が始まった。米50州の先頭を切ってアイオワ州で民主党と共和党の候補者選択が行われ、共和党では事前の予想を覆してドナルド・トランプ氏が敗れた。

勝ったのは保守強硬派とされるテッド・クルーズ氏。また保守本流といわれるマルコ・ルビオ氏がトランプ氏から僅差で3位に入った。ルビオ氏は選挙前には、大きく引き離されての3番手という予測だったから、これも番狂わせと言えるだろう。

トランプ氏が負けたことは驚きではない。彼が快進撃を続けていた昨年から僕は彼が最終的には失速すると見てきた。それは第一回目のアイオワで始まる可能性が大いにあると思った。僕に先見の明があったのではない。過去のアメリカの大統領選挙では普通に起こったことだからだ。

事前の討論や選挙運動を通して優勢だった候補がアイオワ州で躓いたり、逆にそこでの勝利をきっかけに快進撃を続けて候補指名を受け、大統領にまでなるケースが良くある。

例えば2008年には民主党の最有力候補と見られたヒラリー・クリントン氏が、現大統領のバラック・オバマに敗北してそのまま沈んだ。逆に言えばオバマ候補は、アイオワで勝って「オバマ旋風」を巻き起こし、最終的に勝利して第44代アメリカ合衆国大統領になった。

共和党のトランプ氏がアイオワで負けたのは、彼の勢いの終焉が近づいたのだろうと思う。人種差別や排外思想を振りかざす彼を、米国の良心が必ずブロックすると確信するからだ。

民主党は圧倒的に強いと見られたヒラリー・クリントン氏が、僅差ともいえないほどのわずかな差で左派のサンダース氏に勝った。サンダース氏の追い上げはすさまじく、こちらも番狂わせ並みの結果で、民主党のレースも分からなくなった。

ただクリントン氏は、紙一重の差とはいえアイオワ州で勝利を収めたことで、2008年の悪夢から覚めて、メール問題ほかの障害を抱えつつも、今後快進撃を始めるかもしれない。

共和党も最終的に誰が候補に選出されるかは分からない。が、トランプ、クルーズ、ルビオの3氏の争いに絞られた、とは言えるだろう。トランプ氏はそこで突然、最も脆弱な候補になったように見える。

クルーズ氏はアイオワ州での勝利を目指して何年も前から地道に選挙運動を続けてきた。そこが重要な場所だと知っていたからだ。彼は今回の勝利を足がかりに共和党候補になるかもしれない。

だが、事前には注目度が低かった若手のルビオ氏の突然の台頭も見逃せない。彼はいわゆる保守の主流派だ。あるいはルビオ氏がアイオワ州での番狂わせの最大の享受者、つまり最終的な勝者となる可能性も大いにある。

ここまではトランプ氏が、共和党のいわゆる主流支配層に楯突く極論を振りかざして同党内で支持を集めてきた。が、いよいよ風向きが変わったように見える。

再び、共和党では誰が勝つかは分からない。だが、トランプ氏が負けることは間違いない、と僕は相変わらず考えている。天地がひっくり返ってトランプ氏が共和党で勝っても、彼は決戦では民主党候補に敗れるだろう。

しかし、トランプ氏以外の候補者が共和党で選出された場合には、民主党候補を破って大統領になる可能性はもちろん十分にあると思う。つまり、「まともな」候補者同士の戦いでは民主・共和両党ともに互角だ。

それどころか、保守本流を自他共に認めるルビオ氏が共和党候補になって、たとえば民主党の相手がクリントン氏になった場合には、むしろ彼の方が有利である可能性が高い。

なぜなら「弱いアメリカ」を演出してきたオバマ民主党政権への反発は米国内に強いと考えられ、そのオバマ政権の後継と見られるクリントン氏に逆風が吹きつける可能性は決して低くないからだ。




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