【テレビ屋】なかそね則のイタリア通信

方程式【もしかして(日本+イタリ ア)÷2=理想郷?】の解読法を探しています。

米大統領選・2016

トランプもルペンも危険だから大いに語られるべきだが、騒ぎ過ぎは愚かだ



米大統領選、共和党の「有力泡沫候補」ドナルド・トランプ氏は、イスラム教徒排斥発言の後、アイオワ州で支持率を落として初めて2位になったものの、共和党支持層全体では支持率を40%に上げるなど、相変わらず快進撃を続けている。

一方、トランプ氏と同様にイスラムフォビア(嫌悪、恐怖)を煽って、フランスで支持率を伸ばしている極右の国民戦線(FN)は、12月6日に行われた地方選挙の第1回投票で、過去最高となる28%の全国得票率を得て13の選挙区のうち6選挙区で首位を奪う躍進を見せた。同党は、11月に起きたパリ同時多発テロ事件への恐怖やイスラムフォビア(嫌悪)の広がりと、長引く経済不振への国民の怒りなどをうまく利用して大幅に支持を広げている。

しかし幸いにも、第2回決選投票では、得票率は伸ばしたものの、どの地域でもトップになれない完全敗北を喫した。極右政党の進撃に不安を覚えた大勢の有権者が反対票を投じたのである。ここにフランス民主主義の健全と国民の良識がある。

ルペン氏と国民戦線にとっては期待外れの選挙結果だった。しかし、それを彼女の敗北と見なすことは決してできない。それというのも決戦となった第2回投票では、第1回目よりもほぼ80万人も多いおよそ700万人の有権者が国民戦線(FN)に投票したからだ。

ルペン氏は実は敗北とはとても言いがたい支持率を 維持している。数字を見る限り彼女は、依然として2017年フランス大統領選で決選投票まで残る可能性が高い強い存在である。ルペン氏こそ真の脅威だ。その脅威の度合いは国民戦線という政党とルペン氏が一心同体とも言える存在であること、またその政党が他の欧州国の右翼勢力と手を結ぶ可能性があること、などを考えた場合には極めて大きくなる。

ルペン氏の脅威とは言葉を替えれば、自由と平等と寛容と博愛を標榜する欧米の民主主義に対する恐怖だ。彼女は排外ナショナリズム と不寛容と反イスラム主義を、あたかもその反語でもあるかのような狡猾な言葉のオブラートで包みソフトにし誤魔化して、大衆の不安と恐怖心と悲哀につけ込んで票を伸ばしている。

それに比較するとトランプ氏の危険度は、彼の人気が政党ではなく個人としてのそれである点で低いと言える。しかし、天地がひっくり返って(トランプ氏が大統領になる可能性はゼロという意味で僕はこの表現を多用している)彼がアメリカ大統領になった場合には、地上最強の権力者が排外主義者、人種差別主義者、ファシストであるという意味で最大の危険であることは言うまでもない。

僕は欧州や米国の民主主義と、寛容の精神と、自由博愛の哲学を強く信じ支持する者である。先の欧州議会選挙で英仏ギリシャなどの右翼勢力が躍進した時も、それが一時的な抗議を意味する現象であって欧州の悪への変革を意味するものではないことを信じて疑わなかった

現在のルペン氏とトランプ氏の人気振りについても、彼らが目立つことで極右勢力が勢いづき且つそれに影響さ れる狭隘な精神を持つ人々が排外思想に染まる危険はあるものの、欧州にはそれをはるかに凌ぐ良識の蓄えと民主主義の伝統があるので、最終的には何も問題はないと考えている。

むしろそれらの危険思想は、それ自体が力を得ることで自由と寛容と民主主義を信じる欧州の圧倒的多数の人々の心に警鐘を鳴らし、彼らの信条の再確認を急かす力となって行く。

欧州が長い時間をかけて培ってきた民主主義の精神は、近年ナチズムとファシズムによって蹂躙された。欧州は世界大戦という巨大な犠牲を払って再びそれを取り返した。そこから生まれる自信と誇 りは、欧州が他の自由主義国と共に成し遂げたその偉業の恩恵にあずかって、民主主義を享受している「浅い民主主義社会」の、たとえば日本人などには中々理解できないものである。

そのために、欧州の排外主義右翼やナチズムやファシズム勢力の少しの興隆があると、日本人ジャーナリストなどが必ずこの世の終わりとばかりに大騒ぎをし、欧州 の堅牢な民主主義哲学を知らない日本の読者がこれに踊らされる、という現象が頻繁に起こる。

報道は犬が人間に噛み付くことではなく、人間が犬に噛み付くことのみを拡大強調して報告する。ト ランプ氏やルペン氏の話がメディアに取り上げられるのは、それが異常な出来事、つまり人間が犬に噛み付いている事案だからだ。それは逆に言えば、欧州の大勢が彼らとは相容れない民主主義思想の中で息づいていることに他ならない。

トランプ氏やルペン氏は、欧州の民主主義と寛容の精 神と自由博愛の哲学に挑む危険思想を撒き散らすことで、欧州のそれらの思想信条を呼び覚まして堅牢にし、さらに拡大させる効果を持つ。従って彼らの危険思想と危険思想の影響を語り続けるのは極めて重要なことである。しかし、そこばかりを見つめて騒ぎ立てるのはまた、一切語らない場合と同じ程度に愚かである。


アメリカの底力がトランプ大統領の誕生を阻止する



米大統領選候補ドナルド・トランプ氏の「イスラム教徒の米国入国を禁止するべき」という発言を巡っては、世界中で多くの非難と、同時に少数の支持説も噴出して入り乱れ、それ自体がトランプ氏の選挙キャンペーンに資する事態が起こっている。悪態と挑発と怒りを振りまいて話題になることが氏の狙いだ。

トランプ氏は自身が所属する共和党の主流支配階級に真っ向から立ちむかって、これまでのところ他の複数の候補を凌駕しまくっている。そのことに敬意を表して、最終的には決して勝利者にはなれないという意味で実像はあくまでも泡沫候補である氏を、僕は敢えて「有力泡沫候補」と呼ぶことにする。

有力泡沫候補のトランプ氏は、綿密に計算した選挙キャンペーンの戦略に基づいて、下品で粗野で愚劣な発言を繰り返している、と主張する人々もいる。果たしてそうなのだろうか。品性が下劣なのはトランプ氏の資質であり、選挙戦略とは関係がないと僕は思う。トランプ氏を過剰評価するのはアメリカの、ひいては欧米の民主主義の底力を知らない者の間違った見方だ。

確かに彼は共和党の候補指名獲得レースで首位を走っている。11月の段階で共和党支持層の30%強の支持を集めて、2位のベ ン・カーソン氏を10%以上引き離している。その後に支持率8%のルビオ・フロリダ州上院議員、同7%の元フロリダ州知事ブッシュ氏が続き、さらに数人の候補が続くという構図である。

そうした状況を指して、共和党は支持者に大きな影響を与える力がなくなっており、米国の2大政党制はもはや機能していない、と結論付ける者もいる。しかし、トランプ氏を最終的に阻止するのは政党(共和党)の思惑や倫理や縛りではなく、アメリカの有権者であり大衆である。

今後20%の支持率を上乗せすれば、トランプ氏が共和党の候補に指名されるのは数字上は可能だ。今回のイスラム教徒の排斥発言と同様に、彼の言動が馬鹿げていると見られれば見られるほど、トランプ氏の支持率が上昇するのでもあるかのような現象もまだ終わる気配はない。

破天荒な言動で炎上を繰り返している間は、トランプ氏はメディアの注目を集めて報道され続けるだろう。支持率も中々下がらないかもしれない。だがそれが確実に上昇して行くともまた言えないのだ。これまでのところは他の候補への支持率が低く、彼らのキャンペーンも地味だからトランプ氏だけが目立つ結果になっている。

だが年が明けて共和党候補指名レースが佳境に入れば、参入している候補者の数は漸減して行く。そうなれば今は割れている反トランプ票が、ひとつにまとまって勢いを増すと考えられる。その票が誰に集まるかは不透明だが、トランプ氏だけが1人勝ちしている状況は尻すぼみになり、彼の戦いは厳しくなると見るのが妥当だ。

再び数字的に見れば実は、共和党支持層のうち56%がトランプ氏以外の候補者を支持すると答え、13%がどの候補者を支持するか決めかねている、としている。つまりほぼ70%がトランプ氏を支持していないことになる。その割合は彼の支持者がほぼ30%という数字にも符合する。

今後トランプ氏が支持を増やして行く可能性はもちろんあるが、米国民の良識と堅固な民主主義哲学を信じている僕は、彼は決して指名獲得レースには勝てないと予測する。数字のみを見て言うのではない。かつて米国に住み、米国人と仕事をし、今も彼らと付き合いつつ欧州から米国の動向を逐一見ている僕の個人的な見方だ。米国の民主主義と開明と寛容と、そこに立脚した差別や偏見や抑圧に立ち向かう強さを見くびってはならない。

トランプ氏が共和党の指名を受けるなら、共和党は死んだも同然だ。だが万が一そんなことが起こっても、彼は必ず民主党候補に負ける。もしその逆が起こるなら、日本も欧州も世界も死ぬ。なぜならアメリカが死ねば民主主義が死ぬからだ。民主主義が死ねば、日本も欧州もその他のまともな世界も一斉に崩壊する。

トランプ氏に理があり彼がアメリカ大統領になっても不思議ではないと考えるのは、例えばアメリカは「世界一の人種差別国だ」と主張するのにも等しい浅薄な思考だ。なぜならアメリカ合衆国は地球上でもっとも人種差別が少ない国だからだ。これは皮肉や言葉の遊びではない。奇を衒(てら)おうとしているのでもない。これまで多くの国に住み仕事をし旅も見聞もしてきた、僕自身の実体験から導き出した結論だ。

米国の人種差別が世界で一番ひどいように見えるのは、米国民が人種差別と激しく闘っているからだ。問題を隠さずに話し合い、悩み、解決しようと努力をしているからだ。断固として差別に立ち向かう彼らの姿は、日々ニュースになって世界中を駆け巡って目立つために、あたかも米国が人種差別の巣窟のように見える。

だがそうではない。自由と平等と機会の均等を求めて人種差別と闘い続け、絶えず前進しているのがアメリカという国だ。長い苦しい闘争の末に勝ち取った、米国の進歩と希望の象徴が、黒人のバラック・オバマ大統領の誕生であることは言うまでもない。

米国より先に奴隷制度を廃した英国を始めとする欧州諸国には、未だ黒人首脳が誕生する気配すらない。僕の住むここイタリアに至っては、2013年に史上初の黒人閣僚が誕生した際、右翼や排外主義者による同大臣へのあからさまな、しつこい人種差別言動が問題になったような有り様だ。

わが日本はどうか。そこでは残念ながら外見もほとんど違わず文化習慣も近い在日韓国・朝鮮人は言うまでもなく、中国人も差別する。しかも差別がない振りさえする。差別に気づかない者さえ多々いる。今後、世界中から肌の色も風習も何もかも違う移民が大幅に増えた時、いかなる差別社会が生まれるのか、考えただけでもぞっとする。

希望の国アメリカは、人種差別も不平等も格差も依然として多い。それは紛れもない現実だ。だがアメリカは、今この時のアメリカが素晴らしいのではない。米国の開放された良識ある人々が、アメリカはこうでありたいと願い、それに向かって前進しようとする「理想のアメリカ」が素晴らしいのである。そのアメリカで、差別と不寛容と憎悪を煽る手法で選挙戦を進めるトランプ氏が大統領になることなどあり得ない。またあってはならない。

アメリカを筆頭にする西洋民主主義体制とそれを支える自由と寛容と博愛の哲学は、直近の出来事を例に取ればナチスドイツやファシズムを撃滅した強い意志と勇気と良心によって支えられている。それは彼らを遠巻きに眺めてあれこれ吟味をする、例えば日本のそれなどとは実力が違い底力が違い迫力が違う。トランプ氏のような軽佻なポピュリストが、その牙城を突き崩すのは容易なことではないのである。



イスラム教徒への公開状~トランプ氏は皆さんの味方です~



米大統領選に立候補しているお笑い芸人のドナルド・トランプ氏が、イスラム教徒の皆さんの米国入国を禁止するべき、と発言してまた笑いを取ろうとしましたが、突然「いや、もはやこれは笑い話ではない、宗教の自由と寛容と多様性を重んじるアメリカの民主主義に反する」などという批判が噴出して、上を下への騒ぎになっていますね。

メディアがトランプ氏の発言内容を問題視して騒ぐのは重要なことです。なぜなら彼の発言の内容はイスラム教徒を貶めるものですし、偏見や差別や不寛容を奨励しかねない危険思想だからです。アメリカを始めとする世界のメディアは、これまで彼の品性下劣な暴言や罵倒や失言を半ば面白がりながら伝えていました。しかし、今回の発言は「越えてはならない一線を越えた」ものと見なして、一斉に深刻な表情になって氏を批判しています。

メディアの豹変ぶりは見事ですしまた正しい態度だと私は思います。同時多発テロの被害者であるフランスやイギリスのトップも、イスラエルのネタニヤフ首相でさえトランプ氏の発言を糾弾しています。それらにも賛成です。しかし私は、イスラム教徒の皆さんには、決して過剰反応をすることなく、相変わらずのお笑い発言だとみなして泰然としている方がベスト、とアドバイスをしたいと思います。

なぜならトランプ氏の発言は、今述べたように差別や抑圧につながる危険且つ汚れたものであると同時に、やはり馬鹿げたお笑い芸人の「お笑い発言」の域を出ないものだと考えるからです。そんな言葉に過剰に反応するのは、「イスラム国(IS)」の思う壺にはまることです。トランプ氏の発言の深刻な側面は、メディアの批判と管轄にまかせて、当事者のイスラム教徒の皆さんは静観した方が良いと思うのです。

トランプ氏の声高な呆れた主張は、いわゆる「能無しの高吼え」 です。吼える犬がめったに噛みつかないのと同じで、よほどのことがない限り実力行使には至りません。なぜならその実力が無いから。彼はその実力もないのに過激な発言をするから注目されているだけです。もちろんこの先に天地がひっくり返って、彼がアメリカ大統領に選ばれれば話は別ですが。

彼が当選するような事態は天地がひっくり返るほどの事件だと私は思います。もしもそんなことになった場合は、民主主義大国アメリカが崩壊する時ですから、もはや差別も偏見も自由も正義もありません。世界中のわれわれは等しく「イスラム国(IS)」の支配下に入って、恐怖と絶望と暗黒の中で生きる毎日を強いられていることでしょう。

しかしながらトランプ氏の主張に賛同したり影響されたりする愚者は必ずいます。その意味では彼の発言は封じられた方がいい。しかし、言論封殺は民主主義社会では断じて受け入れられません。従って彼は今後も同様の愚劣な発言を続ける可能性があります。その時も皆さんは静観した方がいい。もちろん昨今の皆さんの受難、特に欧米社会において頭をもたげつつあるイスラムフォビア(嫌悪)や、従来から蔓延する偏見や差別に対しては断固として抗議の声を上げ行動するべきです。

だがトランプ発言のような、馬鹿げた、且つ皆さんが黙っていてもメディアが騒いでくれるような事案には口を噤んだ方がいいのです。なぜなら彼の発言は数字で言えば1割の賛同者を呼ぶネガティブな影響があるかもしれませんが、うまくいけば9割の人々に問題や論点を知らしめ反省を促す効果もあります。そうした効果はメディアが騒げば騒ぐ程大きくなり、さらにポジティブに働きます。

もう一つ例を挙げます。「イスラム国(IS)」は中東で殺戮を繰り返すという悪事を働くと同時に、彼らとイスラム教徒が同じものでもあるかのような誤解と錯覚を世界中に与えました。今も与え続けています。しかし、彼らはまた彼らの悪を撒き散らすことで、その悪を生んだ欧米の身勝手な歴史とイスラム教徒やイスラム系移民が置かれた理不尽な立場に世界の人々の目を向けさせる、という極めて有意義な役割も果たしました。トランプ発言にはそれと似た効用もあります。彼の馬鹿げた発言は皆さんの味方でもあるのです。私はイスラム教徒の皆さんと連帯していくことをここで表明すると同時に、ドナルド・トランプさんありがとう、と心の中で言おうとさえ思います。

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