英国はBrexitでEUから去ってもむろん孤独ではない。当のEUをはじめとして世界には英国を友人と認める国々がいくらでもある。だがここではEUの枠を抜け出した英国を、EUとの対比で敢えて「お一人さま」と呼んでみた。
Brexitを最大の争点にした総選挙で、離脱強行派のボリス・ジョンソン首相率いる保守党が圧勝した。長い間のBrexit騒動はこれで終わり 、英国はEU枠外に去ることがほぼ確定した。
EUを離れても、もちろん英国は、政治・経済・社会・文化の成熟した世界一の民主主義大国として、あらゆる面でうまくやっていくだろう。
離脱後しばらくの間は、通商に関するEUとの厳しい交渉や、混乱や不利益や停滞も必ずあるだろうが、それらは英国の自主独立を妨げない。
英国の自主独立の精神は、かつての大英帝国の夢の残滓がからみついた驕り、としばしばEU域内の人々の目に映ってしまうことがある。
そこには真実のかけらがある。だが、過去の栄光にしがみつく気分がもたらす常在の慢心はさて置き、英国民の我が道を行くという自恃の精神は本物でありすばらしい。
その英国民の選択は尊重されるべきものだが、総選挙をBrexitへと先導したジョンソン首相の求心力は長くは続かないと思う。
しかしながら僕は、過去にトランプ大統領の誕生を非現実的と見誤り、彼が大統領に就任してからは、不人気で無能な大統領になると予測してスベリまくった。
その流れで今回は、トランプ大統領と親和的な政治心情を持つジョンソン首相に対する批判心から、バイアスのかかった見方になっている可能性がある。
そこでここでは、「総選挙前までのジョンソン首相の在り方のままなら、彼の求心力は長くはもたないと考えるのが常識的だろうが」と言い直しておきたい。
EU域内の欧州大陸側にいると、英国やアイルランドといった島国の様子が客観的に見えてくる。それは日本やアメリカほかの国々が客観的に見える状況と同じで愉快だ。
また同じ大陸内とはいえ、EU各国をはじめとする欧州の国々も客体的 に眺めることができる。同時に自らが住むイタリアという国自体も、「日本人という外国人」の目で中立的に見ることができる、という気がしている。
そんな視点で見る今後の英国には、力強さとともに不安で心もとない側面もある、と強く思う。その最たるものは連合王国としてのイギリスの結束の行く末だ。
イギリスは周知のようにイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド から成る連合王国だが、Brexitによって連合の堅実性が怪しくなってきた。
特にスコットランドは、かねてから独立志向が強いところにもってきて、住民の多くがEU残留を求めているから、今後は独立へ向けての運動が活発化する可能性がある。
また北アイルランドも、地続きで兄弟国のアイルランドと、いわば宗主国であるイングランドとの間で揺れ動き、不安定な政情に陥るかもしれない。
ジョンソン首相には連合王国をまとめて行くカリスマ性と求心力はない。彼はむしろ分断を煽ることで政治力を発揮する独断専行型の政治家だ。
Brexitのように2分化された民意が正面からぶつかる政治状況では、独断専行が図に当たれば今回の総選挙のように大きな勝ちを収めることができる。
つまり一方をけしかけて、さらに分断を鼓舞して勝ち馬に乗るのだ。その手法は融和団結とは真逆のコンセプトだ。彼が今後、連合王国を束ねることができると見るのは難しい。
僕は繰り返し書いているように英国のファンである。民主主義大国の英国は、連合王国として常に結束して、世界に民主主義の良さと強さを明示し続けてほしいと願ってきた。
その意味でスコットランドの独立にも僕は反対を唱えてきた。スコットランドが独立すれば英国が弱くなり、それよりもさらに惰弱な小国が生まれるに過ぎない。それは世界の民主主義にとってはネガティブな出来事だ。
英国はEUの中に留まって、EUの「民主主義力」を支え同一化して共に繁栄してほしい、と常々願ってきた。だがその願いは今回の総選挙で粉々に破壊された。
そうなってしまった今、僕はスコットランドの独立をむしろ期待する。なぜならスコットランドは英国から独立することでEUに留まる、あるいは参加することができる。それはEUの強化につながる。
僕はEU外に去る、強くて尊重できる、だが愚かな国でもある英国よりも、EUの結束と拡大と、従って政治力の増大にも資するスコットランドの独立を支持する。
英国の繁栄を願う気持ちに変わりはないが、世界の民主主義にとっては、残念ながら、英国よりもEUの結束と強化の方がはるかに重要だと考えるからだ。
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