米国議会議事堂へ殴りこむよう支持者を教唆したトランプ大統領は万死に値する。だが例によって、統計上はアメリカ国民の半数近くはそうは考えていない。支持者らの暴力行為には眉をひそめても、トランプ大統領を支持するアメリカ国民は依然として多いのだ。
アメリカはもはや民主主義国家の理想でもなければ世界をリードする自由の象徴国でもない。ネトウヨヘイト系排外差別主義者とそれを否定しない国民が半数を占める、「普通の国」に過ぎない。だからトランプ大統領が誕生したのだ。彼がアメリカを作り変えたのではない。
むろんトランプ大統領の存在は、自由と寛容と人権と民主主義を死守しようとする「理想のアメリカ」の信奉者をくじき、右派ポピュリズムに抱き込まれた人々を勢いづかせた。そうやって悪のトレンドは過去4年間ひたすら加速し続けた。
アメリカほど暴力的ではないが、ネトウヨヘイト系排外差別主義者とそれを否定しない国民が半数を近くを占める普通の国は、欧州を始め世界中に多い。ここイタリアもフランスもイギリスも、そして日本もそんな国だ。南米にも多い。
アメリカ以外では、トランプ登場以前の良識や政治的正義主義(ポリティカルコレクトネス)が一見優位を占めるような空気がまだある。そのためアメリカで起きている無残な政治的動乱は対岸の火事のようにも見える。
だがイギリスには保守ポピュリストのBrexit信奉者がいて、フランスには極右のル・ペン支持者がいる。ここイタリアにおいては、極右の同盟支持者とそれに同調する反EU勢力を合わせると、国民のほぼ半数に相当する。それらの人々は、あからさまに表明はしなくても心情的にはトランプ支持者と親和的である。
さらに言えば、普通の国のそれらの右派勢力は―彼らがいかに否定しようとも―どちらかと言えば中国やロシアや北朝鮮などの独裁勢力とも親和的なリピドーを体中に秘めている。ネトウヨヘイト系排外差別主義はほぼ独裁思想なのである。
そうは言うものの、アメリカに関して言えばトランプ支持者また共和党支持者に対抗する民主党も、彼らの対抗者と同様に危なっかしい。成立する見込みのないトランプ大統領弾劾決議案を、ここで再び出したことは何とかの一つ覚え的だ。
絶望的な上院での3分の2の賛成を目指すのではなく、民主党がかすかに過半数を占めることになる1月20日以降に狙いを定めて、上院の過半数の決議でできるトランプ公職追放に狙いを定めているとも言われる。
それならば理解できる。だがその場合でも、共和党とトランプ支持者らの激しい反発を招いて、アメリカ国民の融和と癒しはますます遠ざかるだろう。リスクに見合うだけの意義があるかどうかは不明だ。
もっとも既述したように、アメリカはネトウヨヘイト系排外差別主義者とそれを否定しない国民が半数を近くを占める国なのだから、いずれにしても今後しばらくの間は、分断と対立と不穏が渦巻く社会であり続けるだろうが。
トランプ時代への反動という一面があるにせよ、民主党の施策も極端な動きが目立つ。政権の広報担当者を全員女性で固める策などがその典型だ。どっちもどっちなのである。
トランプ大統領は2016年、差別や憎しみや不寛容や偏見を隠さずに、汚い言葉を使って口に出しても構わないと考え、そのように選挙運動を展開して米国民のおよそ半数の共感を得た。
そして前述のようにネトウヨヘイト系差別主義や右派ポピュリズムは、米国のみならず世界のほぼ半数の人々が隠し持つ暗部であることが明らかになりつつある。いや、明らかになった、と言うほうがより正確だろう。
トランプ大統領の、大統領にあるまじき人格下種と差別思想はあくまでも万死に値する。だが、彼の存在は、大手メディア等に代表される世界の「良識」が、実は叩けば埃が出る代物であることも暴き出した。
そしてその巨大な負の遺産を暴き出したこと自体が、世界が真の開明に向けて歩みだす「きっかけ」になるなら、あるいはわれわれは将来、彼の存在は「大いなる必要悪」だったとして再評価することになるのかもしれない。