欧州は安全保障を巡って風雲急を告げる状況になっている。
トランプ大統領が、軍事同盟であるNATOへの貢献責務を放棄する可能性をほのめかしているからだ。
特に核を持たない国々は、ロシアを見据えて不安のどん底にある。
トランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領とテレビカメラの前で前代未聞の口論を展開するなど、相も変らぬ恫喝外交を続けている。
その一方では貿易相手国に関税をかけまくると叫び、欧州から、厳密に言えばドイツから米軍を引き上げる、NATO内での核シェアリングをやめる、などとも示唆している。
その中でも、特に核シェアリング否定発言に関して敏感に反応したのが、ドイツの次期首相と目されるフリードリヒ・メルツ氏だ。
彼はドイツと欧州が、アメリカから独立した安全保障体制を構築すると同時に、NATO内の核大国である英国またフランスと核シェアリングをするべき、という旨の発言をした。
だがその本音は、ドイツ独自の核開発であり核兵器保有だろうと思う。
ドイツでは核兵器の開発保有は、それを話題にすることさえタブーであり続けてきた。日本とよく似た状況だったのだ。
だがトランプ独断専行大統領の脅しに驚愕したメルツ氏は、やすやすとそのタブーを破った。
アメリカ第一主義をかざして、欧州との長い友好関係さえ無視するトランプ大統領に、オーマイゴッド・いざ鎌倉よと慌てた欧州首脳は、メルツ氏に限らず誰もが怒りと不安を募らせている。
彼らはトランプ&ゼンレンスキー両大統領が口論した直後、ロンドンに集まって緊急会合を開き、前者が切り捨てようと目論む後者をさらに強く抱擁、ウクライナへの支持を改めて確認し合った。
友好関係を金儲け論のみで捉えるトランプ主義は、権威主義者のロシア・プーチン大統領を賛美するばかりではなく、欧米ほかの民主主義友好国を大きく貶めている。
日本も見下される国の一つだ。
今のところは欧州やカナダまたメキシコなどの国々ほどなめられてはいないが、「アメリカの同盟国」である日本を見るトランプ大統領の心情は容易に推察できる。
日本は欧州と同じく安全保障をアメリカに頼り過ぎて来た。いま日本が置かれている状況は、それぞれに「友人国同士が多い欧州内の国々」とは違う。
日本は孤立している。その意味ではむしろウクライナに近い。ウクライナにおけるロシアの代わりに、例えば中国が日本に侵攻しないとは誰にも断言できない。
日本は中国ともまたロシアとも友好的な関係を保ちつつ、アメリカに頼らない独自の安全保障も模索するべきだ。そこには核戦略が含まれても驚くべきではない。
人類の理想は核の無い世界であり戦争ゼロの世の中である。先の大戦で地獄を見ると同時に唯一の被爆国ともなった日本は、飽くまでも理想を目指すべきだ。
だが同時に国際政治にも目を配らなければならない。政治とは現実である。そこには軍備は言うまでもなく核戦略まで含まれる。
それらをタブー視しているばかりでは物事は解決しない。その善悪と、是非と、実現可能性の有無、またそれへの全面否定も含めて、日本は国民的議論を開始するべきだ。
メルツ・ドイツ次期首相の英仏との核シェアリング、ひいてはドイツ独自の核保有まで暗示した発言は、不本意ながら日本にも当て嵌まる、と見るのがつまり政治の厳しさである。